監視プロジェクトのチラシが出来ましたのでご紹介します。
裏面の「バックナンバー」は今後、更新されていきます。
2019/04/01
監視報告 No.8
監視報告 No.8 2019年4月1日
§ 米の強硬路線への回帰は誤りであり、経済制裁の段階的緩和を追求する方向へ方針転換すべきである。
§ 米の強硬路線への回帰は誤りであり、経済制裁の段階的緩和を追求する方向へ方針転換すべきである。
2月27-28日にハノイで開催された2回目の米朝首脳会談が不調に終わって以来、朝鮮半島をめぐる情勢に悪化の兆しが見えている。
米国の外交方針において、強硬路線の復活がみられる。会談から一週間後の3月7日に米国務省で開かれた特別ブリーフィングにおいて、国務省高官は次のように段階的非核化を否定する方針を明確にした。[注1]
記者の質問:北朝鮮交渉に関するトランプ大統領の顧問団にはいろいろなメンバーがいますが、大統領がハノイで最終的にとったオール・オア・ナッシング戦略に全員が同意していたと自信をもって言えますか?というのは、サミットに至る数週間の間に顧問団の中の他の人たちが主張していたようなステップ・バイ・ステップのアプローチをとらないという大統領の決定について、ボルトン氏がもっとも大きな影響力を持ったのではないかと、私には思えるからです。
国務省高官:政権内にはステップ・バイ・ステップのアプローチを主張する者は一人もいません。どの場合にも、目指すものは、他の全てのステップがとられるための条件としての北朝鮮の完全な非核化です。長期間にわたる段階的なアプローチをとるというのは過去の交渉の大きな特徴でした。正直言って、これまでの場合、それは双方が少なくとも表面上約束した結果を生むのに失敗してきました。1994年枠組み条約の交渉も6か国協議もそうでしょう。したがって我々は別のやり方をしようとしています。大統領は、もし北朝鮮がすべての大量破壊兵器と運搬手段を放棄するなら、北朝鮮をこの方向にもってゆくよう個人的に力を注ぐことを金委員長に十分に明確にしてきました。
国務省高官:政権内にはステップ・バイ・ステップのアプローチを主張する者は一人もいません。どの場合にも、目指すものは、他の全てのステップがとられるための条件としての北朝鮮の完全な非核化です。長期間にわたる段階的なアプローチをとるというのは過去の交渉の大きな特徴でした。正直言って、これまでの場合、それは双方が少なくとも表面上約束した結果を生むのに失敗してきました。1994年枠組み条約の交渉も6か国協議もそうでしょう。したがって我々は別のやり方をしようとしています。大統領は、もし北朝鮮がすべての大量破壊兵器と運搬手段を放棄するなら、北朝鮮をこの方向にもってゆくよう個人的に力を注ぐことを金委員長に十分に明確にしてきました。
このようにして、トランプ政権が一致して段階的アプローチはとらないという方針が明確にされた。しかも、その理由として過去の交渉の失敗は段階的アプローチをとったせいであるという、根拠のない理由を掲げた。この方針は、監視報告5で紹介したスチーブン・ビーガン米北朝鮮問題特別代表のスタンフォードにおける演説の論調と異なる。
しかし、ビーガン自身、3月11日、カーネギー国際平和財団主催の核政策会議に登場して、この国務省高官の発言を再確認した。ビーガンとの対話のファシリテーターであったニューヨークタイムズのヘレン・クーパー国防総省特派員が、ビーガン自身のスタンフォードにおける発言と、上記の国務長官の発言の両方を対比しながら引用して、「どちらなのですか?」と質問した。ビーガンは「私には、(2つの発言の間の)意味の違いが分からない」と応えつつ、次のように結論した。[注2]
「我々は、非核化を段階的に進めるつもりはない。大統領はこのことをはっきりしてきたし、これは米国政府の一致した立場だ。…我々の立場は、北朝鮮の大量破壊兵器計画の全体に対して北朝鮮に課せられている経済的な圧力を、すべて解除するだろうというものだ。」
「トランプ政権は、大統領から部下に至るまで、これらの制裁を北朝鮮が非核化プロセスを完了するまで解除しないということを明確にしてきた。」
この日のビーガンの説明によると、現在のトランプ政権の対北朝鮮外交方針は次のように要約できる。シンガポール首脳会談で米朝は4つの合意をした。(1)新しい米朝関係の構築、(2)永続的、安定的な平和体制の構築、(3)朝鮮半島の完全な非核化、(4)遺骨回収の努力、の4つである。これらは相互にリンクしているので、同時並行的に進める用意がある。しかし、非核化がすべての基礎になる。非核化を一気に行えば他のことも一気に進むことを北朝鮮に説得している。「部分的な非核化に対して、経済制裁の一部解除の可能性はあるのか」という質問があったが、それにはビーガンの明確な回答はなかった。完全に否定した訳でもなかった。
3月30日にロイター通信は、トランプ大統領が金正恩委員長に手渡したという、米国の非核化要求の内容を書いた一枚の紙を入手し、独占記事を書いた。[注3]そこには北朝鮮の核兵器の核物質のすべて米国に引き渡すなどの要求が書かれていたという。それは、ボルトン米大統領特別補佐官(国家安全保障担当)が主張していたいわゆるリビア方式と呼ばれたものを想起させる内容である。考えにくいが、トランプ政権が一気に進めたいとする非核化の内容がこのようなものであったことも否定できない。
いずれにしても、「段階的でない非核化」方針は現実性のない空想に近い。米国と北朝鮮の間に容易には拭えない相互不信の長い歴史がある。そんな中で、北朝鮮が米国への唯一の戦争抑止力と考えて保有した核兵器を一気に放棄させることは、不可能であろう。このような方針にトランプ政権がこだわっているとすると、米朝交渉は歴史的な機会を失ってしまう危険がある。
3月15日、平壌においてDPRKの崔善姫外務次官が駐在外交官や海外記者を集めて会見を行った。このような危険に対する警告を発するための会見であった。AP通信、タス通信が外国記者として出席していたことが確認されている。3月25日には、韓国のインターネットメディアNEWSISが、崔次官のその時の冒頭発言のテキスト全文を入手し公表した。AP通信の記事[注4]から伝わるよりも、NEWSISのテキスト全文[注5]から伝わるものの方が、より冷静であり、その分だけ今後の交渉に余地があることを感じさせる。
崔次官の冒頭発言でもっとも重要な部分は次の一節であろう。
「(ハノイの)会談でわれわれが現実的な提案を提示したところ、トランプ大統領は合意文に『制裁を解除しても、DPRKが核活動を再開する場合には再び制裁が課せられる』という内容を含めるならば、合意が可能かも知れないという、伸縮性ある立場を取りましたが、米国務長官のポンペオやホワイトハウス国家安保補佐官のボルトンは既存の敵対感と不信の感情で、両首脳間の建設的な交渉努力に障害がもたらし、結局、今回の首脳会談では意味ある結果が出ませんでした。」
これによると、トランプ大統領は制裁の部分的解除に柔軟な姿勢を示したが、ポンペオ国務長官とボルトン特別補佐官が反対した、ということになる。
本監視報告において「米朝交渉において段階的制裁緩和」が鍵となることを繰り返して強調してきた。そのことが現実になってきた。北朝鮮は、そもそも安保理決議による北朝鮮制裁は不当であり、これを認めない立場をとってきた。これについては、さまざまな賛否の意見があるであろう。しかし、崔発言の中には「われわれがこの15か月間、核実験と大陸間弾道ミサイルの試験発射を中止している状況のもとで、このような制裁が残り続ける何の名分もありません。それについては国連安保理が一層明確に答えることができると思います」という発言がある。この部分は、ほとんどの人々の市民感覚からして違和感のない主張であろう。強い制裁が北朝鮮を対話に導いたとする主張に一理がありうるにしても、北朝鮮がすでに対話を始めており、対話を継続する意思がある現段階において、強い制裁の維持にどのような合理性があるだろうか。今は、制裁が対話の継続を壊そうとしているのである。
国連安保理が北朝鮮に加えてきた制裁決議の中には、ほとんど共通して次の文言がある。
「安保理は、DPRKの行動を連続した再検討の下に置き続け、DPRKの遵守状況に照らして、必要に応じて(制裁)措置を強化したり、修正したり、留保したり、解除する準備がある。」(例えば、最新の制裁決議S/RES/2397(2017)においては主文28節[注6]。その前の制裁決議S/RES/2395(2017)においては主文32節[注7])
つまり、安保理の制裁決議は、北朝鮮の遵守状況に応じて制裁を強化したり緩和したりすることを前提として決議されている。だからこそ、これまで安保理は北朝鮮の核実験やミサイル発射のたびに段階的に制裁を強化してきた。同じように、現在の状況において、段階的に制裁緩和を議論するのが安保理の当然の務めである。
市民社会が声をあげて、米国のみならず自国政府や国連安保理に行動を促すべきであろう。(梅林宏道、平井夏苗)
注1 北朝鮮に関する米国務省高官の特別ブリーフィング(2019年3月7日)
注2 「米特別代表スチーブ・ビーガンとの会話」(カーネギー国際平和財団・2019年核政策国際会議、2019年3月11日)
注3 「独占記事:一枚の紙でトランプは金に核兵器を差し出せと要求」、ロイター通信、2019年3月30日
注4 エリック・マルマッジ「北朝鮮公職:金は米国との対話と発射モラトリアムを再考している」(AP通信。2019年3月16日)
注5 NEWSISの記事(韓国語)。2019年3月25日
崔善姫冒頭発言の全文は「在日本朝鮮人総聯合会中央本部」国際・統一局通信No.766(2019年3月26日)に日本語訳されている。
注7 https://undocs.org/S/RES/2375(2017)2019/03/12
監視報告 No.7
監視報告 No.7 2019年3月11日
§ ハノイ会談は失敗であったとは言えない。国際社会は段階的制裁緩和について中・ロを含む多元外交の役割を検討すべきである。
§ ハノイ会談は失敗であったとは言えない。国際社会は段階的制裁緩和について中・ロを含む多元外交の役割を検討すべきである。
2月27-28日にハノイで開催された2回目の米朝首脳会談は合意文書がないままで終了した。会議に向かって米国において外交方針の変化があり、相互の要求を取り入れた何らかの中間的措置に合意するのではないかという期待があった。にもかかわらず、成果文書がないまま終了したことで、メディアや関係者の論評に「決裂」とか「失敗」とかの見出しが目立った。
しかし、そうだろうか?サミットで得られたものの大きさを、今後の交渉の基礎となる相互の認識の前進という尺度で測るならば、サミットは重要な成果を残している。しかも、その認識の前進はトップダウンの特徴をもつ両国の指導者の現状を考えると、サミット開催を通じてのみ得られたものであっただろう。一方で、認識の前進によって状況が今後どのように展開するかに評価の尺度を置くとすれば、我々は予測困難な状況におかれている。両国ともサミットの結果を消化するのに、まだ時間を要するであろう。次の会議までの時間がどのように推移するかを決定する因子は、米朝関係という狭い範囲を超えて広範囲にわたり、複雑である。
このような状況において、本監視報告においてはハノイ・サミットの意義について、今後のために最低限押さえておくべき認識を整理することにする。
(1)シンガポール合意の履行過程は軌道上にあり、脱線していない。
ほとんどの論評において強調されていないが、この単純な事実をまず確認しておくことが重要である。ハノイにおいて合意に達しなかったことに起因して、シンガポール合意そのものの基礎を疑う議論が生まれているからである。現在の米朝交渉の枠組みは2018年6月12日のシンガポール首脳会談における米朝首脳共同声明によって作られている。両国ともその枠組みの前提をハノイにおいて再確認した。
米国の立場からは、ポンペオ国務長官が直後の記者会見において、「金正恩委員長はこの旅の中で、非核化に完全に準備が出来ていると繰り返し確認した」と述べるとともに「(非核化の)見返りに朝鮮半島の平和と安定と北朝鮮人民に対して明るい未来を供与する」のが協議の目的であると述べた。[注1]
一方、DPRKの側においては、朝鮮中央通信(KCNA)が、会議の翌日に異例の速さでハノイ会議の結果について次のように報道した。「両国の最高指導者は、一対一会談や拡大会議において、シンガポール共同声明の履行という歴史的な行程において顕著な進展があったことを高く評価した。」「会議において、両指導者は、朝鮮半島において緊張を緩和し、平和を維持し、完全に非核化するために両者が行った努力や積極的な措置が、相互の信頼を醸成し不信と敵意で彩られた数十年の米朝関係を根本的に転換するのに極めて意義深いとの、共通の理解をもった。」[注2]
すなわち、米国もDPRKも、単に北朝鮮の非核化ではなくて、それぞれの国が責任をもつより大きな枠組みについて、シンガポールにおいて約束をしたことを再確認し、ハノイにおいてもその文脈を理解していることを示した。ただ、メディアの関心の偏りに起因する側面が大きいと思われるが、米国の高官たちの発言においては、この点への強調が弱いことも、指摘しておく必要があるだろう。
(2)米朝とも相手のボトムラインの要求が何であるかを知るとともに、その要求の背景にある相手国の事情について理解を深めた。
ハノイにおける首脳会談に向けて実務協議が積み重ねられてきたが、その結果、両首脳が署名するための合意文が準備されていた。いわば「幻のハノイ合意」が存在したのである。トランプ大統領は2月28日の記者会見において「私は今日署名することもできた。そうしたらあなた方は『何とひどい取引だ。彼は何とひどい取引をしたんだ』と言っただろう。…今日何かに署名することは100%できた。実際、署名するための文書はできていた。しかし、署名するのは適当ではなかったのだ」と述べている。[注3]つまり、実務レベルで合意された文書の内容では米国民の喝采は得られないという判断が[注4]、トランプに北朝鮮に対するより高い要求を出させた。それが北朝鮮には呑めない内容であり、交渉は行き詰まった。
そうだとすると、首脳間で行われたこの交渉によって、米国もDPRKも、相手国の要求とその背景にある事情について理解を深める掛け替えのない機会を得たはずである。記者会見の中で、トランプ大統領が次のような言葉を述べたことは記憶に値する。「制裁強化について話したくない。(今も)強い制裁だ。北朝鮮にも生きなければならない多数の人民が居る。そのことは私にとっては重要なことだ。」「金委員長をよく理解できたので、私の姿勢のすべてが全く変わった。彼らにも見解があるのだ。」
実務レベルの合意、すなわち「幻のハノイ合意」、が何であったかに関する正確な情報はない。しかし、そのような中間的措置に関する合意が存在したという事実は重要な意味をもっている。それは、今後の両国の折衝の重要な基礎となりうるからである。
トランプ大統領の記者会見に反論するために、3月1日の未明に北朝鮮の李容浩外相が記者会見を行い、崔善姫外務次官が質疑に応えた。[注5]そうするとその直後に、ポンペオ国務長官と同行した国務省高官がマニラで記者会見を行った。[注6]これらの情報を総合すると、準備されていた中間措置に関する合意文書の内容は、寧辺の核関連施設(ウラン濃縮設備、プルトニウム生産炉と抽出施設を含む)の全てを検証を伴う形で完全廃棄することと北朝鮮に加えられている制裁措置の何らかの緩和を中心に構成されていたと推定される。北朝鮮が2016年以後の制裁決議5件に含まれる民生関連の制裁緩和を要求したと説明しているが、準備されていた合意文がそれを含んでいたのか、それは首脳会談で勝ち取ろうとした要求項目であったのかは明確でない。北朝鮮は核実験や長距離ロケット発射実験を永久に中止することを文書確認する用意があったと李容浩外相が述べているので、この内容が合意文書に含まれていた可能性がある。
トランプ大統領が「幻のハノイ合意」を超えて要求した内容についても明確な情報はない。トランプ大統領は、追加要求の中に寧辺の外にある第2ウラン濃縮設備の廃棄が含まれたことを記者会見で認めているが、同時に「それよりも多くのことを指摘した」と述べている。[注7]さらに、国務省高官は、シンガポール合意には含まれていない「北朝鮮の大量破壊兵器の完全な凍結」を要求したことすら述べている。[注8]これらの要求がハノイ交渉の行き詰まりの直接の原因となったとしても不思議ではない。
(3)米朝2国間交渉による中間的措置の合意探求だけではなく、中間段階における制裁強度の正統性について国際的な議論が必要となっている。
以上の整理をふまえると、今後の展開について考えられるもっとも分かり易い道筋の一つは、ハノイ会談を基礎にして中間的措置について新しい合意点を追求することであろう。それは「幻のハノイ合意」を基礎にした足し算による均衡点の探求になる。「幻のハノイ合意」よりも低いレベルの合意はあり得ない。ハノイ会談の事前に報道された①戦争終結宣言あるいは平和宣言、②平壌への米連絡事務所の設置などの他に、③不安要因となりうる今後の米韓合同演習の規模や性格に関する暫定的な合意、④経済制裁の緩和についての北朝鮮の5件の要求よりも低いレベルの緩和措置、⑤南北の経済協力に付随して必要な範囲に限定した制裁緩和、⑥平和利用の担保を条件にした北朝鮮の宇宙や原子力開発に関する制限の緩和と核・ミサイル施設の公開の拡大、などが、そのような追加項目になりうるであろう。
ハノイ会談は、このような努力と平行して、経済制裁の緩和に関してより本質的な課題の探求が必要になっていることを示している。安保理決議による北朝鮮への制裁は、単に米国だけではなく国連加盟国全体が関係すべき事案である。にもかかわらず、このことが米朝会談における核心のテーマになりつつある。国際社会は、とりわけ、北朝鮮と関係の深い安保理常任理事国である中国とロシアの果たすべき役割について関心を深め、声を挙げるべきであろう。
北朝鮮は、南北間の板門店宣言と9月平壌宣言、及び米朝間のシンガポール共同声明によって、制裁の原因となっている核兵器・ミサイルの開発から脱する方向へと国家方針を転換した。その転換には、北朝鮮が感じてきた脅威の除去と朝鮮半島の平和と安定が必要であるという内容がこれらの共同宣言、声明には盛り込まれている。この内容は国際社会も十分に納得できるものである。宣言、声明に盛り込まれた合意事項の履行が段階的に行われてゆくとき、制裁の段階的解除を伴うべきであるという議論は、安保理制裁決議の正統性を維持するために避けてはならない議論である。とりわけ、中国やロシアがこのような議論をリードして国際社会に提起することは、北朝鮮が現在の共同宣言・声明の履行への意欲を維持し高めることに大きく貢献すると思われる。歴史上最強といわれる現在の制裁強度を維持すべきであるとの一部の国の考え方の正統性が客観的に吟味されなければならないであろう。(梅林宏道)
注1 マイケル・R・ポンペオ「随行記者との会見」、米国務省・外交の現場(2019年2月28日) https://www.state.gov/secretary/remarks/2019/02/289785.htm
注2 「金正恩最高指導者とトランプ大統領が2日目の会談をもつ」(KCNA、2019年3月1日) http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から、英文記事を日付で検索できる。
注3 「トランプ大統領のハノイでの記者会見における発言」(ホワイトハウスHP。2019年2月28日)
注4 ハノイ首脳会談とほぼ同じ時刻に、米国ではトランプ氏の元顧問弁護士マイケル・コーエン被告による米議会証言が行われ全米にテレビ中継された。コーエン被告はトランプ氏の犯罪を詳細に証言し米社会に衝撃を与えた。この同時進行の出来事がハノイ・サミットに影響したことは否めない。
注5 李容浩外相の記者発表全文。(『ハンギョレ』(韓国語版、2019年3月1日)
注6 米国務省「国務省高官の随行記者への説明」(米国務省HP、ペニンスラ・ホテル、マニラ、2019年2月28日) https://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2019/02/289798.htm
注7 注3と同じ。
注8 注6と同じ。
2019/02/25
監視報告 No.6
監視報告 No.6 2019年2月25日
§ マスメディアは「北朝鮮の非核化」ばかりに注目するが、今後の米朝交渉の焦点は米国の「平和体制構築」への姿勢だ
§ マスメディアは「北朝鮮の非核化」ばかりに注目するが、今後の米朝交渉の焦点は米国の「平和体制構築」への姿勢だ
2回目の米朝首脳会談が間もなく開催される。日本では「北朝鮮の非核化」ばかりに注目が集まるが、昨年6月の米朝首脳会談の共同声明やその後の経緯を振り返れば、焦点は、米国のドナルド・トランプ大統領が合意を守り、「新しい米朝関係」や朝鮮半島の「平和体制構築」に向けた交渉に応じるかどうかに当てられるべきだ。
日本で朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の非核化にばかりに注目が集まるのは無理もない。これまでほとんどのマスメディアは朝鮮半島の平和と非核化に関する米朝間の交渉について、北朝鮮の非核化にだけ焦点を当て、合意の破綻や交渉停滞の責任を全て北朝鮮側に押し付けるなど、一方的な見方を伝えてきた。それらのマスメディアにとって、朝鮮半島の平和と非核化に関する米朝のこれまでの全ての約束は「北朝鮮の非核化」についての約束であり、過去の合意が破綻したのは「北朝鮮が約束を破った」からだった。
昨年の首脳会談以降の報道を振り返っても、マスメディアが問題にしてきたのは北朝鮮が非核化に向けた措置をとるかどうかであり、その他の合意についてはほとんど無視するか歪曲して伝えている。例えば今回の米朝首脳会談について伝えるニュースでは、「焦点は、北朝鮮の非核化につなげられるのか。そして北朝鮮が見返りとして求める経済制裁の緩和への対応です」などと伝えたり[注1]、昨年の首脳会談のあと交渉が停滞している理由を「核関連施設の全リスト提出」を求める米国と「制裁緩和など『相応の見返り』がなければ非核化を進められない」とする北朝鮮が対立しているからだと述べるなど[注2]、米朝間の交渉が「北朝鮮の非核化」と米国側の「見返り」としての「制裁緩和」の話になっている。また昨年7月に北朝鮮が合意に従い米兵の遺骨を返還した際には、「体制保証などの見返りを求める戦術の一環ではないか」[注3]と約束を守る北朝鮮の動機を悪意をもって描いたり、あるいは北朝鮮が原子炉の稼働を続けているという情報機関の報告について偏った伝え方をするなど[注4]、北朝鮮に非核化の意志がないかのような印象を与えてきた。その一方で米国側の合意に反する行動については批判を避け、逆にトランプ政権が制裁緩和や朝鮮戦争の終戦宣言に応じるような姿勢を示すと、「譲歩」とか「見返り」という言葉を使って、トランプの「安易な妥協」によって「北朝鮮の非核化」が実現しないのではないかなどと懸念している。[注5]
このようなマスメディアの見方は間違っている。
まず昨年の米朝首脳会談の合意内容を確認しておくと、ドナルド・トランプ大統領は「北朝鮮に対する安全の保証を与えることを約束」し、金正恩委員長は「朝鮮半島の完全な非核化への確固とした揺るぎのない決意を再確認」した。そして両首脳は、以下の4つの表明を行っている。[注6]
「両国は、平和と繁栄を望む両国民の意思に従い、新たな米朝関係を確立すると約束する」
「両国は、朝鮮半島における持続的で安定した平和体制構築のために共に努力する」
「北朝鮮は、2018年4月27日の板門店(パンムンジョム)宣言を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを約束する」
「両国は、戦時捕虜・行方不明兵(POW /MIA)の遺骨の回収に取り組む。身元確認済み遺骨の即時返還を行う」
米朝両政府は、「非核化」だけではなく朝鮮半島の「平和体制構築」でも合意したのであり、「非核化」とは「北朝鮮の核」だけでなく「朝鮮半島」、すなわち在韓米軍を含む韓国の核も対象になる。「北朝鮮の非核化」だけに注目するのは、間違いだ。そして「新しい米朝関係」や「平和体制構築」とは、朝鮮戦争の終戦宣言や平和協定の交渉開始が不可欠の要素だと考えるのが妥当だ。北朝鮮とすれば、戦争が終結して侵略される危険がなくなるから非核化するのであり、米国側が侵略の意図を止めないなら非核化に応じることはできないだろう。
また、合意を実行するにあたって駆け引きはあるだろうが、トランプが朝鮮戦争の終戦宣言に応じたり、平和協定締結に向けた交渉を受け入れたなら、それは既に合意した約束を履行するのであって、「譲歩」したとか「見返り」を与えたというマスメディアの表現は読者を誤った認識に導く不適切な表現だ。
次に、首脳会談後の米朝双方の行動を振り返ると、北朝鮮側は一部のミサイル施設の解体を行い、米兵の遺骨の一部を返還するなど、合意を着実に履行している。また北東部豊渓里(プンゲリ)にある核実験場については首脳会談前に既に廃棄しており、さらに米国の相応の措置があればとりうる次の措置についても、具体的な提案をしている。一方、米国側は韓国軍との合同軍事演習を一時的に中止するなど外交プロセスを優先する姿勢を示し、「新たな米朝関係」の確立に向けた努力も見せてはいるが、朝鮮半島の平和体制構築にとって核心的に重要な朝鮮戦争の終戦宣言や平和協定締結に向けた交渉を拒み、昨年の7月と9月に日本海で核搭載可能な爆撃機を参加させた共同軍事訓練を日本の自衛隊と行ったり[注7]、昨年10月の米韓安保協議の共同声明で韓国に対する「核の傘」の提供を再確認するなど[注8]、合意を無視した行動を取ってきた。マスメディアは合意を履行している北朝鮮ではなく、合意を無視する行動を取ってきた米国側を批判すべきだ。
北朝鮮が原子炉を稼働させているという報告もあるが、米国のスティーブ・ビーガン対北朝鮮特別代表は、北朝鮮が核開発を諦めていないと指摘する米国情報機関責任者の発言とそれを取り上げたメディアの報道の仕方について「情報機関の情報を政策と完全に切り離すことはできない。情報機関の情報は政策の基礎として重要だが、政策は脅威に対処するためにある」と事実情報の評価の仕方に不満を述べて、問題を解決するために今まさに外交を行っているのだと強調している。[注9]
金正恩は米国の脅威がなくなれば核兵器を持つ理由がないと述べ、米国が「相応の措置」──共同声明の履行に他ならない──を取れば、さらなる非核化の措置を取ると表明している。北朝鮮にとって、核兵器は米国による侵略を抑止するためのものであり、そのことを疑う識者はいないだろう。米国の脅威がなくなれば北朝鮮は核兵器を持つ理由はないという金正恩の発言は、真剣にとらえるべきだ。また南北間の動きに目を向けると、北朝鮮と韓国は昨年9月の首脳会談で事実上の終戦宣言を行っている。朝鮮戦争の当事国である北朝鮮と韓国は、もう戦争を望んでいない。米国が平和体制構築のための交渉に応じることが朝鮮半島の非核化につながると考えるのが、合理的な判断ではないだろうか。
最後に、「北朝鮮は今まで約束を破ってきた」という、これまでマスメディアが喧伝してきた誤った認識が、このような合理的な判断をすることを妨げていると考えられるので、朝鮮半島の平和と非核化に関する過去の合意について簡単に振り返っておきたい。
マスメディアが「北朝鮮が約束を破った」と言うとき、たいてい言及されるのが1994年の米朝枠組み合意と2005年の6か国協議による共同声明の破綻だ。北朝鮮はこの2つの合意を一方的に破ったと一般には信じられているが、実際には北朝鮮だけに合意の破綻の責任を押し付けることはできない。
米朝枠組み合意とは、①北朝鮮がプルトニウムを生産できる黒鉛炉と建設中の同型炉を凍結し解体すること、②米国が代わりに比較的プルトニウムを抽出しにくい軽水炉2基を提供すること、③軽水炉の完成まで米国が代替エネルギーとして年間 50万tの重油を供給すること、④両国が政治的・経済的関係の完全な正常化に向けて行動すること、⑤米国は核兵器を北朝鮮に対して使用せず、使用の威嚇もしないこと、⑥北朝鮮は核不拡散条約(NPT)にとどまり保障措置協定を遵守すること、などを約束した合意で、この過程で、両政府は2000年10月に「相互に敵意を持たない」ことを宣言する共同声明を発表するまでに至った。北朝鮮問題の専門家として著名なレオン・V・シーガル氏[注10]によれば、北朝鮮側は合意の結果「2003年までいかなる核分裂性物質も作らなかった」[注11]が、2001年に発足した共和党のブッシュ政権は、その年の12月に議会に提出した「核態勢の見直し(NPR)」で、北朝鮮が「大量破壊兵器及びミサイル計画を活発に進めている」と糾弾して核攻撃の対象であることを示唆し、2002年1月のブッシュ大統領の年頭教書演説では北朝鮮をイラク、イランとともに「悪の枢軸」と呼んで、「相互に敵意を持たない」と宣言した共同声明を踏みにじった。さらにブッシュ政権は、北朝鮮のウラン濃縮計画の存在を理由に北朝鮮に対する重油の供給を停止し、枠組み合意を一方的に破棄した。米国がウラン濃縮計画についてどの程度の情報を入手していたかについては未だに明らかになっていない。米国側は、当時北朝鮮の責任者だった姜錫柱第1事務次官の「話し合っていこう」という趣旨の言葉を、ウラン濃縮計画の存在を認めたものと解釈したが、北朝鮮側はウラン濃縮計画の存在を明確に認めたことはない。[注12]
2005年の6か国協議による共同声明とは、「平和的な方法による、朝鮮半島の検証可能な非核化」を目標として発足した米国・北朝鮮・日本・韓国・中国・ロシアの6か国による協議において到達した共同声明である。声明には6か国すべてに関係する義務が含まれているが、米朝に関するものに限って言うと、①北朝鮮の核兵器及び核計画の放棄、②米国の朝鮮半島での核兵器の配備、北朝鮮に対する核あるいは通常兵器による攻撃や威嚇をしないこと、③北朝鮮に対する5カ国による経済支援やエネルギー支援、④米朝の関係正常化、などが盛り込まれた。しかし、その直後に米国政府が偽ドル流通疑惑やマネーロンダリング(資金洗浄)疑惑を理由に北朝鮮に経済制裁を課したため、北朝鮮側は合意に反すると反発して核開発を再開し、翌2006年に最初の核実験を行った。
その後6か国協議は再開され、2005年の共同声明を実施するための措置について合意した(2007年)。北朝鮮はこの合意に従って核実験と原子炉の運転を停止したが、北朝鮮の核放棄の検証方法を巡って協議は行き詰まり、6か国協議での合意は事実上破綻した。
このように、北朝鮮が今まで約束を破ってきたと一方的に言うことはできない。むしろ米国側が先に約束を破ったという方に明確な史実がある。そして、ここでさらに重要なことは、米朝双方が合意を誠実に履行していれば、朝鮮半島の平和と非核化を実現するチャンスが過去にも存在したということだ。トランプ大統領が合意を守って偉業を成し遂げるのか、あるいはこれまでの大統領と同じように朝鮮半島の平和と非核化の実現のチャンスを無駄にするのか。今回の首脳会談を含む今後の米朝交渉で我々はそこに注目すべきだ。
幸いなことに、トランプ大統領は朝鮮戦争を終結させる心積りのようだ。パリ協定やイラン核合意からの離脱、移民・難民政策など、他の政策では問題の多いトランプ大統領だが、史上初の米朝首脳会談を行うなど朝鮮半島の非核化と恒久的な平和の流れを作るために一役を担ってきたことについては評価できる。
但し、トランプが約束を実行することは容易ではないだろう。朝鮮戦争終結や北朝鮮との平和協定締結に反対する勢力はトランプ政権内や与党共和党にも少なくない。そこで、トランプに約束を守らせるためには世論の力が必要になる。朝鮮半島の平和と非核化──それは東アジア全体の平和に直結する──を求めるなら、この地域に住む我々市民は、トランプが約束を守れるように後押ししなければならない。マスメディアにはそうした世論形成に役立つような誠実な報道を求めたい。そしてマスメディアがその責任を果たさないなら、市民は抗議の声を上げることも必要だ。(前川大)
注1 「非核化〝見返り〟」(NHKニュース7 、2019年2月2日)
注2 「トランプ氏譲歩の可能性――米朝会談 27・28日ベトナムで」(『朝日新聞』、2019年2月7日)
注3 「米兵遺骨返還 北朝鮮の非核化に直結しない」(『読売新聞』、社説、2018年7月29日)
注4 例えば、NHKニュース7、2019年2月13日。報告書は、北朝鮮の非核化の意志を疑う文脈ではなく、「交渉不在では驚くことではないが、北朝鮮は核分裂物質を生産し続け、ミサイル基地を維持、あるいはある場合には、強化している」と書き、当然の結果だと現状を伝えているにもかかわらず、ニュース7は「北朝鮮が去年、核兵器5~7発分に相当する核物質を生産した可能性があるという報告書をアメリカの専門家が発表しました」とのみ伝えた。後半部分で「報告書では、去年の米朝首脳会談による緊張緩和などで、北朝鮮の脅威は大きく低下したと分析」していることも伝えてはいるが、「‟核兵器5~7発分の核物質生産か„ 北朝鮮の核問題 米専門家が報告書」という字幕とともに、ニュースを伝えており、視聴者に北朝鮮の非核化に対する意志を疑わせる伝え方になっている。
注5 例えば、NHKニュース7、2019年2月2日や、『毎日新聞』、社説、2019年2月9日。
ニュース7は、スティーブ・ビーガンが「北朝鮮が求めている見返りを巡る協議に応じる考え」を示したと伝えた後、「トランプ大統領が妥協して、核の放棄ではなく、アメリカに直接影響のあるICBM大陸間弾道ミサイルの廃棄だけで、北朝鮮に経済制裁の緩和などの見返りを与える可能性」があると指摘して、そうなると「中距離弾道ミサイルも核兵器も保持したまま」だと警鐘を鳴らす元国務次官補代理のエバンス・リビアの見解を伝えている。毎日新聞もトランプが「米国の直接的脅威となる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄で折り合うこと」を心配し、「米国が安易な妥協」をしないよう、「北朝鮮のすべての核・ミサイルの廃棄が北東アジアの平和と安定に不可欠だとトランプ氏に懸命に働きかけなければならない」と述べている。
注6
注7 航空自衛隊報道発表資料(2018年7月28日、および2018年9月28日)
注8 "Joint
Communiqué of
the 50th U.S.-ROK Security Consultative Meeting," U.S. Department of
Defense, October 31, 2018.
注9 U.S.
Department of State, "Remarks on DPRK at Stanford University,"
January 31, 2019
注10 社会科学評議会・北東アジア協力的安全保障プロジェクト代表(ニューヨーク)。
注11 Tim Shorrock, “Diplomacy With North Korea Has Worked Before, and Can
Work Again,” The Nation, September 5, 2017
注12 梅林宏道「朝鮮半島において国連憲章を具現せよ」(『世界』、2018年4月号)
2019/02/12
監視報告 No.5
監視報告 No.5 2019年2月12日
§ 金正恩「年頭の辞」が流れを作り、米国には同時並行の段階的措置をとる変化が現れた。
溜まり水が流れ始めた。その背後には金正恩の「年頭の辞」の効果が大きかったと、我々は分析している。
§ 金正恩「年頭の辞」が流れを作り、米国には同時並行の段階的措置をとる変化が現れた。
溜まり水が流れ始めた。その背後には金正恩の「年頭の辞」の効果が大きかったと、我々は分析している。
2月5日、米議会での一般教書演説で、トランプ大統領は2月27日、28日にベトナムにおいて2度目の米朝首脳会談を行うと発表した。3日後の2月8日には、大統領は開催地がベトナムのハノイであるとツイートした。
昨年6月のシンガポールにおける初めての首脳会談における合意以後、米朝間の合意履行に関する交渉は停滞してきた。その停滞をうち破り履行を前進させるための具体的な合意を生むのでない限り、第2回首脳会談の開催に意味がないことは、衆目の一致するところであった。したがって、米朝、とりわけ米国は今、意味のある合意を生む可能性があると判断しているということだ。
ここに至る過程を理解する上で、2つの演説を注意深く読むことが重要である。1つは金正恩朝鮮労働党委員長の「年頭の辞」[注1]であり、もう1つは1月31日に行われたビーガン米国務省北朝鮮問題特別代表のスタンフォード大学における演説[注2]である。
2019年1月1日、DPRK(北朝鮮)の金正恩朝鮮労働党委員長は恒例の年頭の演説を行った。多くの人は、この「年頭の辞」が昨年来の朝鮮半島の緊張緩和の急速な動きや非核化への対話をどのように評価し、今年の方針をどう語るのか、に関心を注いだ。関心の背景には、情勢の好転を望む者にとっては北朝鮮の政策変更への不安があり、情勢の好転を苦々しく思う者には悪化への期待があった。なぜならば、昨年4月以来、南北関係は着実に好転の道を進んでいるのに対して米朝協議の進展は停滞しており、停滞の原因が米国の一方的な外交方針にあるとして、北朝鮮には不満が高まっていたからである。昨年末には、トランプ大統領への批判は避けつつも、北朝鮮の国営メディアが米国務長官を名指しして批判するまでに、批判のトーンが上がっていた[注3]。したがって、金正恩委員長の「年頭の辞」が、米国に対する強硬方針や韓国への厳しい注文を含むものになる可能性を、誰も否定することができない状況があった。
そのような中において、「年頭の辞」は金正恩委員長が昨年の変化を極めて肯定的に評価し、国民に対して経済建設優先の考えを述べるとともに、米朝関係の改善と非核化への方針を明確に伝えた。「年頭の辞」とは、基本的にDPRK国民へのメッセージであることを考えると、金正恩がシンガポールでの米朝首脳共同声明に言及して次のように述べたことの意味は極めて大きい。
「朝鮮半島に恒久的で、かつ強固な平和体制を構築し、完全な非核化へと進むというのは、わが党と共和国政府の不変の立場であり、私の確固たる意志です。
そのため、われわれはすでに、これ以上核兵器の製造、実験、使用、拡散などをしないということを内外に宣布し、さまざまな実践的措置を講じてきました。…
われわれは、いまわしい(米朝間の)過去史をひきつづき固執し抱えていく意思はなく、一日も早く過去にけりをつけ、両国人民の志向と時代の発展の要求に即して新しい関係樹立に向けて進む用意があります。」
金正恩は国民に対して、対外的には表明していなかった「核兵器の製造をしない」という方針さえも表明した。昨年の「年頭の辞」においては、「核弾頭と弾道ミサイルを大量生産して実戦配備する」と号令したことを想起すれば、大きな方針転換を国民に告げたことになる。
一方で、多くのメディアは「年頭の辞」の次の一文に注目した。北朝鮮から米国への警告のメッセージである。
「ただし、アメリカが…約束を守らず、朝鮮人民の忍耐力を見誤り、何かを一方的に強要しようとして依然として共和国に対する制裁と圧迫を続けるならば、われわれとしてもやむをえず国の自主権と国家の最高利益を守り、朝鮮半島の平和と安定を実現するための新しい道を模索せざるを得なくなるかも知れません。」
メディアがこの一文に関心を寄せる理由は理解できなくもない。しかし、「年頭の辞」から読み取るべき最も重要なメッセージはここにはない。重要なのは、昨年の変化が生み出したものを成果として肯定的に評価し、それを基礎に今年も米国との関係改善と非核化の道に進むという不動の方針を国民に示したことにある。
このメッセージは、米政府に米朝関係を前に進めるための重要な根拠となったであろう。
金正恩の親書を携えた金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長は、2019年1月18日にワシントンを訪問しトランプ大統領と面会した。金英哲はこのとき、今後の新しい実務担当者となる金赫哲(キム・ヒョクチョル)元駐スペイン大使を同行した。北朝鮮ナンバーツーともいえる金英哲のワシントン訪問は、2000年10月に金正日国防委員長の代理でワシントンを訪問し、クリントン大統領と面会した趙明禄(チョ・ミョンロク)国防第一副委員長の歴史的な訪米を思い起こさせる。当時は、その後にオルブライト米国務長官の平壌訪問と金正日委員長との面会が実現した。
金英哲・トランプ会談以後、米朝関係は急速に動き始めた。2018年8月にポンペオ長官がスティーブン・ビーガンを北朝鮮政策特別代表に任命していたにもかかわらず、一度も北朝鮮代表者との実務協議が実現していなかった。それが会談の翌日からストックホルムにおいて3日間の合宿実務協議が開催された。そして、冒頭に述べたような第2回米朝首脳会談の日程発表となった。
1月18日以後に進んだこの変化を理解するためには、1月31日にスタンフォード大学で行われたビーガン特別代表の講演が極めて重要である。講演後、北朝鮮問題の老練の専門家でありクリントン政権下で国務省情報調査局北東アジア部長であったロバート・カーリンとの一問一答も行われた。カーリンの的確な質問によって、多くの貴重な論点がカバーされた。
ビーガン演説によって明確に表明された重要な点は、米国が、北朝鮮が求めてきた同時的、並行的な段階的措置をとる準備がある、という点である。ビーガンは次のように述べた。
「我々は、同時に、また並行して、昨夏、シンガポールの共同声明において両首脳が行った約束の全てを追求する準備があることを、北朝鮮の相手に知らせた。」
「金委員長は、米国が相応の措置をとればプルトニウム施設やウラン濃縮施設に関する次の手段をとると述べた。これらの措置が何であるかは、これからの北朝鮮担当者との協議事項になる予定だ。我々としては、2国間の信頼醸成の助けになり、かつ両国関係の転換、朝鮮半島の恒久平和体制の確立、そして完全な非核化といったシンガポール・サミットの目的が並行して前進する助けになるような、さまざまな行動について協議する準備がある。」[注2]
これは、米国の外交方針における大きな変化であり前進である。当初、メディアで騒がれた北朝鮮の核計画の包括的リスト提出に関する米国の要求は、後の段階の課題として後退した。
「非核化の過程が最終的になる前には、我々は北朝鮮の大量破壊兵器ミサイル計画の全範囲について完全に理解しなければならない。ある時点において、我々はそれを包括的な申告によって得ることになる。」[注2]
さらに、中間的な措置の中に朝鮮戦争の終結問題が含まれていることをビーガン演説は強く示唆した。
「トランプ大統領はこの戦争を終わらせようとしている。…我々は北朝鮮の体制の転覆を求めていない。非核化の計画と同時に、我々は北朝鮮に明確なメッセージを送るような外交を進める必要がある。我々は新しい未来の準備をしている。非核化の基礎の上にあるものではあるが、それは非核化よりも大きいものだ。それは我々が手にしている機会であり、北朝鮮と協議しようとしているものだ。」[注2]
もう一つの我々の関心事は、この新しい米国の方針と、これまで強調してきた制裁圧力路線との関係である。この点について、ビーガン特別代表は変化を示唆しながらもクリアなメッセージを発するには至らなかった。
「我々は圧力政策を維持する。同時に外交政策を前進させようとしている。したがって、この2つの間の正しいバランスを見出さなければならない。あなた(カーリン)が述べた文化交流や市民イニシャチブのような分野が、前進のために始めることのできる分かり易い分野のように思われる。」[注2]
これに関係して、金英哲・トランプ会談後の急速な変化の中で、超強硬派のジョン・ボルトン国家安全保障担当・大統領補佐官の発言にも変化が現れていることに注目したい。1月25日、『ワシントン・タイムズ』との単独インタビューでボルトンは制裁について次のように述べた。
「我々が北朝鮮に求めるものは、核兵器を諦める戦略的な決定をしたという意味のある兆候である。その非核化を手にしたときに大統領は制裁の解除を開始することができる。」[注4]
北朝鮮は、現時点においてすでに「核兵器を諦める」戦略的決定をして対米交渉に臨んでいるという解釈も可能であり、このような判断はトランプ政権の主観的判断に委ねられる。また、「制裁解除を始める」という表現は、制裁解除が段階的に進むことを意味しているであろう。(梅林宏道、平井夏苗)
注1 日本語訳全文は以下で読むことができる。
注2 U.S. Department of
State, "Remarks on DPRK at Stanford University," January 31, 2019
https://www.state.gov/p/eap/rls/rm/2019/01/288702.htm (ここには、ビーガンの講演録とともに、ロバート・カーリンとの一問一答も記されている。)
注3 たとえば朝鮮中央通信(KCNA)の記事「DPRK外務省アメリカ研究所政策研究部長の報道声明」(2018年12月16日)。
http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から、英文記事を日付で検索できる。
注4 Tim Constantine, “John
Bolton explains Trump's strategy on North Korea, China trade,” The Washington Times, January 25, 2019
https://www.washingtontimes.com/news/2019/jan/25/john-bolton-explains-trumps-strategy-on-north-kore/
2019/01/21
監視報告 No.4
監視報告 No.4 2019年1月21日
§ 軍事演習を巡って不要な緊張を生むべきではない。軍事的信頼醸成には段階的な前進が必要だ。
韓国と北朝鮮は2018年の板門店宣言と9月平壌宣言を基礎にして、軍事的な緊張緩和と信頼醸成のために、さまざまな措置をとってきた。米国も米韓の大規模軍事合同演習の中止などを通して、この南北の動きに同調してきた。しかし、米韓軍事同盟が積み上げてきた今も引き継いでいる遺産は決して軽いものではない。朝鮮半島の平和・非核化合意の履行の成功のためには、軍事問題に関する課題解決には時間をかける必要がある、一歩一歩の前進を必要としている。
§ 軍事演習を巡って不要な緊張を生むべきではない。軍事的信頼醸成には段階的な前進が必要だ。
韓国と北朝鮮は2018年の板門店宣言と9月平壌宣言を基礎にして、軍事的な緊張緩和と信頼醸成のために、さまざまな措置をとってきた。米国も米韓の大規模軍事合同演習の中止などを通して、この南北の動きに同調してきた。しかし、米韓軍事同盟が積み上げてきた今も引き継いでいる遺産は決して軽いものではない。朝鮮半島の平和・非核化合意の履行の成功のためには、軍事問題に関する課題解決には時間をかける必要がある、一歩一歩の前進を必要としている。
南北は軍事的信頼醸成のための第一歩として、緊張の最前線にあったDMZ(非武装地帯)における緊張緩和に取り組んだ。それは象徴の意味においても実質の意味においても、極めて重要な一歩であった。軍事分野の課題について具体的に履行内容に合意した2018年9月19日の「歴史的な板門店宣言履行のための軍事分野合意書」[注1](以下「軍事合意書」)は極めて重要な文書である。
軍事合意書に従って、南北はまず板門店の共同警備区域(JSA)の武装解除作業に取り組み、2018年10月25日に終了した。次に、11月1日から地上、海上、空中での敵対行為を中止し、「陸海空緩衝区域」を設置する合意を実行した。陸上では軍事境界線(MDL)から5キロ以内の区域での砲兵射撃訓練や一定規模を超える野外機動訓練を中止した。海上では、西海(ソヘ)(黄海)においては韓国側の徳積島(トクチョクト)から北朝鮮側の椒島(チョド)までの約135km、東海(トンへ)(日本海)においては韓国側束草(ソクチョ)から北朝鮮側通川(トンチョン)まで約80km[注2]に設けられた緩衝区域で砲射撃訓練と艦艇の機動訓練を中止した。空中ではMDLから西部地域は20km、東部地域は40km内で偵察機、戦闘機など固定翼機の飛行を中止し、回転翼機はMDLから10km以内、無人機は西部で10km以内、東部で15km以内において飛行を中止した。
軍事合意書は非武装地帯内における朝鮮戦争戦死者の南北共同の試験的遺骨発掘についても合意したが、韓国国防部は2018年11月22日、朝鮮半島中部の江原道鉄原(カンウォンド・チョルウォン)のDMZにおいて、そのために使う道路を連結したと報告した[注3]。同様に、軍事合意書に基づき、2018年12月、DMZ内の監視所のうち試験的に各10か所、南北で計20か所を撤去した。(南北は保存価値のある監視所を武装解除した上で各1か所残すことで合意)。撤去を2018年末までに完了するという合意目標は達成された[注4]。
米国もこれまでのところ朝鮮半島の緊張緩和のために軍事分野における抑制を続けている。上記の非武装地帯における緊張緩和措置には朝鮮国連軍の理解や協力が必要であった。なかでも、JSAの非武装化やその後の運営については、南北の軍事当局に国連軍が参加した三者協議体が設けられて協議が行われた。朝鮮国連軍の司令官は米韓合同司令部司令官である在韓米軍司令官が兼務している。南北が合意した軍事的緊張緩和措置について、一部、在韓米軍からの異論が伝えられたが、これまでのところ概ね在韓米軍は協力的であった。
冒頭に述べたように、米韓の大規模共同軍事演習の中止、または規模の縮小も行われてきた。米韓は2018年、米韓海兵隊合同演習の実施回数を減らした。2017年10月から2018年9月の間に19回実施する予定であったが、11回を実施し終えた2018年6月に演習の中止を発表したため、7月から9月に行われる予定であった8回の演習が中止となり、全体の回数を11回に減らした[注5]。また、韓国軍当局関係者が2018年11月27日に明らかにしたところによると、米軍爆撃機は約1年間朝鮮半島に展開していない[注6]。米軍発表によると、これは韓国政府の要請によって行われた[注7]。さらに、当時のマチス米国防長官は2018年11月21日(ワシントン)の記者会見で、毎年3月か4月に行われる米韓合同大規模機動演習である「フォール・イーグル」の2019年春の実施について、「外交に害のない水準に保つよう少し再編成されている」と規模縮小を検討していることを示した[注8]。また、2018年10月19日、米韓の国防長官の会談において、毎年12月に実施してきた米韓大規模共同航空演習「ビジラント・エース」を2018年は行わないことに合意した。ダナ・ホワイト米国防総省報道官によると「外交プロセスが継続するようすべての機会を与えるため」というのが中止の理由であった[注9]。
このように、米国防総省は、これまでのところ、外交プロセス優先の姿勢で南北の融和努力に協力し、DPRKへの悪影響を避けてきた。しかし、米朝協議が停滞する状態が継続したとき、米軍の協力姿勢がどこまで続くかを予想することは難しい。2018年10月31日にワシントンで開催された第50回米韓安保協議の共同コミュニケ[注10]は、南北の軍事的信頼醸成の努力と米韓安保体制の現状とを調和させるためには、相当な関係国の努力が必要であることを物語っている。
米韓安保協議共同コミュニケは、南北の軍事合意書の履行について、「履行過程の間、(米韓)合同の準備態勢を確保し、米韓の国防当局間の緊密な調整を維持し続けるという約束を守りつつ、緊張緩和と平和建設に十分に貢献するような方法において履行されるべきである」と述べている。つまり米韓合同軍の臨戦能力を維持すると合意しているのである。それどころか、米韓両国とも北朝鮮に対して非核化を求め、「朝鮮半島の非核化」を目指しているさなかであるにもかかわらず、米国は「韓国に対して、核兵器、通常兵器、ミサイル防衛能力を含む全種類の軍事能力を用いた拡大抑止力を提供するとの誓約」を再確認している。つまり、米国の「核の傘」の継続を明記しているのである。これは、北朝鮮が「引き続いて核抑止力を維持する」と言うに等しいことを米、韓が言ったことを意味する。このように、軍事分野において信頼醸成が前進するには、まだまだ残されている課題は大きい。
このように危ういバランスの中で、韓国統合参謀本部は2018年12月3日、韓国空軍単独の「戦闘準備態勢総合訓練」を12月3日から7日まで実施すると発表した[注11]。この訓練は「ビジラント・エース」米韓合同演習が行われない中で、戦闘態勢を維持するための訓練と位置付けられている。上記の共同コミュニケの趣旨においても、また、軍の能力を維持しなければならないという一般的な軍の論理においても、現状においては予想せざるを得ない行事と言うことができる。
しかし、DPRKの国営メディア「朝鮮中央通信(KCNA)」は2018年12月4日、韓国空軍の独自訓練実施を批判する記事を発表した[注12]。12月4日のUPIの報道によれば、KCNAは「これは南北の信頼醸成措置と和解の状況を覆す危険な軍事行動だ」とし、「韓国統合参謀本部が空軍訓練は軍の即応性を維持し、パイロットの任務遂行能力を向上させるためだと公に宣言した」と訓練目的を指摘したうえで、韓国は「紛争を引き起こす可能性のあるすべての戦争演習を中止するべきだ」と主張した[注13]。
別の北朝鮮メディア「メアリ(こだま)」は2018年12月2日、「フォール・イーグル」が規模を縮小して実施されるという発表について、「大小様々な形の韓米合同演習も中止すべきだ」という記事を出した[注14]。
北朝鮮におけるこのようなメディアの批判的反応は、指導部の方針となって行き過ぎることがなければ、当然のこととして理解できる。北朝鮮においては、兵士は必要に応じて農業や漁業に従事することもあるであろうが、多くの国において兵士は平時においては訓練と演習以外に仕事はない。これらの国においては緊張緩和があっても、残念ながら軍縮は徐々に進まざるを得ない。しかし、速度は遅くても軍縮に向かうという意思と目に見える変化を示すことによって、信頼醸成は前進することができる。朝鮮半島における緊張緩和と関連して、米統合参謀本部のダンフォード議長は、2018年11月5日、米デューク大学のフォーラムにおいて次のような含蓄に富む発言をしている[注15]。「我々(米国)は外交交渉で成功すればするほど、軍事分野において居心地が悪くなる。」「時間が経てば、交渉の結果によって我々は朝鮮半島における軍事態勢に何らかの変更を加え始めなければならないだろう。そして、我々はポンペオ長官を支えてそうする準備は出来ている。」
軍事分野における緊張の緩和と軍縮の速度について関係国がお互いに理解を深めることは、信頼醸成にとって極めて重要な課題である。これは、南北朝鮮と米国にとってのみならず、地域の軍事情勢と密接に関係している日本と中国にとっても同様であろう。(平井夏苗、梅林宏道)
注1 「軍事合意書」の朝鮮語テキスト
同文書の英文テキスト
日本語訳(一部省略)を本ブログの以下のサイトに掲載した。
注2 尹相虎「南北の陸海空緩衝区域1日から施行、一切の軍事訓練中止」(『東亜日報』、2018年11月1日)http://japanese.donga.com/Home/3/all/27/1525310/1
注3 牧野愛博「韓国と北朝鮮、遺骨発掘用道路を連結 非武装地帯で」(『朝日新聞』、2018年11月22日)
注4 「非武装地帯の北朝鮮側監視所 完全破壊を確認=韓国軍」(聯合ニュース、2018年12月17日)
注5 「韓国と米国 海兵隊合同演習再開へ=約6カ月ぶり」(聯合ニュース、2018年11月4日)。同記事は、2019会計年度での再開も報じており、この種の演習の今後の動向は不明である。
注6 「韓国軍『米爆撃機の朝鮮半島展開なし』、昨年11月の北ミサイル発射以降」(聯合ニュース、2018年11月27日)
注7 「米軍、朝鮮半島に爆撃機飛来させず 韓国の要請で」(AFP、2018年11月27日)
注8 “Media Availability with Secretary Mattis,”
U.S. Department of Defense, November 21, 2018
注9 Robert, BURNS. “US
and South Korea again call off a major military exercise,” AP, October 20, 2018. https://www.apnews.com/7c4c40989a98451493664fb11f27f861
注10 "Joint
Communiqué of the 50th U.S.-ROK Security Consultative Meeting," U.S.
Department of Defense, October 31, 2018.
注11 「韓米連合空中訓練の代わりに韓国空軍単独訓練、今日から実施」(『中央日報』、2018年12月3日)
注12 「남조선공군 전투준비태세유지 위한 종합훈련 시작」(『朝鮮中央通信』、2018年12月4日)
http://www.kcna.co.jp/index-k.htm から日付検索できる。(朝鮮語)
注13 Elizabeth, Shim. “North Korea condemns
South's air force exercises,” UPI, December 4, 2018
注14 ユ・ガンムン「韓米合同演習の代わりに空軍戦闘態勢訓練」(『ハンギョレ』、2018年12月4日)http://japan.hani.co.kr/arti/politics/32267.html
注15 Idrees Ali and Phil
Stewart, “U.S.-North Korea talks could affect U.S. military posture in Korea:
Dunford,” Reuters, November 6, 2018.
2018/12/25
監視報告 No.3
監視報告 No.3 2018年12月25日
§ <朝鮮半島と周辺>の平和構築のために日本の役割を見出そうとする日本政府の姿勢が見えない
朝鮮半島非核化合意の履行に不安要素が目立ち始めている。
11月2日の朝鮮中央通信に掲載された「米国はいつになったら愚かな貪欲と妄想から目を覚ますのか」と題するDPRK外務省米国研究所クォン・ジョングン所長の論評([注1]。日本語全訳を本報告のために準備した)は、米国の対北交渉の姿勢に対するDPRKの批判が一段階レベルアップしたことを示唆した。10月に登場した諸論評には登場しなかったDPRKの路線変更の可能性について、留保を伴いながらではあるが、初めて言及したのである。
論評は、トランプ大統領への直接的な批判を控え、「ホワイトハウスや米政権の高官たち」を標的にしながら、米国に米朝関係を改善しようという姿勢が見られないことを強く批判した。クォン所長は、シンガポールにおける首脳会談について、「DPRKと米国のトップリーダーが6月の歴史的なシンガポール会談において手を握りながら約束したことは、米朝間の世紀をまたぐ敵対関係を終わらせ、関係改善の新しい歴史を作ることだ」と述べ、世界が歓迎した会談の核心は、米朝関係を改善する新しい歴史を作ることに両首脳が合意したことだと強調した。そして、北朝鮮への制裁と圧力を強調するのみの米国の現状について、「関係改善と制裁は相いれない」「『友好』は『圧力』と矛盾する」と批判した。さらに「DPRKの核問題が、本当に朝鮮半島の緊張と悪化した米朝関係を含む全ての複雑な問題を引き起こす病根だろうか」と根本的な問いを投げかけた。そして、そもそも核問題が発生した歴史的経過を踏まえれば、「米朝交渉は相互利益と対等性に基づいた、同時進行的で段階的な方法で行われるべきだ」と主張した。この考えに立つとき、「(北朝鮮が)率先した善意ある措置によって、米国に対して可能な全てのことを過分なほどに行った今、残されているのは米国による相応の対応だ」として、DPRKは米国の行動を要求し、「何の対応もなければ、DPRKはどんなにコストが大きかろうと、1ミリであっても動かない」と述べた。
前述したようにクォン所長の論評の注目点は、言葉を慎重に選びながら、DPRKの忍耐が限界に近いことを示唆している点であろう。すなわち、論評は、米国の姿勢に改善が見られない場合は、4月の朝鮮労働党中央委員会全体会議において国家の全エネルギーを経済建設に注入すると決定した国家路線に「『並進』(経済建設と核戦力強化を同時に進めること)という言葉が再び登場し、路線変更が真剣に再考される」可能性があると述べている。
本監視プロジェクトは朝鮮半島の非核化合意が脱線せずに実行されることを願って活動している。
その立場から、我々が現在の情勢を検討するとき、①南北両政府が、首脳合意に従った関係修復の努力を続けそれが順調に進んでいること、そして、②米韓の関係が良好に維持されていることが、この局面において米朝関係のいっそうの悪化を防ぐ役割を果たしていることを先ず指摘したい。米国、韓国、日本の市民社会は、この状況を正確に認識し、南北両政府の努力、とりわけ両方の外交プロセスに関与している韓国政府の果たしている役割を正当に評価し、激励することが重要である。
それに加えて、日本政府が居るべき舞台にまだ登場していない事実にも市民社会は目を注ぐ必要がある。もし日本政府が積極的に北東アジアの平和建設に関与する意欲をもって舞台に登場していたならば、現在のような困難な局面を打開するために活用することができる、もう一つの変数を我々は手にしている可能性があるからである。
しかし、残念ながら日本政府の現実は、そのような期待から程遠いところに位置している。
監視報告No.1に記したように、10月24日の臨時国会冒頭における所信表明演説において、安倍首相は言葉の上では、現在起こっている朝鮮半島の変化に注目し、「次は、私自身が金正恩委員長と向き合わなければならない」と意欲を示し「相互不信の殻を破り、拉致、核、ミサイルの問題を解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交正常化を目指します」と述べた。
しかし、その後の日本の政治には、この言葉を具体化する努力をほとんど見ることが出来ない。安倍政権のみならず、国会の議論全体において、朝鮮半島情勢に関する議論は低調であった。河野太郎外務大臣は、参議院の外交防衛委員会の冒頭発言において、次のように述べたが、具体的な方針として表明されている内容は安保理決議の完全な履行のみであった。
「先般の米朝首脳共同声明に明記された朝鮮半島の完全な非核化に向けた北朝鮮のコミットメントを含む両首脳間の合意が、完全かつ迅速に履行されることが重要であり、各国による安保理決議の完全な履行を確保することが不可欠です。」[注2]
衆議院外務委員会においても、北朝鮮に対する現状認識を問われた河野外務大臣は、北朝鮮の脅威はこれまでと変わらないと述べ、国連安保理決議の履行の重要性を強調した。
「シンガポールの米朝首脳会談以降、核実験あるいはミサイルの発射ということは行われておりませんが、依然としてノドンミサイルを多数持っている、あるいは核兵器の開発は相当進んでいる、この状況に何ら変化はございません。
引き続き、北朝鮮、国際社会への脅威である、この認識には変わりはございませんので、国際社会が一致して、北朝鮮の核、ミサイルのCVIDに向けて国連の安保理の決議を完全に履行する、この国際社会の足並みをそろえた状況を今後とも維持してまいりたいと思っております。」[注3]
現在明らかになっている日本政府の方針は、歴史的なサミットが開催された以前からの、国連安保理決議による対北朝鮮制裁の厳格な履行のみであるといっても過言ではない。
とりわけ、日本政府は、北朝鮮船舶の瀬取りによる違法な制裁逃れの摘発に熱心に取り組んでいる。外務省は11月に瀬取りに関する報道発表を行ったが、そこには次のような外務省の認識が述べられている。
「我が国としては,北朝鮮の完全な,検証可能な,かつ,不可逆的な方法での全ての大量破壊兵器及びあらゆる射程の弾道ミサイルの廃棄の実現に向け,国際社会が一致団結して国連安保理決議を完全に履行する必要があると考えており,これに資する関係国による取組を歓迎し,高く評価しています。我が国は,引き続き,全ての関係国と緊密に協力し,国連安保理決議の実効性を確保する取組を実施していく考えです。」[注4]
残念ながら、日本の外務省が朝鮮半島の非核化に関して市民に積極的に発信をしている内容は、国連決議の履行についてのこのような北朝鮮への圧力行使の取り組みのみである。11月下旬、東京で開催されたあるNGO主催のシンポジウムにおいて、筆者の一人が外務省不拡散部門の中堅職員と同席する機会があったが、そのときに聴衆に対して説明された北朝鮮の核問題に関する外務省の見解も、「国連安保理決議の履行を迫ることが何よりも大切である」という内容であった。
日本の外務省は、米朝首脳会談で合意された内容が、北朝鮮による「完全な非核化の約束」だけではなくて、米国による「北朝鮮に対する安全の保証の約束」も同じように含んでいる
という認識を持っているのだろうか?首脳会談の合意が実現するためには両者の約束の履行がともに進展する必要があると、日本の外務省は考えているのだろうか?
国会での議論が行われない中で、この疑問に対する明確な回答を得ることが、日本の市民はもちろん、世界の関心ある市民にとって極めて重要であろう。幸い、本プロジェクトを発足するにあたって、ピースデポは外務省のこの問題の担当部署であるアジア大洋州局のナンバーツーとなる高官と面会し、意見交換する機会を持つことが出来た。高官によるこの点に関する回答は明快であった。「両方の約束があることを認識している。内容は言えないが、そのような認識の下で米国と緊密に連絡をとっている」というのが回答内容であった。これは、市民にとって最低限ではあるが朗報に違いない。(森山拓也、梅林宏道)
日本語全訳:https://nonukes-northeast-asia-peacedepot.blogspot.com/p/dprk-2018-11-2-dprk-11-2-dprk-2-9-dprk.html
注2 河野太郎、参議院外交防衛委員会における発言、2018年11月13日。
注3 河野太郎、衆議院外務委員会における答弁、2018年11月14日。
注4 外務省報道発表「国連安保理決議により禁止された北朝鮮籍船舶の『瀬取り』を含む違法な海上活動に対する関係国による警戒監視活動」、2018年11月6日。
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