2021/04/27

監視報告 No.31

   監視報告 No.31  2021年4月26日


§ バイデン政権が進める北朝鮮政策に関する日本と韓国との協議では、各国の主体的な北東アジアへの地域ビジョンが問われている。


2021年1月20日、バイデン政権が始動した。発足して数か月だが、今のところ、バイデン政権は、米国は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)の安全を保証し、DPRKは朝鮮半島の完全な非核化のために努力し、新しい米朝関係の確立と永続的な朝鮮半島の平和体制の構築を相互に約束した、2018年6月の米朝首脳会談のシンガポール合意の内容を、今後の米朝交渉の基礎として継承するかどうかは分からない。しかし、バイデン政権が北朝鮮問題を重視し、無視ではなく何らかの関与政策をとり、政策方針の選択に当たっては日韓両政府と協議していこうとしている方針であることは、その後の発言や発表文書などからうかがえる。

ブリンケン国務長官は、2月1日に放映されたMSNBCテレビの番組において、北朝鮮の核問題は「政権が変わっても悪化し続けてきた問題であることを認めるところから始めたい」とし、民主党、共和党を超えて今までの米国政府の外交が効果を上げていないと自認した。そして、バイデン大統領から「朝鮮半島の非核化を前進させるために最も効果的な方策を取るために政策を見直すよう頼まれた」と語った[注1]。さらに、それは同盟国と共に進めると表明している。ブリンケンは1月19日の承認聴聞会で、北朝鮮問題について「同盟国とパートナー国、特に韓国や日本などと緊密に相談し、すべてのオプションを調べてみることからはじめる」と述べた[注2]。事実、2月19日、日米韓は朝鮮半島の完全な非核化のための局長級の協議をオンラインで開き、協力を深めることで合意した。

韓国と日本との協議を重視するバイデン政権の基本姿勢は一見当然のことのように見える。しかし、協議する目的は何かという問いに対する答えは必ずしも自明ではない。現実問題において、韓国と日本における現政権の対北朝鮮政策には根本的な違いがある。とりわけ、2018年に訪れた非核化と平和に向かう朝鮮半島情勢に対して、日本政府は積極的に関与するプレヤーとしての主体性すら持ち得ていない。米国と韓国が紛れもなく2018年以後の変化の重要な当事者であるなかで、米新政権が日本と韓国の両政府と連携することの意味は何なのか、それが本エッセイの関心事である。


文在寅政権の米政権への期待

韓国の文在寅大統領はよく知られるように2018年以来の南北関係と米朝関係の新たな進展に大きく貢献してきた。とりわけ文にとって1953年からの停戦体制に代わる平和体制の構築は不動の目標であった。

バイデン政権に対しても、文は米朝首脳会談で得られたシンガポール合意を今後の米朝対話の出発点にしてほしいと考えている。21年1月18日、文は大統領府春秋館で開かれた年頭記者会見で、「バイデン政権の発足により朝米対話、南北対話を新たに始める転機が設けられたと思う」とし、「その対話はトランプ政権で成し遂げた成果を継承し、発展させていくものでなければならない」と述べた[注3]。

さらに、バイデン政権が発足した1月20日、文在寅は2018年に特使として北朝鮮を訪問し、シンガポール米朝首脳会談の準備をした鄭義溶(チョンウィヨン)を新しい外相に任命した。

3月18日、米韓外務・防衛閣僚会議「2プラス2」後に行われた共同記者会見において、鄭は、記者からの「米国はシンガポール合意を尊重すべきだと思うか」との質問に対し、「シンガポール合意は真剣に考慮される必要があるものであるが、韓国政府の観点からは、米朝関係を解決し、朝鮮半島に平和を確立し、非核化するための基本原則を確認するものである[注4]」と述べ、米国務長官が同席する場で米国への要請となるような発言を避けつつもシンガポール合意の本質的重要性を強調した。


無策のままの日本政府

日本政府は米朝のシンガポール合意を方向性は正しいものとして評価した[注5]ものの、実際には、国連安保理の制裁圧力の継続を重視し、「核兵器の放棄が先で、制裁解除は後」との立場を続けている。トランプ大統領の補佐官(安全保障担当)であったボルトンの回顧録によれば、安倍前首相はシンガポール会談前にトランプ大統領に対して金正恩委員長(当時)を信じないよう忠告し、米朝会談の進展を妨害したとされる[注6]。

2020年9月に発足した菅政権においてもこの制裁一辺倒の姿勢は変わらない[注7]。1月13日の年頭記者会見で、菅首相は「日朝平壌宣言に基づいて、拉致、核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決して、不幸な過去を清算して、北朝鮮と国交正常化を目指す」と述べ、従来の考えを繰り返した[注8]。バイデン政権発足後の日本政府の姿勢もこの延長上にあると考えて間違いない。3月16日の日米安全保障協議委員会(「2+2」)後の記者会見において、茂木外相は「北朝鮮の完全な非核化の実現に向けて、国連安保理決議の完全な履行の重要性を確認し、日米及び日米韓三か国で引き続き協力していくことを確認した」と述べたが、この内容は相も変らぬ従来と同じ内容の繰り返しである[注9]。

実際には、日本政府はこのような公的な政策表明の背後で、より踏み込んだ後ろ向きの政策を追求している可能性がある。1月22日の自民党外交部会において外務省幹部は「日本は段階的アプローチを認めていない。(バイデン政権への)働き掛けを強化する」と述べたことが報じられた[注10]。この発言は、歴史上前例がないと言われる制裁を維持し続けることによって、北朝鮮が制裁に屈服して一挙に核兵器を放棄することを日本政府が目指していることをうかがわせる。さらに、一部の報道でバイデン政権はトランプ政権とは違って北朝鮮の段階的非核化の政策をとる可能性があると報じられていることに対して、そのような方針に抵抗する意向を示している。日本政府は、いわゆるリビア方式では一歩も前に進まなかった過去の非核化交渉の歴史から学ぶことなく、未だに圧力の効果という幻想を追っているようにみえる。3月30日、4月で期限が切れる北朝鮮に対する日本の独自制裁措置について、日本政府は2年間延長することを決定した[注11]。


「2+2」協議に現れた困難

このように韓国と日本の間には現在の対北朝鮮政策に大きな違いがある。韓国の文政権はシンガポール合意の履行を基礎に米朝交渉の再開を目指している。日本は対北朝鮮敵視に近い政策を保持し圧力に重点を置いている。バイデン政権は北朝鮮政策を策定するにあたって、この両者との協議を重視するというのである。そこから予想されるバイデン政権が直面するであろう困難は、早速、米韓、日米の「2+2」共同文書に現れている。

バイデン政権は、対中国戦略を重視する結果として、防衛・外交トップの直接会談の最初の訪問先を日本と韓国に選んだ。その結果、日米「2+2」会談(3月16日、東京)と韓米「2+2」会談(3月18日、ソウル)が相次いて行われ、それぞれの共同声明が発表された。そこには、当然、北朝鮮問題についての言及がある。

2つの「2+2」共同声明は、北朝鮮問題について際立って異なるメッセージを含んでいる。

日米共同声明においては、両国は北朝鮮を刺激する敵対的とも言える表現を用いた。日米共同声明に含まれている「北朝鮮の軍備(arsenal)が国際の平和と安定に対する脅威である」という文言は極めて挑発的である。核兵器に限らず北朝鮮のあらゆる軍備を国際的な脅威だというのは、かつてない乱暴な表現である。また、日米共同声明は「北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認した。」[注12]これは、韓国政府が、南北首脳宣言や米朝首脳共同声明で約束しているのは「北朝鮮の非核化」ではなく「朝鮮半島の非核化」であると述べてきた敏感な問題を無視した文言を敢えて使ったものである。

それに対して、米韓共同声明は、韓国には米国の核兵器は存在しないという米韓の共通の事実認識を前提としつつ、北朝鮮への配慮をにじませた表現に終始している。米韓は、共同声明において「北朝鮮の非核化」という文言は使わず「北朝鮮の核・弾道ミサイル問題が最大の優先課題だ」と述べて「問題を課題とする」という表現に留めたのみならず、韓国への米国の「核の傘」に直接言及することを避けた。つまり「米国側は、韓国の防衛とすべての範囲の能力を用いた拡大抑止の約束を再確認した」と、拡大抑止の内容における核兵器の要素を明記することを避けた[注13]。因みに、2日前の日米共同声明においては、同じ文脈において「核兵器を含むすべての範囲の能力」と核兵器を明記した。また、昨年10月の米国防長官と韓国防衛大臣の共同声明[注14]においても核兵器を明記して拡大抑止力の要素を述べていた。今回、「核」の文字を外したのはバイデン政権下の米朝関係の良好なスタートを願う韓国側の意向が働いたのであろう。


米・韓・日協議の意味

2つの共同声明に現れているように、バイデン政権が北朝鮮政策を検討するために同盟国と協議する場合、日本と韓国が与える影響の方向はほとんど正反対であると言っても過言でないであろう。

バイデン政権による北朝鮮政策の見直しが、すでに述べられているように「朝鮮半島の非核化を前進させる最も効果的な方法」を目指す[注15]ものであるとすれば、少なくとも北朝鮮の関与を継続させる方向での検討が必要であり、長期的な履行スケジュールを念頭に置く必要がある。短期解決は想定できない。そのような努力における実質的な内容において、現在の日本政府が果たしうる貢献はほとんどないであろう。むしろ緊張を高め情勢を悪化させるリスクを孕んでいる。一方で、韓国は2018年板門店宣言の実現という課題に挑戦している。韓国は、いわば米国が解くべき同じ問題の一部の独立した当事者である。韓国との協議で米国が得られる実質的な貢献は極めて大きいであろう。

この局面は、1999年におけるウィリアム・ペリー朝鮮半島問題特使(元国防長官)による政策見直しの局面を想起させる。ペリーは、1994年米朝枠組み合意・KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)プロセスを継続すべきか否かの包括的政策レビューをクリントン大統領に命じられた。そのときペリーは日本と韓国との協議を重視した。ペリーは日韓がまったく違った懸念を抱いていたと次のように回想録で述べている[注16]。

「韓国の金大中大統領は、私の北朝鮮政策レビューが進行中の太陽政策を壊すのではないかと心配し、日本の小渕恵三首相は、私の政策レビューが日本の最大の関心事である拉致問題を無視するのではないかと心配した…」

その後の歴史は、韓国との協議が政策見直しに大きく貢献したことを示しているが、日本の貢献の影はない。


しかし、にもかかわらず、米国が日、韓と北朝鮮政策について協議を行うことは朝鮮半島と北東アジアの平和と安定にとって極めて重要である。それはしばしば言われるような、米韓日の団結が北朝鮮に対する交渉圧力を強めるという理由からではない。北朝鮮にとっては、現に現れる米国の対北朝鮮政策が評価の対象となるすべてであると言っても過言ではないだろう。米国の北朝鮮政策が韓国、日本との了解のもとに進められることは、韓国、日本、米国それぞれが朝鮮半島問題に持続的に取り組むために不可欠な要件なのである。

韓国政府にとっては言うまでもなく韓国自身の板門店宣言の履行の義務があり、米国との調整は不可欠である。日本政府にとっては、米国から常に相談を受けているという事実そのものが、日本政府の本音に反する方向に交渉の進展があったときにも政府が保守勢力を納得させる材料になり、さらには、世論が現在以上に情勢好転の足を引っ張る方向に傾くことを日本政府が抑制しようとする誘因となるであろう。それが、望むらくは、日本政府が現在の無策をのり超えて、より主体的な関与を促す世論形成の前提的土台となる。米政府自身にとっては、北朝鮮政策の策定と実行は朝鮮戦争の終結問題を含む北東アジアの安保政策全体を視野に入れざるを得ない課題である。その持続可能な解決には必然的に中国を含む地域的な視野における取組が必要になる。したがって、それぞれが独自の事情を抱えて対中関係を追求しなければならない日本と韓国という同盟国との政策調整は不可欠である。逆に、この事実は、日本と韓国においても、同様な地域的視野をもって対米交渉に臨まなければならないことを意味している。

北朝鮮政策に関する米・韓・日の協議とは、それぞれが中国と北朝鮮を含む北東アジアの非核・平和に関する主体的なビジョンをもって協議に臨む場とならなければならない。(ドゥブルー達郎、湯浅一郎、梅林宏道)


注1 『国務長官アントニー・ブリンケンとMSNBCのアンドレア・ミッチェル』、米国務省、

2021年2月1日。

https://www.state.gov/secretary-antony-j-blinken-with-andrea-mitchell-of-msnbc-andrea-mitchell-reports/  

注2 「国務省長官候補アントニー・ブリンケンが指名承認公聴会で証言」、『PBSNEWSHOUR』、2021年1月19日。

https://www.pbs.org/newshour/politics/watch-live-senate-committee-on-foreign-relations-holds-confirmation-hearing-for-antony-blinken

注3 「文大統領『朝米対話はシンガポール宣言から再始動すべき』」、『ハンギョレ』、 2021年1月19日。 https://news.yahoo.co.jp/articles/19bc8a9aa39f40d084494ffa189240022c705518

注4 「国防長官ロイド・オースティンと国務長官アントニー・ブリンケンが米韓の外交・防衛「2+2」協議会の後、韓国のカウンターパートと記者会見を開く」、米国防総省、2021年3月18日。  https://www.defense.gov/Newsroom/Transcripts/Transcript/Article/2541299/secretary-of-defense-lloyd-j-austin-iii-and-secretary-of-state-antony-blinken-c/  

注5 「『北朝鮮めぐる懸案解決に向けた一歩と支持』安倍首相」、『NHK』、2018年6月12日。

https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/5455.html

注6 ジョン・ボルトン「ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日」(朝日新聞出版、2020年10月7日)。

注7 最近の安倍、菅政権の北朝鮮政策が『監視報告No.28』において論じられている。 梅林宏道、湯浅一郎「「条件を付けずに首脳会談を目指す」日本政府の北朝鮮政策には、首尾一貫した政策メッセージと平壌宣言の正しい理解が不可欠である」、2021年1月13日。

注8 『新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見』、首相官邸、2021年1月13日。

http://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2021/0113kaiken.html 

注9 「日米安全保障協議委員会(「2+2」)共同記者会見」、外務省、2021年3月16日。https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/st/page3_003036.html

注10 「日本、段階的非核化を警戒 米新政権の対北朝鮮政策」、『産経新聞』、2021年1月22日。 

https://www.sankei.com/politics/news/210122/plt2101220031-n1.html

注11 「北朝鮮に対する日本独自の制裁措置 2年間延長へ」、『NHK』、2021年3月30日。  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210330/k10012944431000.html

注12 「日米共同記者声明」、米国務省、2021年3月16日。

https://www.state.gov/u-s-japan-joint-press-statement/

注13 「2021米韓外交・防衛「2+2」共同声明」、米国務省、2021年3月18日。 https://www.state.gov/joint-statement-of-the-2021-republic-of-korea-united-states-foreign-and-defense-ministerial-meeting-22/

注14 「第52回米韓安保協議会議の共同コミュニケ」、米国防総省、2020年10月14日。

https://www.defense.gov/Newsroom/Releases/Release/Article/2381879/joint-communique-of-the-52nd-us-republic-of-korea-security-consultative-meeting/

注15 注1と同じ。

注16 William J. Perry, “My Journey at the Nuclear Brink,” Stanford University Press, 2015


2021/03/24

監視報告 No.30

  監視報告 No.30  2021年3月23日


§ 第8回労働党大会以後も、北朝鮮の非核化政策や対米交渉の姿勢は変わっていない

ある側面から見れば、オバマ政権発足時とバイデン政権発足時の米朝関係には類似性がある。オバマ政権のときは6か国協議が米国の拙速な検証要求で行き詰まって、それを打開する道を探ることが問われた。バイデン政権においては、米朝のシンガポール合意の履行が米国の拙速なビッグディール要求で行き詰まって、今後のアプローチが問われている。もちろん、トランプ・ファーストと言われた前大統領の利己的でパフォーマンス色の強い外交交渉のあり方からの転換が必要であること、ここ数年において朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核、ミサイル能力が長足の進歩を遂げていること、の2点において、両政権が発足時の局面の間には大きな違いがあることも事実であろう。

 この状況において、北朝鮮の対米政策の現状を整理しておくことが重要であろう。端的に言えば、1月の第8回朝鮮労働党大会において、①2018年米朝首脳共同声明で相互に合意した内容への評価に変化があったか、②共同声明の履行に関して、敵視政策から脱した「新しい計算法」を米国に求めていた2019年以後の対米要求に変化があったか、についての整理が求められている。

202115日~12日、朝鮮労働党大会が5年ぶりに開催された。報道されているように、金正恩総書記は演説で米国は「最大の敵」だと述べ、核開発の継続も宣言した。しかし、そのことをもって、北朝鮮に非核化の意思がないとか対米対決路線の復活とか結論づけるのは短絡すぎるだろう。党大会で打ち出された政策とメッセージを正確に理解することが必要である。

 

労働党大会の中心課題は経済

先ず押さえておきたいのは、党大会の中心課題は、前回の労働党大会で掲げた「国家経済発展5カ年戦略」(2016年)を総括し、社会主義建設を達成するための今後5年の経済計画を打ち出すことであった、という事実である。2020年において経済が、自然災害、新型コロナウィルス、経済制裁の三重苦によって困難を極めていたときから、今回の労働党大会は困難を新路線によって乗り超える新しい出発地点として位置づけられていた。

党大会の開会の辞において、金正恩は「国家経済発展5か年戦略は昨年までに終わりましたが、ほとんど全ての部門が掲げた目標をはなはだしく達成できませんでした」と失敗を述べた[1]。党大会で中心であった金正恩の9時間に及ぶ報告でも、後述するように社会主義建設を前進させるための経済戦略に重点が置かれた。大会最終日の結語においては、「社会主義経済建設は、今日、われわれが総力を集中すべき最も重要な革命課題です」と檄をとばした[2]。さらに党大会の締めくくりとなるスローガンは、「以民為天」「一心団結」「自力更生」となった[3]。これも自力更生によって人民生活の向上を目指すという経済建設の旗印といってよいだろう。このように、大会は最初から最後まで経済発展への挑戦という基調で貫かれていた。

金正恩の長い報告演説における経済に関する内容をもう少し詳しく見てみよう。

金正恩は経済発展が滞った外的要因として、「アメリカと敵対勢力が強行した最悪の野蛮な制裁・封鎖策動」や「毎年被ったひどい自然災害と昨年に発生した世界的な保健危機の長期化」を上げている。しかし、経済の失敗への反省ないし批判の目を党内部に向けた。「客観的条件にかこつければ何事もできず、主体の作用と役割が不要になり、不利な外的要因がなくならない限り、革命闘争と建設事業を推し進めることができないという結論に達することになる」と指摘し、党中央委員会が「国家経済発展5カ年戦略が科学的な見積もりと根拠に基づいて明確に作成されず、科学技術が実際に国の経済活動を牽引する役割を果たさず、不合理な経済活動体系と秩序を整備、補強するための活動がまともに推進されなかった」と政治の責任を主体的要因として掲げた。

しかし、この教訓から導かれる改革についての「科学的な」具体性は必ずしも明らかにされていない。今後5年間の経済計画においては、内閣が経済管理を「画期的に改善」し、科学技術で生産力を近代化し、原料・資材の国産化を積極的に推進するよう指示している。「経済発展のキーポイントに力を集中して人民経済の全般を活性化し、人民の生活を向上させうる強固な土台を築く」ことを目的に上程された5か年計画の説明では、「自力更生」と「自給自足」をテーマに、金属工業部門、化学工業部門、農業部門、軽工業部門など各経済分野での課題や戦略を提示した。

 

経済の「正面突破戦」の継続

これらの立論から明らかなように、敵対勢力による経済制裁が経済戦略を達成できなかった要因の一つに挙げることが、外部環境を改善させるために米国を中心とした「国際社会」の圧力に屈して核兵器を放棄するという考えにつながることはない。それとは逆に、経済制裁の継続を前提とした自力更生路線がより一層強調されることになる。この考え方は、基本的には、米国の敵視政策は終わらないという前提で経済発展を成し遂げようとして、2020年一年を通して行われてきた「正面突破戦」の継続であると言えるであろう[4]。

金正恩は報告の中で、状況の改善を、屈服ではなく外交戦に勝つことによって達成すると述べている。そして、外交戦略においては米国に打ち勝つことを強調しつつ、「反帝自主勢力」との連帯を打ち出していることが注目される。米国と独立した勢力との経済協力に活路を見出しているように読み取ることができる。

「われわれの自主権を侵奪しようとする敵対勢力の策動を粉砕し、わが国家の正常的な発展権を守るための外交戦を攻勢的に展開しなければならない。対外政治活動を朝鮮革命発展の主な障害、最大の主敵であるアメリカを制圧し、屈服させることに焦点を合わせ、志向させていかなければならない。」「アメリカで誰が権力の座についてもアメリカという実体と対朝鮮政策の本心は絶対に変わらない。」「対外活動部門で対米戦略を策略的に樹立し、反帝自主勢力との連帯を引き続き拡大していく…」[5]。

 

経済発展に集中するための前提となる「戦争抑止力」

8回労働党大会における核兵器開発に関する言及は多くはないが、米国と韓国の戦力強化に関する指摘と北朝鮮の新戦力の細部にわたる反復記述が特徴となっている。労働党大会において表明されたこのような北朝鮮の核兵器開発に関する報告について2つの側面を読み取ることができる。

一つは、経済への集中を担保するための戦争抑止力という考え方が踏襲されているという側面である。これは、2017年の核戦力完成から経済飛躍への論理[6]、2018年の核戦力完成を踏まえての経済専念の論理[7]として述べられてきたものであり、昨年の「正面突破戦」の演説[8]や、秋の国連総会での金星・国連大使の演説[9]でも語られている。今回の報告でも「現実は、国家防衛力を瞬時も停滞させることなく強化してこそ、アメリカの軍事的脅威を抑止して朝鮮半島の平和と繁栄をもたらすことができるということを示している」[10]と述べている。

これを補強する論理として、金正恩は敵対勢力の軍事力増強の現実を強調し、それに見合った自国の戦争抑止力の増強の必要性を訴えた。「わが国家を狙った敵の先端兵器が増えているのを目の前で見ながらも、自分の力を絶えず培わず、平穏無事に過ごすことより愚かで危険極まりないことはない」「アメリカと敵対勢力の無分別な軍備増強によって国際的な力のバランスが破壊されている」と述べるとともに、韓国に対しては「ハイテク軍事装備の搬入とアメリカとの合同軍事演習は中止すべきだ」と主張した[11]。

もう一つの側面として、軍事力の増強を具体的に印象づけて交渉力を高める意図をみることができる。北朝鮮の核戦力の強化が放置できない脅威であることを、とりわけ米国の世論に印象づけることが、新政権に対して交渉を促すことになるとの読みがあると思われる。

金正恩は大会報告において、2017年までに完了した水爆の保有と大陸間弾道ミサイル「火星15号」の試射成功を「大事変」と評価し、「わが国を名実ともに世界的な核強国、軍事強国に浮上させ、諸大国がわが国家と民族の利益をほしいままに駆け引きしようとしていた時代を永遠に終わらせた」と自賛した。さらに過去5年間における核兵器の開発実績として、多弾頭個別誘導(MIRV)技術の開発が最終段階にあること、長距離弾道ミサイルの極超音速滑空飛行弾頭など新型弾頭が試作段階にあること、原子力潜水艦の設計・研究が最終審査段階に入ったこと、など細部にわたる成果を誇った[12]。そして、今後の核戦力強化の方向性について、「朝鮮半島地域での軍事的脅威は必然的に核の脅威に直結する」[13]という分析に立って、戦術核兵器の開発強化と超大型核弾頭の生産の持続と命中精度の向上という戦術、戦略の両面を打ち出した。そして開発途上にあった上記の諸技術の推進を改めて列記するとともに、人工衛星や無人偵察機による「偵察情報収集能力」の確保に言及し、軍事力全体のハイテク化の方針を説明した。

細か過ぎると思われるほど列記した戦争抑止力強化の報告は、上述したような米国に対する外交的メッセージと考えてよいであろう。

 

シンガポール合意の継承

このように公然と核戦力強化が進行するとすれば、金正恩が朝鮮半島の非核化を約束したシンガポール合意は無効になったのではないか、という疑問が当然にも投げかけられるであろう。

 その疑問を考える前提として、戦争抑止力の強化は常に外交を念頭においたものであるという金正恩の基本的な考え方にまず注目しておく。金正恩は次のように述べている。「強力な国家防衛力は決して外交を排除するのではなく、正しい方向へ進ませ、その成果を保証する威力ある手段になる」[14。彼の頭には常に外交があるということであり、その意味するところは大きい。

労働党大会において、金正恩はシンガポール米朝共同声明を肯定的に評価している。「敵対的な朝米関係史上、初めて開かれた両国首脳の直接会談で党中央は、強い独立の原則をもって、新しい朝米関係の確立を確約する共同宣言を成立させた」[15]。ここで使われている「新しい朝米関係の確立」という文言は、シンガポール共同声明と同じ用語である。続く言葉で超大国に対等にわたりあって戦略的地位を世界に誇示したと自慢しているが、そのことよりも、米朝の新しい関係の樹立という共同声明の内容を成果として述べていることのもつ意味の重要さを強調しておきたい。

金正恩の報告では、非核化などの内容に直接には触れていない。非核化に触れるためには、2019年~2020年に米国に要求し続けてきた「敵視政策の撤回」と、そこから導かれる共同宣言履行のための「新しい計算法」の提示が、米国から示されないまま今日に至っている経過を述べなければならない。それは北朝鮮にとっては飽き飽きするような繰り返しの説明になってしまう。このように考えると、共同声明の非核化問題に触れない理由はよく理解できる。そして、核問題に触れずとも共同宣言の他の重要な合意を高く評価していることから、北朝鮮が共同宣言を今も交渉の出発点として放棄していないと考えて間違いないであろう。

一方で、南北間で合意した2018年の板門店宣言や9月平壌宣言については、韓国に対してその不履行を非難し、繰り返し南北宣言の履行の必要性を述べている。2つの南北宣言には「朝鮮半島の非核化」が含まれていることを考えると、ここでも北朝鮮の非核化の意思は維持されていることを確認することができる。金正恩の報告の中には次のような一文がある。「北南関係においては根本的な問題から解決しようとする立場と姿勢を持たなければならず、相手に対する敵対行為を一切中止し、北南宣言を慎重に受け止め、誠実に履行しなければならない」[16]。

 

 以上述べたように、第8回朝鮮労働党大会を経た後においても、シンガポール米朝首脳共同声明を履行する北朝鮮の意思に変化はないと考えるべきである。共同声明に謳われた米朝関係の正常化や朝鮮半島の平和機構の確立とともに朝鮮半島の非核化について米国に交渉の意思があれば道は開かれているのである。金正恩の報告でも次の一節がある。

「新しい朝米関係樹立のキーポイントは、アメリカが対朝鮮敵視政策を撤回するところにある」「今後も力には力、善意には善意の原則に基づいてアメリカに対するであろう」[17]。(梅林宏道、前川大)

 

1 「金正恩同志が朝鮮労働党第8回大会で行った開会の辞」(『朝鮮中央通信』英語版、202116日)。

http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から日付により検索。

2 「金正恩総書記が第8回党大会で述べた結語」(『朝鮮中央通信』英語版、2021113日)。

http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から日付により検索。

3 注2と同じ。

4 「朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会が行われる」(『朝鮮中央通信』英語版、202011日)。

http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から日付により検索。

5 「朝鮮労働党第8回大会で行った金正恩委員長の報告について」、第3章「祖国の自主統一と対外関係の発展のために」(『朝鮮中央通信』英語版、2021110日)。

http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から日付により検索。

6 「金正恩党委員長の新年の辞」(『朝鮮中央通信』英語版、201811日)。

http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から日付により検索。

7 「朝鮮労働党第7期中央委員会第3回会議が、

http://www.kcna.co.jp/index-e.htm から日付により検索。

8 注4と同じ。

9 金星の一般討論演説

https://estatements.unmeetings.org/estatements/10.0010/20200929/azzQgcBAMYqv/WaUGJrE2AJvT_en.pdf

10 注5と同じ、第2章「社会主義建設の画期的前進のために」

11 注10と同じ。

12 注5と同じ、第1章「総括機関に収められた成果」

13 注10と同じ。

14 注10と同じ。

15 注12と同じ。

16 注5と同じ。

17 注5と同じ。

 

2021/02/04

 監視報告 No.29  2021年2月4日


§ 21団体が日本政府に要請--核兵器禁止条約が発効した今こそ、「核の傘」政策からの脱却に向け「北東アジア非核兵器地帯」構想の真剣な検討を

本監視プロジェクトのイニシャチブで、日本の市民団体21団体が、202122日、要請書を日本政府に提出した。要請書の提出と説明は外務省を窓口としてオンラインで行われた。また、これまでの監視報告をテーマ別に分類してまとめた冊子「監視報告集 2018.112021.1が、同時に日本政府に提出された。冊子は以下のURLで読むことが出来る。

http://www.peacedepot.org/wp-content/uploads/2021/02/NEA-NWFZ-watch-reports.pdf

要請書と要請団体は以下の通りである。

***********

内閣総理大臣 菅義偉様

外務大臣  茂木敏充様

 

日本の核兵器政策に関する要請書

核兵器禁止条約が発効した今こそ、「核の傘」政策からの脱却に向け「北東アジア非核兵器地帯」構想の真剣な検討を求める

 

 世界の感染者が1億人を超えたコロナ禍は、核兵器をはじめとする軍事力が「人間の安全保障」に全く役に立たないことを浮き彫りにしています。人間の安全を保障するには、核兵器を含む巨額の軍事予算を削減し、その分を市民の生命と安全を守る様々な予算にまわすことが必要です。

 そうした中で、2021122日、被爆者をはじめ世界の市民の念願であった核兵器禁止条約(以下、TPNW)が発効しました。核兵器は、言うまでもなく、わずか一発で無差別大量殺戮が可能で、核攻撃の応酬となれば人類を滅亡させかねない兵器です。TPNW発効により、このおぞましい兵器が、国際法上、保有も使用も許されない違法な存在となりました。これにより核兵器の非人道性と違法性の認識が世界に広がることで、今後、締約国以外にも大きな影響を及ぼすでしょう。

ましてや、日本はヒロシマ、ナガサキを経験した「唯一の戦争被爆国」です。にもかかわらず、日本政府はTPNWの意義を認めず、参加を拒否し続けています。一方で、日本政府は一貫して核兵器の非人道性と核兵器廃絶を訴えており、TPNWへの否定的態度との矛盾は、今後、さらに厳しく問われることになるでしょう。

そうした矛盾を解消し、日本がTPNWに参加するには、条約が第1条e項で禁止する「核の傘」政策からの脱却が必要となります。そこで「核の傘」政策からの脱却を可能にする現実的政策である「北東アジア非核兵器地帯」構想を真剣に検討するよう、以下要請します。

 

1.直ちに実施可能な行動

1) 核兵器は非人道的な兵器なので禁止すべきであるというTPNWへの原則支持の表明を行うこと

日本政府は「核兵器禁止条約が掲げる核兵器廃絶という目標は共有している」と繰り返し表明しています。また国会答弁において外務大臣は「唯一の戦争被爆国として、核の非人道性をどの国よりもよく理解をしている」と述べながら「核兵器禁止条約とは核兵器廃絶へのアプローチが違う」と述べ、TPNWへの参加を否定してきました。この立場からすれば、日本政府はアプローチは違うが、「核兵器は非人道的な兵器なので禁止すべき」というTPNWの基本的な考えには賛同できるはずです。日本政府は、まず「TPNWを原則的に支持します」という分かり易いメッセージを世界の市民に発するべきです。

 

2TPNW締約国会議にオブザーバーとして参加すること

 条約は発効から1年以内に締約国会議を開催することを定めています。日本政府は締約国会議へのオブザーバー参加に慎重であると報じられています。一方で日本政府は核兵器廃絶に向けてTPNW推進派と否定派の「橋渡し」役を果たすと述べていますが、橋渡しをするためには推進派と否定派双方の主張を理解し関係を築くことが必要です。日本がTPNW締約国会議にオブザーバー参加することによって、TPNW推進派とも相互に理解を深めることができます。それは橋渡しをするうえで不可欠な前提となります。

 

2.中長期的な取り組み―「核の傘」政策からの脱却

(1) 北東アジアにおける安全保障環境を悪化させる行動をとらないこと

 日本政府は厳しい安全保障環境を理由に「核の傘」の必要性を訴え、TPNWへの参加を拒否しています。しかし、安全保障環境を厳しくした、あるいは、厳しくしている責任は日本にもあります。日本は、専守防衛政策に反して、敵基地攻撃能力の保有を準備したり、米軍とともに遠く南シナ海に自衛艦を派遣したりして、ことさらに軍事的緊張を高めています。また、2018年に朝鮮半島で始まった歴史的な緊張緩和の好機を定着させる努力をすることなく、国連安保理決議を超える北朝鮮への独自制裁を継続しています。良好な安全保障環境を築くためには、まず、日本が安全保障環境の改善に向けた外交努力を行うことが必要です。

 

(2) 2018年に始まった朝鮮半島の非核化・平和プロセスの行き詰まりを打破するため、米国のバイデン政権に米朝協議の再開を要請すること、そのために、まずシンガポール共同声明の継承をバイデン政権に求めること

20186月、シンガポールでの米朝首脳会談で合意された米朝首脳共同声明は、画期的な合意文書です。そこには長い敵対の歴史を超えて両国が平和と繁栄の新しい米朝関係を築くこと、朝鮮半島に永続的で安定した平和体制を構築すること、という今も必要な基本的な合意が述べられ、そのうえで北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化を行い、米国が安全の保証を与えるという、お互いの約束を表明しています。

米国の新政権が、まずこの米朝首脳共同声明の意義を再確認し、その履行に向けた米朝協議の再開について新しいイニシャチブを発揮することが、北東アジアの非核化と緊張緩和に極めて重要です。日本自身の核兵器依存を軽減する道でもあります。

日本政府がバイデン政権発足の機会に、米新政権に対してこれらの要請を行うことを求めます。

 

(3) 「核の傘」政策からの脱却、そしてTPNW加盟を可能にする「北東アジア非核兵器地帯」構想を真剣に検討すること

 日本政府は、日本が受けている核兵器の脅威に対して、日本自身が核武装しない以上、米国の拡大核抑止力(核の傘)に依存することが必要だとしてきました。しかし、世界の圧倒的多数の国は核武装でも「核の傘」でもなく、非核兵器地帯条約の締結という外交的努力と国際法の力によって核兵器の脅威から身を守ってきました。それらの国々がTPNW推進の大きな原動力になっています。

日本もまた、北東アジア非核兵器地帯を設立する努力をすることによって、「核の傘」依存から脱し、TPNWに加盟することが現実的に可能であると考えます。

日本政府が、2018年の南北板門店宣言と米朝シンガポール共同声明に始まった朝鮮半島非核化プロセスを支持するだけではなく、すでに非核三原則をもつ日本を加えた北東アジア地域全体の非核化を提案すれば、「北東アジア非核兵器地帯」条約への道は大きく前進するでしょう。日本と南北朝鮮の3か国が非核兵器地帯を形成し、米国、中国、ロシアの3か国がこの地帯に核兵器の使用や威嚇しないという安全の保証を約束するものです。検証を伴った「北東アジア非核兵器地帯」条約が実現すれば、「核の傘」は不要となり、日本はTPNWに加盟し、被爆国にふさわしい核兵器廃絶への使命を果たすことができます。

核兵器禁止条約が発効した今こそ、このような「北東アジア非核兵器地帯」構想の検討を強く要請いたします。

以上

202122

NPO法人ピースデポ

朝鮮半島非核化合意履行・監視プロジェクト

アーユス仏教国際協力ネットワーク

核兵器廃絶地球市民集会ナガサキ

核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA

原子力資料情報室(CNIC)

原水爆禁止日本国民会議

世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会

世界連邦運動協会(WFM)

日韓民衆連帯全国ネットワーク

日本カトリック正義と平和協議会

日本キリスト教協議会(NCC)東アジアの和解と平和委員会

日本基督教団神奈川教区寿地区センター

日本反核法律家協会

日本福音ルーテル教会社会委員会

日本YWCA

反核医師の会

ピースボート

ふぇみん婦人民主クラブ

武器取引反対ネットワーク(NAJAT

許すな!憲法改悪・市民連絡会

 

連絡先 NPO法人ピースデポ

223-0062横浜市港北区日吉本町1-30-27-4 1F

電話:045-563-5101 FAX:045-563-9907


2021/01/13

  監視報告 No.28  2021年1月13日


§「条件を付けずに首脳会談を目指す」日本政府の北朝鮮政策には、首尾一貫した政策メッセージと平壌宣言の正しい理解が不可欠である

2020年10月26日、菅義偉首相は、第203臨時国会の所信表明演説[注1]において北朝鮮政策について次のように述べた。
「拉致問題は、引き続き、政権の最重要課題です。全ての拉致被害者の一日も早い帰国実現に向け、全力を尽くします。私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意です。日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、北朝鮮との国交正常化を目指します。」
 これは、そのほぼ9か月前(2020年1月20日)、第202通常国会において安倍晋三前首相が行った施政方針演説[注2]をそのまま踏襲した内容である。安倍前首相は次のように述べた。
 「日朝平壌宣言に基づき、北朝鮮との諸問題を解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を目指します。何よりも重要な拉致問題の解決に向けて、条件を付けずに、私自身が金正恩委員長と向き合う決意です。」
このように菅、安倍政権と続いて打ち出されている金正恩委員長との対話を追求する方針は、決して首尾一貫したものではない。安倍前首相が世界の首脳の前で北朝鮮を口を極めて非難したのは最近の2017年9月のことであった。安倍氏は国連総会演説[注3]で「対話とは、北朝鮮にとって、我々を欺き、時間を稼ぐため、むしろ最良の手段だった」、「必要なのは対話ではない。 圧力なのです」と述べ、北朝鮮に対して敵意を込めた方針を示していた。経済的、軍事的圧力を強めることで、北朝鮮を屈服させ、方針転換に追い込むという考え方である。それが、トランプ米大統領の方針転換に追随して翌2018年9月の国連総会演説[注4]では、「拉致問題の解決に向け、私自身、条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合う決意である」と表明し、対話重視に転換した。
2018年9月に始まり、その後の安倍、菅政権でも継続されている北朝鮮との対話路線とは、いったい何であったのだろうか。「条件を付けずに首脳会談をしたい」という方針を掲げ2年以上が経過したが、対話のための接点すら作れないまま、現在に至っている。この停滞が何を意味するのか、2つの側面から検討する。

 第1の側面は、政策の包括性あるいは首尾一貫性の問題である。
2018年における政策転換は、トランプ政策に追随したという事実経過は拭えないが、とはいえ米朝、南北の首脳合意に基づき朝鮮半島で始まった歴史的な変化に反応した結果であることは間違いない。この政策転換を、朝鮮半島情勢を活かしながら成功させるためには、拉致、核、ミサイルの問題を従来のように「特異な北朝鮮問題」という狭い枠内の思考から脱して捉えなければならない。この問題は、植民地支配の清算という歴史問題と北東アジアの平和と安全という地域安全保障問題という、より包括的な政策課題の一部なのである。方針転換後の安倍・菅政権の北朝鮮政策には、そのような包括的視点を読み取ることができない。
包括的な視野に立つならば、北朝鮮への敵視政策を撤回し相互信頼を重ねる方向に向かっているというメッセージが、関連した諸政策全体の中で一貫して発せられることに、何よりも注意を払うことが求められる。
たとえば、経済制裁に関係するメッセージが重要である。従来の「強い制裁圧力」一辺倒を見直す姿勢が伝わることが求められる。国連制裁への働きかけには時間を要するとしても、まずは日本独自の制裁について、段階的な緩和をメッセージとして伝えることが可能であろう。2020年11月4日、第203臨時国会の衆議院予算委員会で岡田克也議員(立憲民主党)と茂木敏充外務大臣が以下のような質疑応答を行った[注5]。
岡田克也:「今、北朝鮮はかなり厳しい状況にあると言われています。経済制裁、そして、新型コロナウイルスの関係で国境を閉ざしていること、水害の問題。金正恩委員長の国内向けの発言も、かなり異例のものがありました。そういう中で、例えば、国連のWFP世界食糧計画では、北朝鮮の人口の40%ほどが栄養不足の状況にあるという報告もしています。制裁に反しない限りでの食料支援、人道支援、そういったものを提案するおつもりはありますか。」
茂木国務大臣:「現在、北朝鮮は、委員おっしゃるように、三重苦とも言われるわけでありますけれども。その上で、少なくとも現状において経済制裁の緩和というものは時期尚早だと考えておりますが、一般的に、人道支援につきましては、その必要性を含めて総合的かつ慎重に見きわめた上で適切に判断をしていく…」
ここでの外務大臣の答弁には、北朝鮮に対して積極的なメッセージを発するという姿勢を伺うことが出来ない。せめて人道的食糧支援についてはもっと強いメッセージを発することが出来たはずである。また、経済制裁に関しては独自制裁と安保理決議に関わるものと区別した、積極的なメッセージを発するチャンスであった。
 経済制裁とは別の例として、イージス・アショア配備の代替策として自衛隊に敵基地攻撃能力を付与することを検討するという、北朝鮮に対する強い負の外交メッセージがあった。安倍政権が発した負のメッセージを菅政権は繰り返してはいないが、それを弱めるメッセージも発していない。2020年8月以降、北朝鮮を敵と想定して敵基地攻撃能力の保有を検討することが政府部内で行われてきている。「無条件で金正恩委員長と直接向かい合う」という積極対話の政策と逆方向のメッセージだと言わざるをえない。この点についても、2020年11月13日、第203臨時国会衆議院外務委員会において、岡田議員が「菅総理は、条件をつけずに金正恩委員長ともお会いする用意があるというふうに言われています。そういう中で、一方で攻撃能力を持つという議論をしているとすれば、それはまさしく支離滅裂というふうにも見えますね。」[注6]と指摘している。
 2020年12月18日、政府は、スタンド・オフ・ミサイルの開発を盛り込んだ新たな閣議決定した[注7]。ここでは敵基地攻撃能力という位置づけではなく尖閣諸島などの防衛能力と位置付けているが、北朝鮮に対するメッセージの修正努力は行われていない。
上に掲げた2つの例に見られるように、拉致、核、ミサイルを解決するための北朝鮮との安倍政権、菅政権の対話路線は、極めて包括性と首尾一貫性を欠いたものであった。
 
第2の側面として日朝平壌宣言の位置づけ問題がある。
2002年9月に小泉純一郎総理大臣と金正日国防委員長(総書記)との間で合意された平壌宣言は、現在も日朝関係を正常化するための基礎的外交文書と考えられる。前述したように、安倍、菅両政権とも平壌宣言を引用しながら北朝鮮政策を説明している。しかし、平壌宣言の何を大切に考えているのかについて、政府の考え方が発信されていない。これは「無条件対話という積極方針」の仏に魂がないに等しい。
平壌宣言は、前文において「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した」と述べ、その上で、第1項で「双方は、この宣言に示された精神および基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注する…。実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む」と述べている。すなわち、宣言の魂は、諸困難を乗り超えて国交正常化の早期実現に向かうという両国の決意にあると言えるであろう。拉致、核、ミサイルといった諸懸案は個別の障害であり、そのどれかを突出させて国交正常化を困難に陥れるとすれば、それは平壌宣言に則ることにならない。
この点に関連して、とりわけ拉致問題に関する安倍・菅政権の取り扱いには問題がある。両政権は拉致問題をあらゆる交渉の入口を阻む壁のように位置付けている。私たちも拉致被害者家族の心情を思うと一日も早い解決を願う気持ちに変わりはない。そのためにも、2018年に始まった朝鮮半島情勢の好転を定着させ、日朝国交正常化につなげるのが最短の道ではないかと考える。和田春樹氏が指摘するように[注8]、安倍、菅政権が今も繰り返している「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ない」という考え方[注9]は平壌宣言に合致せず、破棄されるべきであろう。

「条件を付けずに金正恩氏との対話を追求する」と述べている菅政権の対北朝鮮政策は、今後も維持されるべきものである。しかし、その政策が功を奏するためには、この政策に見合った日本の外交・安全保障政策の包括性と首尾一貫性を示すメッセージが必要であり、また、平壌宣言が日朝国交正常化を至上の目標としているという認識を明確にすることが求められる。このような変化を伴わない北朝鮮政策は、言葉だけの世論向けジェスチャーに過ぎないとの誹りを免れることはできない。
(梅林宏道、湯浅一郎)

注1 第231臨時国会における菅首相の所信表明演説(2020年10月26日)。
 https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html
注2 第201国会における安倍首相の施政方針演説(2020年1月20日)。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2020/0120shiseihoushin.html
注3 安倍前首相の第72回国連総会一般演説(2017年9月20日)。
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html
注4 安倍前首相の第73回国連総会一般演説(2018年9月25日)。
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0925enzetsu.html
注5 第203臨時国会衆議院予算委員会(2020年11月4日)での岡田克也議員の質問。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/001820320201104003.htm#p_honbun
注6 第203臨時国会衆議院外務委員会(2020年11月13日)での岡田克也議員の質問。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000520320201113002.htm#p_honbun
注7 閣議決定「新たなミサイル防衛システムの整備及びスタンド・オフ防衛能力の強化について」(2020年12月18日)。
https://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/guideline/2019/pdf/stand-off_20201218.pdf
注8 市川速水「『日韓の亀裂の修復』を和田春樹さんと考える」、『ウェブ論座』2019年7月5日。
https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019070200004.html?page=4
注9 日本外務省「2019 拉致問題の解決その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に   関する政府の取組についての報告」、2020年6月
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000099426.pdf

2020/12/01

監視報告 No.27

  監視報告 No.27  2020年11月30日


§市民の力で動けぬ政府を動かし、まずは朝鮮戦争を終結させよう

「終戦宣言こそが、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和体制の扉を開くでしょう」
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は今年の国連総会の一般討論演説[注1]でこのように述べ、朝鮮戦争の終結を宣言することによって韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)が「和解と繁栄の時代」に向けた一歩を踏み出すことができるよう、国連と国際社会に支持を求めた。
韓国と北朝鮮は、アジア・太平洋戦争での日本の敗戦によって日本の植民地支配から解放されたのも束の間、大国の思惑によって2つの国家に分断され、その後すぐに始まった朝鮮戦争は現在に至るまで終結していない。米国の政権交代で対北朝鮮政策がどのように変わるのか注目されるが、「朝鮮戦争の終結宣言が扉を開く」という、この極めて単純な道理を、我々は改めて確認する必要がある。
疑いようのないことだが、北朝鮮は米国の侵略に対する抑止力として核兵器を開発した。そして金星(キム・ソン)北朝鮮国連大使が今年の国連総会の一般討論演説[注2]で述べたように、北朝鮮は、自国に対する米国の脅威は今も続いていると認識している。

 「公然と行われているあらゆる種類の敵対的な行為と共に、北朝鮮に対する核の脅威は衰えることなく続いています。
 ステルス戦闘機を含む最先端の軍事兵器が朝鮮半島に導入され続け、あらゆる種類の核攻撃手段がまさに北朝鮮に対して向けられていることは、現在の否定できない現実です」

金星は名指ししていないが、北朝鮮に対する「敵対的な行為」や「核の脅威」が米国によるものであると認識していることは言うまでもない。米韓同盟によって韓国が選択している軍事力強化についても、北朝鮮は米国が元凶であるとみている。
また、2018年以来の北朝鮮の核政策は、核兵器による戦争抑止力が社会主義経済の建設に注力するための前提条件をつくるという考え方を明確に述べてきた[注3]。金星の演説はそのことを次のように述べている。

「私たちが導いた結論は、平和は一方の願いだけでは決して訪れず、他の誰かによって与えられるものでもないということです。
強さに基づく横暴がはびこる現在の世界では、真の平和は戦争を防ぐ絶対的な強さを保有している時にだけ守ることができます。
我々は財布の紐を締めることによって、自衛のための信頼できる効果的な戦争抑止力を獲得したので、朝鮮半島と地域の平和と安全は、今はしっかりと守られています。
議長。
国家と人民の安全を守るための信頼できる保証に基づいて、北朝鮮は安心して全ての努力を経済建設に注いでいます。」

このように、自衛と経済発展のための戦争抑止力として核兵器の保有を正当化する北朝鮮だが、その当然の帰結として、米国の脅威がなくなることを条件に核兵器を放棄する用意があることを、北朝鮮政府はこれまで繰り返し表明してきた。
金正恩委員長は2018年3月に韓国政府の特使団に対して「軍事的な脅威が解消されるならば、核を保有する理由がない」と述べているし、同年6月の米朝首脳会談で金正恩が約束した「朝鮮半島の完全な非核化」も、ドナルド・トランプ大統領の「北朝鮮の安全の保証」の確約や、「新しい米朝関係の構築」「平和体制の構築」などと合わせて合意したものだ[注4]。
したがって核兵器のない朝鮮半島を実現するためには、米国の脅威や敵視政策の撤回が不可欠の条件となる。

「朝鮮戦争の終結宣言」の意義がここにある。
米国の脅威や敵視政策の撤回のためには、米朝間で70年間続いている戦争状態をまず終結させようというのは、誰が考えても第一歩となるべき道理である。戦争が完全に終結せず、米国の敵視政策が続く中で、北朝鮮が米国に対する抑止力として絶対的な信頼を置いている核兵器を放棄するなどということはあり得ないことだろう。「終戦宣言こそが、朝鮮半島の完全な非核化と恒久的平和体制の扉を開く」と述べた文在寅は、まさに正論を言っている。

朝鮮戦争の当事国は米国だけではない。しかし、朝鮮戦争の終結宣言の実現は、ひとえに米国政府の意思にかかっていると言って過言ではない。朝鮮戦争は1953年に米国・北朝鮮・中国の間で休戦協定が成立して以来、停戦状態が続いているが、この間、米国と韓国は中国との国交を樹立し、正常化した。また韓国と北朝鮮は2018年4月に板門店宣言を行い、2018年中の終戦宣言に合意した(実現しなかった)。そのうえ、同年9月の南北首脳会談で平壌宣言の付属文書として「軍事分野合意書」に署名し、地上・海上・空中など「全ての空間」における「一切の敵対行為を全面中止する」ことなどで合意しており[注5]、事実上の両国間の終戦宣言を行っている。残るは米国と北朝鮮の関係だが、北朝鮮が朝鮮戦争の終結と平和協定締結に向けた交渉をこれまでに幾度か提案しているのに対し、米国政府はこれを拒否してきた。
米国が終戦宣言に踏み込むことができない理由は何重にも存在している。韓国、日本、中国に関係する米国の安全保障政策のみならず、米国の世界戦略にかかわる諸要素が絡んでいる。さらに、韓国、日本といった米国の同盟国の事情も関係する。これらの国においては、米国との同盟関係のあり方についての世論の分岐が、数10年にわたり続いている。それが、韓国や日本が米国政府にこの問題についての政策選択を迫る力を弱めている。

米国政府としては、世界各地に存在する他の米軍の海外基地と同様に、米国の軍事的・経済的覇権を支える上で重要な役割を果たしている韓国や日本に駐留する米軍の縮小・撤退につながりかねない終戦宣言には応じたくないというのが本音だろう。朝鮮戦争終結となれば朝鮮国連軍の任務が終わり、在韓米軍の位置づけについても新しい議論が始まらざるを得ないであろう。とくに米国が軍事・経済両面で台頭する中国を包囲し束縛しようとしている現在の状況では、東アジアでの米国の軍事力の低下につながるようなことは避けたいはずだ。さらに、東アジアに火種を残しておくことで利益を得ている軍需産業や政治家の存在もある。あるいは、非核化より先に北朝鮮が要求する終戦宣言などに応じれば「安易な譲歩」だとか「弱腰」だと受け取る世論もあるだろう。シンガポールでの米朝首脳会談で朝鮮戦争の終結に前向きな姿勢を示していたトランプに対して、メディアは「歴史的な成果」の「演出」を狙っているとか[注6]、「中間選挙」に向けた「実績」作りだ[注7]などと批判的な報道を繰り返していた。トランプは結局、終戦宣言をすることなくホワイトハウスを去ることになりそうだ。
また、韓国や日本にも地域の平和と安定のために米軍の存在が必要だと考えている人は少なくない。文在寅大統領の熱意にもかかわらず、韓国政府が「朝鮮戦争の終結宣言」を米国に強く要請するには、米韓同盟のあり方に関してクリアすべき多くの国内の課題がある。すでに購入を決定した米国製新鋭兵器の購入、北朝鮮ミサイルを口実に設置したミサイル防衛サードTHAAD部隊と装備の処遇、北の脅威を理由に急増した国防費の削減への合意形成など、課題は多い。
日本政府もまた、北朝鮮の脅威を口実にして軍備増強を続けて来た。また、日本にも朝鮮国連軍の後方司令部が存在しており、米軍以外の外国軍の訪問の受け入れや自衛隊との共同演習を容易にする既存の仕組みの一つになっている。

しかし、米国内や関係国の事情がいかなるものであれ、朝鮮戦争の終結を拒む正当な理由は存在しない。米国の覇権や既得権益のために、また、韓国と日本に存在する同調者のために、理由のない戦争状態を継続させるという身勝手は許されない。
政府が正当な道理を実行できないとき、障害を乗り越えて実行を迫る力は、市民社会から生まれる他に道がない。国境を越えて協力する市民社会の声が、文在寅の呼びかけに応え朝鮮戦争終結を決断するよう米国政府、必要であれば他の関係国政府にも、届くことが求められている。核兵器廃絶や地球温暖化対策を求める運動のように地球規模で力強い運動が必要だ。
 現在、韓国の350以上の市民団体などが「朝鮮半島平和宣言」を発表[注8]し、同宣言への署名を求める「朝鮮戦争を終わらせる世界1億人署名運動」を行っている。このイニシャチブを心から支持したい。この運動は、次の4つのスローガンを掲げている。
・朝鮮戦争を終わらせ、平和協定を締結しましょう
・核兵器も核の脅威もない朝鮮半島と世界をつくりましょう
・制裁と圧力ではなく、対話と協力で紛争を解決しましょう
・軍備競争の悪循環をやめ、人間の安全保障と持続可能な環境のために投資しましょう
こうした運動をさらに広げ、世界的世論を形成する必要がある。
                                   (前川大)

注1 文在寅の一般討論演説
注2 金星の一般討論演説
注3 例えば、「金正恩党委員長の新年の辞」(“Kim Jong Un Makes New Year Address”、『朝鮮中央通信』英語版、2018年1月1日)や、朝鮮労働党中央委員会総会での金正恩の報告(“Report on 5th Plenary Meeting of 7th C.C., WPK”、同、2020年1月1日)など。いずれも、http://www.kcna.co.jp/index-e.htmから日付で検索。
注4 シンガポール米朝首脳共同声明(2018年6月12日)。
日本語訳:ピースデポ・アルマナック刊行委員会『ピース・アルマナック2020』(緑風出版、2020年7月10日)、138ページ 
注5 「軍事分野合意書」の朝鮮語テキスト
同文書の英文テキスト
日本語訳:ピースデポ・アルマナック刊行委員会『ピース・アルマナック2020』(緑風出版、2020年7月10日)、142ページ。
注6 「『朝鮮戦争終結』踏み込む トランプ氏、米朝会談で『署名あり得る』 『歴史的』演出狙う」、『朝日新聞』、2018年6月9日。
注7 「米朝首脳 歴史的会談 米、中間選挙前に『実績』 朝、『完成した核』後ろ盾」、『毎日新聞』、2018年6月8日。
注8 「朝鮮戦争を終わらせる世界1億人署名運動」ウエブサイト(日本語版)

2020/10/05

監視報告 No.26

 監視報告 No.26  2020年10月5日


§ 日本は独自制裁の解除を検討し、北朝鮮敵視政策からの転換を図れ

はじめに

2020916、長年にわたり北朝鮮敵視政策を続けてきた安倍晋三政権が幕を閉じ、菅義偉新政権が発足した。新政権の発足は常に政策転換の機会である。

安倍政権がとり続けてきた制裁ありきの北朝鮮敵視政策は見直すべきであろう。拉致、核、ミサイルに関する交渉は続くであろうが、あからさまな敵視政策を継続する姿勢では実りある交渉のきっかけはつかめない。対話再開のきっかけとして、日本が北朝鮮に科してきた独自の経済制裁の段階的解除を検討するべきではないか。独自制裁の一部解除が敵視政策転換のシグナルとして対話の道を開くかもしれない。そのような問題意識から日本の北朝鮮への独自制裁の推移を整理し、制裁解除の可能性について考察した。


日本の独自制裁の種類としくみ

日本の独自制裁実施への動きは、20029月に開かれた日朝首脳会談において北朝鮮が日本人拉致を初めて認め、謝罪したことに端を発している。その後、一部の拉致被害者家族は日本に帰国したものの、生存の可能性がある拉致被害者の調査に対して北朝鮮が消極的であることなどに日本の世論の反発は高まり、拉致問題解決のためには経済制裁によって北朝鮮に圧力をかけなければならないという意見が日本政府内で強まった[1]

ところが、当時の日本の法制度の下で政府が経済制裁を発動するには国連安保理などの決議が必要であった。こうした状況の中、200212月、菅義偉、河野太郎ら6人の議員が「対北朝鮮外交カードを考える会」を結成した。必ずしも拉致問題のみに対する外交カードとして独自制裁を考えていたわけではなかったであろうが、同会が中心となり、日本が独自に経済制裁を発動できるように議員立法を進めた。その結果、20042月、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)が改定され、「特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法」(入港禁止法)が制定された。この2つの法律は経済制裁関連法とも呼ばれている[2]。その後、「国際連合安全保障理事会決議第1874号等を踏まえ我が国が実施する貨物検査等に関する特別措置法」(貨物検査法)が制定され(2010年)、経済制裁関連法を補った。

こうした法制度を根拠に発動される制裁は、以下に述べるようにヒト、モノ、カネ、フネの4つの流れを制限・遮断することによって実施されている[3]    

 

(1)人的往来(ヒト)規制

人的往来の規制は「出入国管理及び難民認定法」(入管法)によって実施されている。同法は第3条で入国審査官から上陸許可を受けない者の入国を禁止し、第5条で上陸拒否の事由を列挙している。同法によって、たとえば「我が国の利益又は公安を害するおそれがあるため上陸を認めることが好ましくない者」を入国拒否にすることができる。

(2)貿易(モノ)規制

貿易の規制は、外為法を法的根拠として実施されている。2004年に同法第10条が改定され、日本の平和と安全の維持のために必要があるときは、閣議決定により制裁措置を発動できるようになった。同法を根拠に輸出(第48条)および輸入(第52条)を規制することができる。

(3)金融(カネ)規制

 金融の規制も貿易と同様に外為法に基づいて実施されている。同法を根拠に、国境を越えた送金(第16条)、紙幣・小切手・証券など支払い手段の輸出入(第19条)、資産凍結・投資制限などの資本取引(第21条)、対外直接投資(第23条)、輸出入決済のための金銭貸借などの特定資本取引(第24条)、金融に関わる役務取引(第25条)等を規制することができる。

(4)輸送(フネ)規制

輸送手段の規制は航空機と海運を対象としているが、航空機に対する規制は航空法によって、海運に対する規制は入港禁止法と貨物検査法によって実施されている。入港禁止法は、日本の平和と安全のため必要があると認めるときは、閣議決定によって、特定の外国船籍の船舶等について、日本の港への入港禁止を可能にするものである。貨物検査法は、北朝鮮の2度目の核実験(2009525日)を受けて採択された安保理決議1874を実施するための特別措置法である。

このように日本の制裁は、入管法、外為法、航空法、入港禁止法、貨物検査法を根拠にヒト、モノ、カネ、フネの流れを制限・遮断することによって実施されている。

    

日本の北朝鮮制裁の特異性

すでに述べた通り、日本政府は北朝鮮に対する独自制裁を念頭において2004年に経済制裁関連法を成立させた。そうした背景からか、日本の北朝鮮に対する独自制裁には以下のような特徴がある。

第一に、制裁を科す際に拉致問題に言及している点である。日本の独自制裁は20067月に始まるが、その最初のものを除いて、必ず「拉致、核、ミサイル」に言及している。制裁のすべては、北朝鮮が行った核実験やミサイル発射という安全保障上の行為に対して行われているにもかかわらず、筋違いともいえる拉致への言及がある。

第二に、日本の独自制裁は、個別の制裁理由となる行為への対応の側面よりも、北朝鮮という国家あるいは国家体制への強い反発、あるいは敵視の表現形態という側面が強い。国連安保理による制裁は、核・ミサイル計画関連の活動やそれを推進する北朝鮮指導部にターゲットを絞った制裁から出発をして、2016年までは北朝鮮の一般民衆への影響を最小限にとどめるよう慎重に発動されていった。ところが、日本の制裁は早い時期から北朝鮮の一般の人々の生活に大きな影響が及びかねない貿易規制に踏み込んだ。こうした容赦のない日本の姿勢は、国連安保理の姿勢とは異質のもので、北朝鮮敵視政策を反映したものといえるだろう。

以下では、こうした特徴を持った日本の独自制裁の具体的な推移を概観する。

    

日本の北朝鮮制裁の推移

(1)核実験・ミサイル発射を契機とする制裁(20067月~20147月)

日本政府による最初の独自制裁は、小泉純一郎政権下で行われた。200675日、北朝鮮による7発のミサイルが発射されたその日に、日本政府は独自に北朝鮮に対して輸送規制措置(万景峰(マンギョンボン)92号の入港禁止、北朝鮮からの航空チャーター便の日本乗り入れ禁止)および人的往来規制措置(北朝鮮当局職員の入国原則禁止、北朝鮮籍船舶の乗員の上陸原則禁止、在日北朝鮮当局職員が北朝鮮に渡航した場合の再入国原則禁止、日本の国家公務員の北朝鮮への渡航原則禁止、日本から北朝鮮への渡航の自粛要請)を発動した[4]。一方、国連安保理はその10日後(715日)に制裁措置(安保理決議1695)を採択した。その内容は核兵器などの大量破壊兵器と弾道ミサイルの開発に関与した北朝鮮の15団体・1個人の資産を凍結するという内容であった[5]。これは焦点を絞った限定的な制裁と言える。

 

2006109日、北朝鮮は初の核実験を実施した。これ対して1011日、当時の第一次安倍政権は「我が国安全保障に対する脅威が倍加」し「北朝鮮が拉致問題に対しても何ら誠意ある対応を見せていない」ことなどを理由に北朝鮮に対して強硬な措置をとることを決定した。具体的には、輸送規制(入港禁止の対象を北朝鮮籍の全船舶に拡大)、人的往来規制(入国原則禁止の対象をすべての北朝鮮籍の者に拡大)、貿易規制(北朝鮮からの輸入を人道目的の場合を除いて全面的に禁止)をそれぞれ強化した(1013日閣議決定)。ただ、輸出に関しては1014日に採択された安保理決議の実施にとどまった[6]

この時点で日本政府はいきなり北朝鮮民衆の生活に影響が及びかねない全船舶の入港禁止および輸入全面禁止という容赦のない措置をとった。

一方で、1014日に成立した国連安保理決議1718は、武器・大量破壊兵器等の関連物資および贅沢品の北朝鮮への輸出を禁じるのみであった[7]。この時点における国連制裁は、北朝鮮指導部と核・ミサイル開発に関わったとみなされる個人と組織をターゲットとしたもので、北朝鮮民衆に多大な影響が及びかねない貿易規制は回避した。こうした国連制裁の傾向は201616日に北朝鮮が4度目の核実験を実施する前まで継続する。日本政府はその10年近くも前から北朝鮮民衆の生活に大きな影響を与えかねない輸入全面禁止措置をとってきたのである。

 

こうした日本の容赦ない姿勢はその後も続く。2009410日、麻生太郎政権は北朝鮮が45日にミサイルを発射したことを受けて金融規制を強化した(日本から北朝鮮に自由に持参できる資金額の上限を100万円から30万円に、北朝鮮に住所を有する者に対して許可なく支払いができる上限を3000万円から1000万円に引き下げた)。国連安保理はこの時のミサイル発射に対しては新たな制裁決議は採択せず、北朝鮮制裁委員会が新たに3団体を資産凍結対象に加えたのみであった。[8]

    

2009525日、北朝鮮は2度目の核実験を実施した。それに対して国連安保理は612日に決議1874を採択し、加盟国に北朝鮮の大量破壊兵器と弾道ミサイルに関する計画や活動に寄与し得る資産の移転防止と、そうした活動に関わる専門教育・訓練の防止を義務付けた。この時点でも、国連制裁は核・ミサイル開発に関わる活動の規制を目的としたものにすぎなかった。ところが、616日、麻生政権下の日本はさらなる制裁を発表し、北朝鮮向けの輸出を全面的に禁止(人道目的を除く)するとともに、制裁の対象を外国人にまで拡大した(北朝鮮制裁に違反した外国人船員の日本入国を禁止し、制裁措置に違反した在日外国人が北朝鮮に渡航した場合の日本再入国を不許可とした)[9]

日本はこの20096月の時点で、核・ミサイル開発とは直接に関係のない民生品を含めた輸出入を北朝鮮との間で全面的に禁止するという国連制裁を大幅に超えた措置をとったことになる。

 

その後も日本の独自制裁は続き、北朝鮮の魚雷攻撃によるものと見られる(北朝鮮は否定)韓国哨戒艦天安号沈没事件(2010326日)[10]、および北朝鮮による3度目の核実験(2013212日)を受けて、日本は北朝鮮に対して国連制裁を超える独自制裁を加えた[11]

    

(2)日朝ストックホルム合意と制裁緩和(20147月~20162月)

201112月、北朝鮮では指導者が金正日から金正恩に交代し、201212月、日本では第2次安倍内閣が誕生した。

そうした中で2014529日、日本と北朝鮮は拉致問題を話し合うためにストックホルムで会合を開いた。その会合で、北朝鮮は拉致被害者や行方不明者の調査を約束し、その調査を開始する時点で日本側が独自制裁を一部解除することで合意した[12]。この合意に基づいて、74日、日本は独自制裁を緩和した。

この時に日本が解除した制裁は、北朝鮮経済に大きな好影響を及ぼすものではなかったが、在日朝鮮人との関係においては少なからぬ意味があった。具体的には、人的往来規制の緩和(北朝鮮籍者の入国の原則禁止の解除、在日の北朝鮮当局職員が北朝鮮に渡航した場合の再入国原則禁止措置の解除、日本人に対する北朝鮮への渡航自粛要請措置等の解除)、金融規制の緩和(日本から北朝鮮に自由に持参できる金額の上限を10万円から100万円に、北朝鮮に住所を有する者に対して許可なく支払いができる上限を300万円から3000万円に引き上げ)、輸送規制の緩和(人道目的の場合は北朝鮮船舶の日本入港を許可)を行った[13]。しかし、北朝鮮との輸出入の全面禁止および北朝鮮船舶の全面入港禁止(人道目的の場合を除く)は依然として維持されたままであった。

ストックホルム合意における制裁緩和は、日本の独自制裁が、いずれも核・ミサイル開発に関して科せられたにも関わらず、拉致問題に関連して緩和が行われた。日本政府とっては、前述のように北朝鮮への制裁は国家体制への敵視の表現であり、核・ミサイルと拉致との間に境界がないことを示している。

    

(3)制裁の再強化(20162月~現在) 

ストックホルム合意による拉致問題の解決に進展がないまま、約1年半後の201616日、北朝鮮は4度目の核実験を実施し、27日にはミサイル発射実験を行った。それに対して安倍政権下の日本は210日「我が国は、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決するために何が最も有効な手段かという観点から真剣に検討してきた結果、以下の独自措置を実施する」と表明し[14]、国連安保理による制裁決議2270の採択(32日)を待たずに北朝鮮に制裁を加えた。

その内容は、おおむねストックホルム合意で緩和したものを復活させたもので、それにプラスして北朝鮮を渡航先とした場合の再入国不許可対象に在日外国人の核・ミサイル技術者を加え、入港禁止対象を北朝鮮に寄港した第三国籍船に拡大し、資産凍結対象に1団体、10個人を追加した[15]

一方、国連安保理もこの時期を境に制裁内容を大きく拡大し始める。安保理決議22702016年)には、北朝鮮指導部や軍事活動を主なターゲットとした制裁(法律に違反した北朝鮮外交官の国外追放、すべての武器・関連物資の北朝鮮への輸出禁止、航空燃料の原則輸出禁止)に加えて、北朝鮮経済に打撃を与えることを意図した制裁(金、チタン鉱石、バナジウム鉱石、レアアースの北朝鮮からの輸入禁止、石炭、鉄、鉄鉱石の輸入規制、北朝鮮に出入りするすべての貨物検査、その他の金融規制)が含まれた[16]

国連が一般民衆への多大な悪影響が出かねないこの種の制裁を北朝鮮に加えたのはこの時が初めてであった。一方日本は、すでに述べた通り、2006年よりこの種の制裁を開始し、2009年の時点で北朝鮮との貿易を全面的に禁止していたため、この時点では貿易面でこれ以上制裁を強化する余地は残されていなかった。

 

201699日、北朝鮮は5度目の核実験を行った。それを受けて1130日、国連安保理は決議23212016年)を採択し、主に北朝鮮経済へのダメージを狙った制裁(銅、ニッケル、亜鉛、銀の北朝鮮からの輸入禁止、北朝鮮産石炭の輸出上限の設定、北朝鮮の船の登録抹消、北朝鮮外交使節の金融機関口座の制限など)を決議した。それに対して日本は貿易面での制裁強化の余地は残されていなかったため、それ以外の手段でさらなる独自制裁を発動した(122日)。具体的には、人的往来規制(北朝鮮を渡航先とした場合の再入国不許可対象者を拡大)、輸送規制(北朝鮮に寄港した全ての船舶の入港禁止)、金融規制(資産凍結対象に6団体、9個人を追加)をそれぞれ強化した。これらは国連安保理が決議した内容を超えた制裁である。

201793日に北朝鮮が6度目の核実験を行い、1129日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した際、制裁の厳しさが史上最強と言われる国連安保理決議23972017年)を採択した(1222日)。このとき日本がなしえたのは資産凍結や入港禁止船舶の対象を拡大することくらいであった。日本の北朝鮮に対する独自制裁は20171215日に資産凍結の対象を北朝鮮に本社を置く19団体に拡大したのが最後となっている[17]

 

日本の独自制裁の代表例

以上に述べたように、現在、日本が北朝鮮に科している国連制裁を超えた独自制裁の代表的なものには以下のようなものがある。

 

・在日朝鮮人で北朝鮮当局の職員と見なされる者などは渡航すると再入国できない。また、北朝鮮の国民は原則的に日本に入国できない。

・国連が輸入制裁対象としていない、北朝鮮の特産品であるマツタケ、電子部品、電力用ケーブルといった品目など、人道目的以外のすべての物品の輸入が禁じられている。

・国連が輸出制裁対象としていない、北朝鮮の民生活動に必要な民生トラック、バス、冷蔵庫、クーラーといった品目など、人道目的以外のすべての物品の輸出が禁じられている。

・北朝鮮への渡航が許されても、10万円以上の金額を自由に持ち込むことができない。

・在日朝鮮人が北朝鮮に住む親族や友人に送金するなど国連制裁と無関係の送金も、すべて禁止されている。

・国連は59隻の船舶を特定して入港禁止しているが、日本は人道目的を含むすべての北朝鮮籍のみならず、北朝鮮に寄港した船舶すべての入港を禁止している。

 

これらは北朝鮮の経済や在日朝鮮人の生活に多大な悪影響を生み出しているであろう。これらを解除することは、国連安保理決議の不履行とはならず、日本が独自の判断で解除することが可能である。

 

敵視政策からの転換を示す第一歩

上述のように、日本は国連制裁に先んじて北朝鮮に容赦ない独自制裁を科し続けてきた。しかし、核、ミサイル、拉致のいずれに関しても、制裁が効果をうんでいないことは誰しも認めざるを得ないところであろう。

幸い、2018年に南北と米朝の対話が始まった。現在は行き詰まっているとはいえ、対話の窓は閉じられてはいない。北朝鮮は、米国に北朝鮮敵視政策を撤回し、シンガポール合意の相互的、段階的な履行の道を積み重ねて、相互に信頼を取り戻すように、米国に呼びかけている。

日本政府もまた、制裁ありきの敵視政策を見直し、対話と交流による信頼醸成のアプローチに転換すべきである。そのためには、北朝鮮が自然災害とCOVID-19によって直面している困難への人道支援を趣旨として、独自制裁の解除についてまず検討すべきであろう。それによって、人と物の交流を再開することがすべての前提となる第一歩となる。それは敵視政策からの転換を北朝鮮に示す最初のシグナルとなる。例えば、日本政府が201474日に一度解除した独自制裁措置を再び自発的に解除をするのも一案であろう。こうした措置は安保理決議に抵触しないうえ、かつ一度経験した解除措置であるための利点も考えられる。日本政府は、韓国はもちろんのこと、米国や欧州連合にも事前の説明をしたうえで、これらの制裁解除を検討し段階的な実施を目指すべきである。政権交代は、政策転換にとって活用できる機会となるはずである。(渡辺洋介、梅林宏道)

 

1 高英起「検証:日本人拉致問題を振り返る」(2014715日)

https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20140725-00037690/

2 財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC 「最近の経済制裁措置」(2019419日最終更新)

https://www.cistec.or.jp/export/keizaiseisai/saikin_keizaiseisai/index.html#1_kokusaikyouchou

および、水野けんいち「新版・北朝鮮経済制裁法案とは何か (外為法篇)」(2003614日)「けんいちブログ」

https://mizunokenichi.com/新版・北朝鮮経済制裁法案とは何か-(外為法篇)/ 

3 この分類の仕方は以下の議論を参照した。山田卓平「日本による北朝鮮への独自措置―日本の国際義務に適合するか―」『龍谷法学』第51巻第3号(20192月)、pp.1541-1626 https://irdb.nii.ac.jp/01036/0003986931

4 衆議院調査局北朝鮮による拉致問題等に関する特別調査室『北朝鮮による拉致問題等に関する参考資料集』2020年、p.198

5 同特別調査室『北朝鮮による拉致問題等に関する基礎資料』2018年、p.94

6 注4と同じ、p.203

7 注5と同じ、p.93p.100

8 注4と同じ、p.213

9 注5と同じ、p.94p.101

10 2010528日、日本は独自制裁として北朝鮮に自由に持ち込める資金の上限を30万円から10万円に、北朝鮮に住所を有する者に対して許可なく支払いができる上限を1000万円から300万円に引き下げた。天安号事件に関して国連安保理は制裁決議を採択していない。参照:注4と同じ、p.218

11 2013212日、日本は独自制裁として、北朝鮮を渡航先とした場合の再入国不許可の対象を在日の北朝鮮当局職員の活動を補佐する者にまで拡大した。一方で、国連安保理は37日に決議2094を採択し、さらなる制裁として資産凍結対象に2団体、3個人を追加した。その後、日本は独自に資産凍結対象を拡大し、国連制裁を超えて10団体、6個人の資産を凍結した(45日および830日)。参照:注5と同じ、p.94pp.101-102

12 外務省「日朝政府間協議(概要)合意事項」

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000044432.pdf 

13 注4と同じ、p.228

14 注4と同じ、p.231

15 注4と同じ、pp.231-233

16 注5と同じ、pp.93-99

17 注5と同じ、pp.92-94p.102。および、同書2020年版、pp. 108-109

 

監視報告 No.31

    監視報告 No.31   2021年4月26日 §  バイデン政権が進める北朝鮮政策に関する日本と韓国との協議では、各国の主体的な北東アジアへの地域ビジョンが問われている。 2021年1月20日、バイデン政権が始動した。発足して数か月だが、今のところ、バイデン政権は、米国...