2021/04/27

監視報告 No.31

   監視報告 No.31  2021年4月26日


§ バイデン政権が進める北朝鮮政策に関する日本と韓国との協議では、各国の主体的な北東アジアへの地域ビジョンが問われている。


2021年1月20日、バイデン政権が始動した。発足して数か月だが、今のところ、バイデン政権は、米国は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)の安全を保証し、DPRKは朝鮮半島の完全な非核化のために努力し、新しい米朝関係の確立と永続的な朝鮮半島の平和体制の構築を相互に約束した、2018年6月の米朝首脳会談のシンガポール合意の内容を、今後の米朝交渉の基礎として継承するかどうかは分からない。しかし、バイデン政権が北朝鮮問題を重視し、無視ではなく何らかの関与政策をとり、政策方針の選択に当たっては日韓両政府と協議していこうとしている方針であることは、その後の発言や発表文書などからうかがえる。

ブリンケン国務長官は、2月1日に放映されたMSNBCテレビの番組において、北朝鮮の核問題は「政権が変わっても悪化し続けてきた問題であることを認めるところから始めたい」とし、民主党、共和党を超えて今までの米国政府の外交が効果を上げていないと自認した。そして、バイデン大統領から「朝鮮半島の非核化を前進させるために最も効果的な方策を取るために政策を見直すよう頼まれた」と語った[注1]。さらに、それは同盟国と共に進めると表明している。ブリンケンは1月19日の承認聴聞会で、北朝鮮問題について「同盟国とパートナー国、特に韓国や日本などと緊密に相談し、すべてのオプションを調べてみることからはじめる」と述べた[注2]。事実、2月19日、日米韓は朝鮮半島の完全な非核化のための局長級の協議をオンラインで開き、協力を深めることで合意した。

韓国と日本との協議を重視するバイデン政権の基本姿勢は一見当然のことのように見える。しかし、協議する目的は何かという問いに対する答えは必ずしも自明ではない。現実問題において、韓国と日本における現政権の対北朝鮮政策には根本的な違いがある。とりわけ、2018年に訪れた非核化と平和に向かう朝鮮半島情勢に対して、日本政府は積極的に関与するプレヤーとしての主体性すら持ち得ていない。米国と韓国が紛れもなく2018年以後の変化の重要な当事者であるなかで、米新政権が日本と韓国の両政府と連携することの意味は何なのか、それが本エッセイの関心事である。


文在寅政権の米政権への期待

韓国の文在寅大統領はよく知られるように2018年以来の南北関係と米朝関係の新たな進展に大きく貢献してきた。とりわけ文にとって1953年からの停戦体制に代わる平和体制の構築は不動の目標であった。

バイデン政権に対しても、文は米朝首脳会談で得られたシンガポール合意を今後の米朝対話の出発点にしてほしいと考えている。21年1月18日、文は大統領府春秋館で開かれた年頭記者会見で、「バイデン政権の発足により朝米対話、南北対話を新たに始める転機が設けられたと思う」とし、「その対話はトランプ政権で成し遂げた成果を継承し、発展させていくものでなければならない」と述べた[注3]。

さらに、バイデン政権が発足した1月20日、文在寅は2018年に特使として北朝鮮を訪問し、シンガポール米朝首脳会談の準備をした鄭義溶(チョンウィヨン)を新しい外相に任命した。

3月18日、米韓外務・防衛閣僚会議「2プラス2」後に行われた共同記者会見において、鄭は、記者からの「米国はシンガポール合意を尊重すべきだと思うか」との質問に対し、「シンガポール合意は真剣に考慮される必要があるものであるが、韓国政府の観点からは、米朝関係を解決し、朝鮮半島に平和を確立し、非核化するための基本原則を確認するものである[注4]」と述べ、米国務長官が同席する場で米国への要請となるような発言を避けつつもシンガポール合意の本質的重要性を強調した。


無策のままの日本政府

日本政府は米朝のシンガポール合意を方向性は正しいものとして評価した[注5]ものの、実際には、国連安保理の制裁圧力の継続を重視し、「核兵器の放棄が先で、制裁解除は後」との立場を続けている。トランプ大統領の補佐官(安全保障担当)であったボルトンの回顧録によれば、安倍前首相はシンガポール会談前にトランプ大統領に対して金正恩委員長(当時)を信じないよう忠告し、米朝会談の進展を妨害したとされる[注6]。

2020年9月に発足した菅政権においてもこの制裁一辺倒の姿勢は変わらない[注7]。1月13日の年頭記者会見で、菅首相は「日朝平壌宣言に基づいて、拉致、核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決して、不幸な過去を清算して、北朝鮮と国交正常化を目指す」と述べ、従来の考えを繰り返した[注8]。バイデン政権発足後の日本政府の姿勢もこの延長上にあると考えて間違いない。3月16日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)後の記者会見において、茂木外相は「北朝鮮の完全な非核化の実現に向けて、国連安保理決議の完全な履行の重要性を確認し、日米及び日米韓三か国で引き続き協力していくことを確認した」と述べたが、この内容は相も変らぬ従来と同じ内容の繰り返しである[注9]。

実際には、日本政府はこのような公的な政策表明の背後で、より踏み込んだ後ろ向きの政策を追求している可能性がある。1月22日の自民党外交部会において外務省幹部は「日本は段階的アプローチを認めていない。(バイデン政権への)働き掛けを強化する」と述べたことが報じられた[注10]。この発言は、歴史上前例がないと言われる制裁を維持し続けることによって、北朝鮮が制裁に屈服して一挙に核兵器を放棄することを日本政府が目指していることをうかがわせる。さらに、一部の報道でバイデン政権はトランプ政権とは違って北朝鮮の段階的非核化の政策をとる可能性があると報じられていることに対して、そのような方針に抵抗する意向を示している。日本政府は、いわゆるリビア方式では一歩も前に進まなかった過去の非核化交渉の歴史から学ぶことなく、未だに圧力の効果という幻想を追っているようにみえる。3月30日、4月で期限が切れる北朝鮮に対する日本の独自制裁措置について、日本政府は2年間延長することを決定した[注11]。


「2+2」協議に現れた困難

このように韓国と日本の間には現在の対北朝鮮政策に大きな違いがある。韓国の文政権はシンガポール合意の履行を基礎に米朝交渉の再開を目指している。日本は対北朝鮮敵視に近い政策を保持し圧力に重点を置いている。バイデン政権は北朝鮮政策を策定するにあたって、この両者との協議を重視するというのである。そこから予想されるバイデン政権が直面するであろう困難は、早速、米韓、日米の「2+2」共同文書に現れている。

バイデン政権は、対中国戦略を重視する結果として、防衛・外交トップの直接会談の最初の訪問先を日本と韓国に選んだ。その結果、日米「2+2」会談(3月16日、東京)と韓米「2+2」会談(3月18日、ソウル)が相次いて行われ、それぞれの共同声明が発表された。そこには、当然、北朝鮮問題についての言及がある。

2つの「2+2」共同声明は、北朝鮮問題について際立って異なるメッセージを含んでいる。

日米共同声明においては、両国は北朝鮮を刺激する敵対的とも言える表現を用いた。日米共同声明に含まれている「北朝鮮の軍備(arsenal)が国際の平和と安定に対する脅威である」という文言は極めて挑発的である。核兵器に限らず北朝鮮のあらゆる軍備を国際的な脅威だというのは、かつてない乱暴な表現である。また、日米共同声明は「北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認した。」[注12]これは、韓国政府が、南北首脳宣言や米朝首脳共同声明で約束しているのは「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」であると述べてきた敏感な問題を無視した文言を敢えて使ったものである。

それに対して、米韓共同声明は、韓国には米国の核兵器は存在しないという米韓の共通の事実認識を前提としつつ、北朝鮮への配慮をにじませた表現に終始している。米韓は、共同声明において「北朝鮮の非核化」という文言は使わず「北朝鮮の核・弾道ミサイル問題が最大の優先課題だ」と述べて「問題を課題とする」という表現に留めたのみならず、韓国への米国の「核の傘」に直接言及することを避けた。つまり「米国側は、韓国の防衛とすべての範囲の能力を用いた拡大抑止の約束を再確認した」と、拡大抑止の内容における核兵器の要素を明記することを避けた[注13]。因みに、2日前の日米共同声明においては、同じ文脈において「核兵器を含むすべての範囲の能力」と核兵器を明記した。また、昨年10月の米国防長官と韓国防衛大臣の共同声明[注14]においても核兵器を明記して拡大抑止力の要素を述べていた。今回、「核」の文字を外したのはバイデン政権下の米朝関係の良好なスタートを願う韓国側の意向が働いたのであろう。


米・韓・日協議の意味

2つの共同声明に現れているように、バイデン政権が北朝鮮政策を検討するために同盟国と協議する場合、日本と韓国が与える影響の方向はほとんど正反対であると言っても過言でないであろう。

バイデン政権による北朝鮮政策の見直しが、すでに述べられているように「朝鮮半島の非核化を前進させる最も効果的な方法」を目指す[注15]ものであるとすれば、少なくとも北朝鮮の関与を継続させる方向での検討が必要であり、長期的な履行スケジュールを念頭に置く必要がある。短期解決は想定できない。そのような努力における実質的な内容において、現在の日本政府が果たしうる貢献はほとんどないであろう。むしろ緊張を高め情勢を悪化させるリスクを孕んでいる。一方で、韓国は2018年板門店宣言の実現という課題に挑戦している。韓国は、いわば米国が解くべき同じ問題の一部の独立した当事者である。韓国との協議で米国が得られる実質的な貢献は極めて大きいであろう。

この局面は、1999年におけるウィリアム・ペリー朝鮮半島問題特使(元国防長官)による政策見直しの局面を想起させる。ペリーは、1994年米朝枠組み合意・KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)プロセスを継続すべきか否かの包括的政策レビューをクリントン大統領に命じられた。そのときペリーは日本と韓国との協議を重視した。ペリーは日韓がまったく違った懸念を抱いていたと次のように回想録で述べている[注16]。

「韓国の金大中大統領は、私の北朝鮮政策レビューが進行中の太陽政策を壊すのではないかと心配し、日本の小渕恵三首相は、私の政策レビューが日本の最大の関心事である拉致問題を無視するのではないかと心配した…」

その後の歴史は、韓国との協議が政策見直しに大きく貢献したことを示しているが、日本の貢献の影はない。


しかし、にもかかわらず、米国が日、韓と北朝鮮政策について協議を行うことは朝鮮半島と北東アジアの平和と安定にとって極めて重要である。それはしばしば言われるような、米韓日の団結が北朝鮮に対する交渉圧力を強めるという理由からではない。北朝鮮にとっては、現に現れる米国の対北朝鮮政策が評価の対象となるすべてであると言っても過言ではないだろう。米国の北朝鮮政策が韓国、日本との了解のもとに進められることは、韓国、日本、米国それぞれが朝鮮半島問題に持続的に取り組むために不可欠な要件なのである。

韓国政府にとっては言うまでもなく韓国自身の板門店宣言の履行の義務があり、米国との調整は不可欠である。日本政府にとっては、米国から常に相談を受けているという事実そのものが、日本政府の本音に反する方向に交渉の進展があったときにも政府が保守勢力を納得させる材料になり、さらには、世論が現在以上に情勢好転の足を引っ張る方向に傾くことを日本政府が抑制しようとする誘因となるであろう。それが、望むらくは、日本政府が現在の無策をのり超えて、より主体的な関与を促す世論形成の前提的土台となる。米政府自身にとっては、北朝鮮政策の策定と実行は朝鮮戦争の終結問題を含む北東アジアの安保政策全体を視野に入れざるを得ない課題である。その持続可能な解決には必然的に中国を含む地域的な視野における取組が必要になる。したがって、それぞれが独自の事情を抱えて対中関係を追求しなければならない日本と韓国という同盟国との政策調整は不可欠である。逆に、この事実は、日本と韓国においても、同様な地域的視野をもって対米交渉に臨まなければならないことを意味している。

北朝鮮政策に関する米・韓・日の協議とは、それぞれが中国と北朝鮮を含む北東アジアの非核・平和に関する主体的なビジョンをもって協議に臨む場とならなければならない。(ドゥブルー達郎、湯浅一郎、梅林宏道)


注1 『国務長官アントニー・ブリンケンとMSNBCのアンドレア・ミッチェル』、米国務省、

2021年2月1日。

https://www.state.gov/secretary-antony-j-blinken-with-andrea-mitchell-of-msnbc-andrea-mitchell-reports/  

注2 「国務省長官候補アントニー・ブリンケンが指名承認公聴会で証言」、『PBSNEWSHOUR』、2021年1月19日。

https://www.pbs.org/newshour/politics/watch-live-senate-committee-on-foreign-relations-holds-confirmation-hearing-for-antony-blinken

注3 「文大統領『朝米対話はシンガポール宣言から再始動すべき』」、『ハンギョレ』、 2021年1月19日。 https://news.yahoo.co.jp/articles/19bc8a9aa39f40d084494ffa189240022c705518

注4 「国防長官ロイド・オースティンと国務長官アントニー・ブリンケンが米韓の外交・防衛「2+2」協議会の後、韓国のカウンターパートと記者会見を開く」、米国防総省、2021年3月18日。  https://www.defense.gov/Newsroom/Transcripts/Transcript/Article/2541299/secretary-of-defense-lloyd-j-austin-iii-and-secretary-of-state-antony-blinken-c/  

注5 「『北朝鮮めぐる懸案解決に向けた一歩と支持』安倍首相」、『NHK』、2018年6月12日。

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/5455.html

注6 ジョン・ボルトン「ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日」(朝日新聞出版、2020年10月7日)。

注7 最近の安倍、菅政権の北朝鮮政策が『監視報告No.28』において論じられている。 梅林宏道、湯浅一郎「「条件を付けずに首脳会談を目指す」日本政府の北朝鮮政策には、首尾一貫した政策メッセージと平壌宣言の正しい理解が不可欠である」、2021年1月13日。

注8 『新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見』、首相官邸、2021年1月13日。

http://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0113kaiken.html 

注9 「日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同記者会見」、外務省、2021年3月16日。https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page3_003036.html

注10 「日本、段階的非核化を警戒 米新政権の対北朝鮮政策」、『産経新聞』、2021年1月22日。 

https://www.sankei.com/politics/news/210122/plt2101220031-n1.html

注11 「北朝鮮に対する日本独自の制裁措置 2年間延長へ」、『NHK』、2021年3月30日。  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210330/k10012944431000.html

注12 「日米共同記者声明」、米国務省、2021年3月16日。

https://www.state.gov/u-s-japan-joint-press-statement/

注13 「2021米韓外交・防衛「2+2」共同声明」、米国務省、2021年3月18日。 https://www.state.gov/joint-statement-of-the-2021-republic-of-korea-united-states-foreign-and-defense-ministerial-meeting-22/

注14 「第52回米韓安保協議会議の共同コミュニケ」、米国防総省、2020年10月14日。

https://www.defense.gov/Newsroom/Releases/Release/Article/2381879/joint-communique-of-the-52nd-us-republic-of-korea-security-consultative-meeting/

注15 注1と同じ。

注16 William J. Perry, “My Journey at the Nuclear Brink,” Stanford University Press, 2015


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