2020/02/17

監視報告 No.21


監視報告 No.21  2020年2月17日


§韓国市民団体の声明に賛同するとともに、日本の市民社会の行動を訴える

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正恩委員長が米国政府の「勇断」を待つ期限として予告していた昨年末が過ぎた。金正恩が、昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、米国が朝鮮に対する敵視政策を続ける限り「朝鮮半島の非核化は永遠にありえない」と宣言する一方で[1]、米国政府には敵視政策を撤回する気配はなく、朝鮮半島の平和と非核化を巡る米朝交渉の今後の行方が懸念される。
 しかしシンガポールでの首脳会談で米朝両首脳が約束した朝鮮半島の平和と非核化の実現を、私たちは諦めるわけにはいかない。米朝交渉がこのまま行き詰まるのを避け、朝鮮半島を非核化して地域の平和と安定を実現させるためには、金正恩委員長とドナルド・トランプ大統領の個人的な関係だけに頼るのではなく、私たち市民も行動する必要がある。関係国の市民社会が、それぞれの政府に対して朝鮮半島の平和と非核化のために必要な行動をとるよう、目に見える形で要求すべきだ。
 韓国の市民社会では、そうした動きが見られる。その一つとして、韓国の市民団体が北朝鮮・韓国・米国の3か国政府と国際社会に向けて発信した声明を以下に紹介する[2]。声明は、シンガポール合意を実現するために、米朝対話の再開と北朝鮮に対する制裁の緩和を求めている。
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再び対決と敵対の時に戻ることは出来ません

 朝鮮戦争勃発70年となる2020年の新年に、朝鮮半島情勢は依然として視界の見通せない霧の中にあるようです。朝米交渉は大きな突破口を見いだせぬままこう着状態が続いています。去る1年間、南北間の対話や交流は一歩も進みませんでした。一方で「新たな道」を予告した北側は、最近[朝鮮]労働党全員会議を通じて「正面突破戦」を決議し、経済的自力更生[方針]と新たな戦略兵器の開発を強調しました。

 2018年に敵対と対決の時代を終息できるという希望を抱いたときから]2年も過ぎていません。周知のように朝鮮半島の平和の道は、絶え間なく忍耐を続け、話し合い、互いに信頼を築く過程でなければなりません。今私たちは、その途上に大きな困難が生じているという事実を直視せざるを得ません。だからと言って忍耐を捨て、対決を選んではなりません。今日、私たち市民社会は、いかなる場合にも決して板門店の南北首脳会談以前、一触即発の戦争の危機が高まったあの時に戻ってはならないという切羽詰まった思いでこの場に集まりました。私たちは、朝米と南北の対話が速やかに再開され、困難な中で果たされた南北、朝米の合意は必ず履行されねばならないという点を強調し、南北そして米国政府に次のように提案するものです。

朝米双方は、対話再開のための条件作りに努力しなければなりません。
 朝米は昨年のハノイ会談のみならず、6月の板門店会談後にも意味のある対話を進展させることが出来ませんでした。年末の朝米接触も結局成功に至りませんでした。シンガポールで朝米は、相互の信頼構築が朝鮮半島の非核化を促進できると宣言しましたが、このような合意は守られませんでした。とくに私たちは、北側が核・ミサイル実験凍結などを含む一連の措置[を取ったの]に比べて米国は、これに相応するいかなる信頼措置も見せなかったという事実に注目せざるを得ません。これは一括妥結にせよ、段階的、同時的履行にせよ、朝米間で接点が生じえない理由でもあります。私たちは、米国が事実上北側の「先非核化を要求」し時間稼ぎをすることにも、北側がミサイル実験などで軍事的緊張を作り出すことにも断固として反対します。北側と米国は、対話と交渉による朝鮮半島非核化の実現と平和体制構築の原則を明確にさせ、対話再開の条件を作るためにあらゆる努力を傾けねばなりません。私たちは、さらに大きな合意を可能にさせる米国の政治、軍事、経済的信頼構築措置を要求し、北側にもこれ以上の軍事行動を中止することを求めます。

国連と米国は、最低限の人道分野における対北制裁は中止しなければなりません。
 国連と米国は、対北制裁を維持し続け、さらに制裁を強化してきました。米国は、北側の優先的な非核化措置が無ければ制裁解除は不可能だという立場を取りつづけています。制裁は北側内部の弱者にまで悪影響を及ぼしているという事実も確認されています。制裁が問題解決の手段を越えている状況のもとで、朝米間の信頼構築はさらに困難となっています。制裁は南北の交流協力も完璧にまで阻止しています。私たちは「先非核化、後制裁解除」というやり方が朝鮮半島の核対立の解決に失敗してきた歴史が繰り返されないことを願っています。最低でも災害などの人道的[支援を]放置するような制裁措置は中断されなければなりません。国連の安全保障理事会も中国やロシアの制裁一部解除の決議案について積極的に論議し、朝米交渉の進展を引き出すことを要請します。

対話と 軍事行動は両立できません。
 私たちは、韓米合同軍事演習の延期決定が朝鮮半島平和プロセスを動かしたという事実を記憶しています。相手方を刺激し圧力を加える軍事的脅威と対決は、対話と交渉に何ら手助けをもたらしません。私たちは、韓米両国政府が3月に予定されている韓米合同軍事演習を中止する決断を下すことを求めます。韓米合同軍事演習の中止は、消えかかっている朝米交渉の火種を起こす措置となるでしょう。

南北の合意履行のため、韓国政府による決然たる措置を求めます。
 朝米交渉が中断すると南北関係も急速に滞ってしまいました。交流や協力事業をはじめ、南北が合意した事項は、国連と米国の対北制裁により一歩も進んでいません。本当にもどかしく息苦しいほどで、嘆かわしい状況です。開城工業団地と金剛山観光の再開、離散家族問題解決のための人道的協力、南北の鉄道・道路連結プロジェクトなどをこれ以上遅らせてはなりません。南北軍事共同委員会の構成など、軍事分野の合意履行も同様です。韓国政府は、南北協力事業のための広範囲な制裁免除をもっと積極的に要求し、自立性を発揮すべきです。困難でも政府が主導的に朝鮮半島の問題解決のための場を作り、現状を変えるための努力をすべきです。

私たちは、戦争を終息させ平和を創るための市民社会の責務を果たす所存です。
 今年は朝鮮戦争[勃発から]70年の年です。分断と停戦による対決と敵対が無限に再生産される悲劇はもう終わらせなければなりません。韓国の市民社会は、朝鮮半島の平和を創る当事者です。私たちには、対話と交渉を通じて、朝鮮半島の恒久的な平和体制構築と非核化が実現されるよう促進する責務があります。私たちは朝鮮半島の平和に対する韓国民の切迫した声を組織し、米国と北側のみならず国際社会に広く知らせていくつもりです。国際社会が私たちの平和のための行動に共に歩んでくれることを求めていきます。私たちは2020年が戦争を終わらせ、新たな平和の時代を切り拓く1年になるため、最善を尽くして行くことでしょう。

2020 1 7
6.15共同宣言実践南側委員会、対北協力民間団体協議会、民族和解協力汎国民協議会、市民社会団体連帯会議市民平和フォーラム、 韓国宗教人平和会議

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 日本の私たちは、この声明に賛同する。同時に日本の市民社会における行動の必要性を痛感する。
朝鮮半島情勢は、隣国である日本の市民社会にも直接かかわる問題であるというだけではない。大日本帝国時代に朝鮮半島を植民地化した日本には、その後の南北朝鮮の分断と敵対に対して歴史的な責任があり、今も日本が提供する基地を拠点に米軍が朝鮮半島における戦争体制を維持しているという点では、現在的な関与と責任がある。私たちが暮らす北東アジアの平和と安定を願うなら、私たち自身も主体的に行動しなければならない。
私たちは、現在の局面において、日本の市民社会が次の行動を起こすことが有効であると考え、ともに行動することを呼びかけたい。 

  •  多くの市民団体や個人が連携して日本政府や国会議員事務所を訪問し、2018年板門店宣言、シンガポール米朝首脳共同声明が作り出した歴史的な契機を活かし、朝鮮半島並びに北東アジアの非核化・平和に関して日本政府が積極的に関与することを求める申し入れを行うこと。日本政府が、朝鮮半島に日本を加えた非核化を提案することが、そのような積極的な関与の方法の一つになる。
  • 日本、韓国、米国の市民団体・NGOが連携して国連安保理に対して米朝交渉を前進させるために、制裁決議に含まれている「継続的な見直し」条項(例えば安保理決議23972017)第28節)を活用した協議を行うこと、また、昨年末にロシア、中国が提案した制裁の一部緩和を求める決議案の採択に向けた努力を行うこと、などの要請を行うこと。
  • 自治体、宗教者、法律家、医師・医学者、ジャーナリスト・文筆家など、市民社会を構成する様々なセクターに働きかけて、この問題の日本にとっての歴史的重要性を訴え、可能な行動を促すこと。

(前川大)

1 『朝鮮中央通信』(日本語版、202011日)
2 韓国語版
日本語訳は大畑正姫さんによる。


2020/02/06

監視報告 No.20


監視報告 No.20  2020年2月5日


§朝鮮半島非核化プロセスが長期化する新しい段階に入ったいま、2018-19年を要約する年表を掲載する。

 20191228日から31日、異例の4日間にわたって朝鮮労働党第7期中央委員会第5回総会が開催された。朝鮮中央通信の報告[1]によると、金正恩委員会は総会において、正面突破戦略を強調した。その趣旨は経済分野における国際的制裁が継続することを前提として、この困難を自力更生、自給自足で正面突破することを国民、党幹部に号令することであった。同時に、米国が敵視政策を撤回し、朝鮮半島で恒久的で揺るぎない平和体制が構築されるまで、国家の安全のために戦略兵器の開発を中断せずに継続すると述べ、新しい戦略兵器の登場を予告した。その開発の度合いは、米国の政策によって変わるとも述べ、外交交渉の余地を示唆した。
 202011月、米国においては大統領選挙が行われる。一年を通じて、米政権が挑戦的な新しい方針を出すことは考えにくい。このことを考え合わせると、北朝鮮が示した正面突破戦略は朝鮮半島の非核化交渉はしばらく急速には動かないことを意味するであろう。したがって、この機会は、市民社会が情勢を動かすために熟慮し、行動する好機であると捉えることもできる。
 その意味で、市民が熟慮するための材料として、2018年以後の朝鮮半島の非核化に関する主要なできごとの日誌を以下に掲載する。
 
2018

11
金正恩委員長、年頭の辞を発表。核抑止力の完成を宣言。核弾頭と弾道ミサイルを量産し、実戦配備するよう指示。並進路線の傾向を述べ、経済開発5か年計画への注力を国民に訴え。南北の緊張緩和と関係改善をめざす方針を述べ、平昌オリンピックへの代表団の派遣や南北当局の会談の可能性に言及。
19
およそ2年ぶりの南北閣僚級会談。DPRKの平昌オリンピック参加で合意。
29
25
平昌オリンピック。南北の選手の合同入場やアイスホッケー女子の南北統一チーム結成で南北友好をアピール。
210
文在寅大統領が金与正(キムヨジョン)党中央委員会第1副部長、金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任幹部会議長らDPRK特使団と会談。与正氏が金正恩委員長の親書を手渡すとともに大統領の訪朝を要請。
35
韓国の鄭義溶(チョン ウィヨン)国家安保室長、徐薫(ソフン)国家情報院長ら特使団が訪朝し、金正恩と会談。DPRKが南北首脳会談と核放棄の意図を表明。
36
鄭義溶、南北が首脳会談を4月末に板門店で開催に合意と発表。DPRKは軍事的脅威がなくなり体制保証があれば核保有の理由がないと考えであると韓国政府の報道発表。初めてのDPRKの非核化意志の公的発表。
38
鄭義溶ら訪米。トランプ大統領が金正恩による首脳会談要請を承諾。
325
金正恩、就任後初の外国訪問として北京を電撃訪問し、習近平国家主席と中朝首脳会談。初の海外首脳外交。
330日?
ポンペオCIA長官、極秘に平壌訪問、金正恩と面会。23日。
420
朝鮮労働党中央委第7期第3回総会。並進路線の成功を宣言。経済に全力。核実験とICBM発射実験の中止、核実験場の解体を決定。
427
南北首脳会談を板門店、韓国側の平和の家で開催。金正恩と文在寅が板門店宣言に署名。南北関係の全面的改善、南北の緊張緩和、年内の朝鮮戦争の終結宣言、朝鮮半島の完全な非核化などにより南北の平和体制を確立することなどに合意。
57
大連で2度目の中朝首脳会談。
59
ポンペオ米国務長官が訪朝、拘束されていた米国人3名が解放されポンペオとともに横田基地へ。
510
トランプ、612日にシンガポールで首脳会談とツイート。
511
米韓合同軍事演習、マックス・サンダー開始(~25日)。B52が参加。
516
金桂寛DPRK第Ⅰ副外相、ボルトン大統領補佐官のリビア方式発言と米韓合同軍事演習を理由にシンガポール首脳会談の中止も辞さないと声明。
524
DPRK豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、記者に公開。
崔善姫DPRK副外相、ペンス米副大統領を「愚か者」と呼び、首脳会談延期を示唆。
トランプ、612日米朝首脳会談の中止を述べる書簡。
525
金桂寛、トランプに再考を促す権限のある談話を発表
526
金正恩の要請で2度目の南北首脳会談(板門店の北側の統一閣)
61
トランプ、米朝首脳会談を612日に再設定と発表。
612
シンガポールで米朝首脳会談し、米朝首脳共同声明を発表。前文で「トランプがDPRKに安全の保証を与え、金正恩が朝鮮半島の完全非核化を行うと相互に約束した」。そして、「新しい米朝関係の構築」「永続的、安定的な平和体制の構築」「427日の南北板門店宣言の再確認と朝鮮半島の完全非核化」「戦争捕虜などの遺骨回収」について合意した。
トランプが記者会見。米韓合同軍事演習の中止、金正恩が東倉里(トンチャンリ)ミサイル・エンジンテスト施設解体の意図、などを報告。
618
米韓の国防省が8月予定の合同軍事演習フリーダムガーディアンを中止すると発表(韓国は19日)。以後、大型の合同軍事演習を中止が続く。
619
金委員長が中国を訪問し、3回目の中朝首脳会談。
76
ポンペオ国務長官、訪朝しトランプの親書。米朝高官会議。金正恩も親書を託す。
77
DPRK外務省報道官、米国の要求をギャングのような要求と批判。
727
朝鮮戦争停戦協定65周年。米兵遺骨55柱が米国に返還される。
823
米北朝鮮政策特別代表にスティーブン・ビーガンが就任。
914
初の恒久的な南北連絡事務所をケソン市に設立。南北からのスタッフが常駐。
919
南北首脳会談において「9月平壌共同宣言」と付属文書「軍事分野合意書」に署名。北は米国が相応の措置をとれば寧辺核施設の永久廃棄の措置を講じる、と述べる。
929
トランプ、ウェストバージニア州ホイーリングでの選挙集会で「金正恩と恋に落ちた」と発言。
1130
南北鉄道連結のための調査始まる。(~1217日)
1226
開城市板門駅で南北鉄道連結起工式。実質的事業は制裁のため進展せず。


2019

17
金委員長が中国を訪問し、4回目の中朝首脳会談。
118
金英哲(キムヨンチョル)朝鮮労働党副委員長、ワシントンでポンペオ、次いでトランプに面会。直後に米大統領府が2月末に2回目の米朝首脳会談を開催と発表。
119
ストックホルムでビーガン・崔善姫の初の実務者協議(~21日)。
131
ビーガン、スタンフォード大学で講演し、同時並行的交渉を示唆。段階的な交渉を含むと一般的に理解された。
227
28
2回の米朝首脳会談、ハノイで開催。合意文なし。
315
平壌で崔善姫が会見し、トランプの柔軟な姿勢をポンペオとボルトンが壊したと述べる。
412
14期第1回最高人民会議で金正恩が施政演説。制裁の継続を前提に自力更生による経済建設を強調し、米国の方針転換を年末まで待つと表明。
54
DPRK18か月ぶりに単距離弾道ミサイルを発射。以後、断続的に単距離ミサイル発射が続く。
56
安倍首相、記者団に条件をつけずに日朝首脳会談をめざす方針を述べる。
59
米司法省、貨物船「ワイズ・オネスト」を差し押さえて米領サモアに連行。
514
DPRK外務省、米が貨物船を拿捕したことを非難し、612共同声明の精神に違反と述べる。
527
韓国、ウルチ・テグック(乙支太極)大型軍事演習を開始(~30日)
64
DPRK、外務省報道官声明で、シンガポール共同声明を評価したうえで米国が一方的要求をするのみと批判、米の計算の変更を要求。
620
21
習近平国家主席が初の訪朝。5回目の中朝首脳会談。
630
3回米朝首脳会談、板門店で電撃的に開催。約1時間。トランプが境界線を跨ぐ。実務チームを構成して23週後に実務者会談を再開。
711
DPRK外務省アメリカ研究所政策研究部長が、韓国空軍に7月中旬到着予定のF35Aを厳しく非難する声明。
81
731日のミサイル発射を踏まえた英独仏の要請により、安保理が非公開会合。
829
14期最高人民会議第2回会議において。DPRKは憲法を改正し、国務委員長は最高人民会議で選出され、国家の最高指導者であると位置付ける。
910
トランプ、ボルトン補佐官を更迭したとツイート。
102
DPRKが新型SLBM北極星3を垂直モードで元山湾から潜水発射。
105
ストックホルムで金明吉(キムミョンギル)DPRK実務者協議代表とビーガンが実務会議。金明吉は直後に決裂と発表。オーガタス米国務省報道官は、8.5時間の協議は実り多かったと反論の声明。
106
DPRK外務省報道官、米から新提案がなければ次の会談はないとし、年末期限を再確認する。
1021
トランプ、記者会見で金正恩との関係は良好、「互いに尊敬しあっている」と述べる。
1024
金正恩、金剛山の韓国建設施設の取り壊しを命じる。外国に依存した「先人の政策の失敗」と述べる。
1114
金明吉、「米国は交渉に値する提案の準備がない。戦争終結宣言や連絡事務所の設置は交渉の対象にならない。北朝鮮への敵視政策を止めるための基本的解決策が必要」と述べる。
1117
エスパー米国防長官、バンコクで米韓航空共同演習の延期を発表
122
DPRK李テソン外務副大臣、年末期限を警告し、どんなクリスマスの贈り物を選ぶかは米国次第、と述べる。
1216
中ロが安保理で対DPRK制裁緩和の決議案を各国に配布。米国は時期尚早と反対。
1228
31
DPRK、朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会を開催。異例の4日間。金正恩、経済制裁の継続を自力更生で正面突破する戦略を強調。同時に戦略兵器の開発の継続を表明した。

(森  (森山拓也、,梅林宏道)


1 「朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会が行われる」(『朝鮮中央通信』日本語版、202012日)。http://kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf「最高指導者の活動」から日付で検索。

2019/12/25

監視報告 No.19

監視報告 No.19  2019年12月25日

§事実に基づく多面的な報道をマスメディアに求める

 朝鮮半島の平和と非核化を巡る米国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の交渉は依然として膠着状態が続いており、交渉が決裂して朝鮮半島の緊張が再び高まるのではないかと懸念されている。

 米国政府は対話の再開を求めているが、北朝鮮政府はシンガポール合意の履行に欠かせない敵視政策の撤回を強く求め、相互的な行動を前提としない対話に応じるつもりはないようだ[1]。今月に入って北朝鮮は「重大な実験」を行ったと2度発表[2]。実験は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に関するものだと見られており、金正恩委員長が「忍耐強く米国の勇断を待つ」のは年末までだと明言していることなどから[3]、ICBMの発射実験を再開する日が近いのではないかと危惧されている。今年5月以降繰り返されている北朝鮮の短距離のミサイル実験を黙認してきたドナルド・トランプ大統領だが、ICBMの発射実験が行われれば、黙っているわけにはいかないだろう。123日の記者会見では金正恩との関係は良好だと述べつつも、昨年6月のシンガポールでの首脳会談以来、初めて軍事行動の可能性に言及している[4]。

 行き詰まる米朝交渉について、欧米のレンズを通して世界情勢を見ることに慣れている日本社会では、その責任は北朝鮮側にあるとの見方が支配的だ。例えば、朝日新聞の1218日付の社説[5]もその典型的な一つだ。

 「北朝鮮の挑発 緊張状態に戻る気か」と題するその社説は、北朝鮮が最近「挑発行為」を繰り返している理由について、経済政策で成果を上げられないことに「焦り」を感じている北朝鮮が米国政府との「駆け引き」で「制裁緩和」を得ようとしているからだと分析する。そして北朝鮮に対して、
 「古い思考を捨て去るべきだ。強硬姿勢だけが国際社会からの譲歩を引き出せると考える限り、実利を得られるような展望は開けない。事態を打開するには、非核化に具体的に動くしかない」
と訴えて、実務協議の再開を求めている。一方、トランプ政権に対しては北朝鮮のミサイル実験を黙認してきたことを念頭に「北朝鮮を増長させた責任を自覚すべきだ」と反省を促し、「北朝鮮の非核化」を巡る交渉で「安易な取引」を行わないようにと注文を付ける。そして日本政府と韓国政府に対してはトランプ政権と「綿密な政策調整」を行うよう求め、「米国のブレ」を防ぐとともに「北朝鮮の挑発を抑え」て「非核化の道筋を探る」必要があると主張する。

 朝日新聞の主張は事実を前提にしていない。

まず現在の米朝交渉の基盤となっているシンガポールでの米朝の共同声明の合意内容のほとんどを無視している。シンガポールで米朝両首脳は、「新しい米朝関係の構築」、「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」、「朝鮮半島の完全な非核化」、「米兵の遺骨回収と返還」で合意した。また、その前提としてトランプは北朝鮮に「安全の保証を与えると約束」し、金正恩は「朝鮮半島の完全な非核化を行うという固い約束を再確認」した。それにもかかわらず、朝日新聞は「朝鮮半島の非核化」ではなく「北朝鮮の非核化」だけを問題にし、「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築のことなど全く念頭にない。シンガポール合意に従うなら、北朝鮮が求める敵視政策の撤回──それには制裁解除や米韓合同軍事演習の中止が含まれる──は、「駆け引き」とか「安易な取引」として軽視するのではなく、「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築のために、「朝鮮半島の完全な非核化」と合わせて考慮されるべき問題だろう。

また朝日新聞は、北朝鮮の「挑発行為」だけを問題にして、米国の「挑発行為」については無視している。今年8月に行われた米韓合同軍事演習や、ステルス戦闘機F35 Bなどの米国の最新鋭兵器の韓国軍への納入は、北朝鮮からすれば「挑発行為」と映るだろう。米韓が軍事力の強化を図っているのだから、米国との戦争状態にある北朝鮮としても安全保障上の対抗措置を取らざるを得ない。ミサイル実験を行う北朝鮮の行為だけを「挑発行為」と批判することはできないはずだ。

それから、「強硬姿勢」だけで「譲歩」を引き出そうとする「古い思考」というのは、米国政府に対して言えることではないか。シンガポール合意の履行状況を見ると、北朝鮮は会談以前に核実験の中止や核実験場の爆破―再建可能との批判はありつつも―という思い切った行動やICBM発射実験の中止を行ったのみならず、会談後もミサイル施設の一部解体や米兵の遺骨返還などを行っているのに対して、米国政府は米韓合同軍事演習の縮小及び延期しか行っていない。こうした事実を踏まえれば、「古い思考を捨て去るべき」なのは、北朝鮮の非核化だけを一方的に求めている米国政府の方だ。「事態を打開」するには、北朝鮮に対する敵視政策の撤回に向けて米国こそが「具体的に動くしかない」のではないか。米国の侵略を警戒する北朝鮮が、抑止力として開発した核兵器を放棄する条件として米国の敵視政策の撤回を求めるのは常識的に考えて当然だろう。

 それにもかかわらず、朝日新聞がトランプ政権に対して「安易な取引」をしないよう求めたり、トランプ政権の「ブレ」を心配するのは、圧力が金正恩を対話姿勢に転じさせたのだと勘違いしているからかもしれない。しかし2017年までの朝鮮半島の緊張状態を緩和させたのは、北朝鮮に対する制裁や軍事的圧力ではない。北朝鮮政府は対話姿勢に転じる前に「核戦力の完成」を宣言している。北朝鮮は核保有国となって米国と対等の立場になったと考えたから対話に転じたと見るのが自然だろう。また北朝鮮にひたむきに対話を求め続け、(ピョン)(チャン)オリンピックを契機に南北関係を改善させ、米朝対話のきっかけを作った韓国の文在寅(ムンジェイン)統領の功績も大きい。

このように事実に基づかない朝日新聞の主張だが、日本社会ではもっともな意見として受け入れられているのではないかと懸念する。朝日新聞に限らず、日本のマスメディアは米国の立場からの一面的な見方で朝鮮半島情勢について伝える傾向があり、冒頭で述べたように、日本社会では朝鮮半島の平和と非核化の問題を北朝鮮の非核化の問題に矮小化し、まず行動すべきは北朝鮮だという認識が一般的になっている。

米国のレンズを外して現実を見れば、批判の対象も違ってくるだろう。客観的な現状分析は、朝鮮半島の非核化を実現するために極めて重要だ。非核化を実現する上で、社会を動かす原動力となる市民社会が問題を正しく認識している必要もあるだろう。マスメディアには、事実を多様な側面から正確に伝えてジャーナリストとしての本来の仕事をしてもらいたい。(前川大)


1 12月に予定されていた米韓合同軍事演習が延期されたことを受けた金英哲・朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長の談話(『朝鮮中央通信』日本語版、20191118日)や、ドナルド・トランプ米大統領の「早く行動し合意すべきだ。近いうちに会おう!」というツイートに対する金桂寛・外務省顧問の談話(『朝鮮中央通信』日本語版、20191118日)など。いずれも、
2 『朝鮮中央通信』(日本語版、2019128日及び1214日)
3 『朝鮮中央通信』(日本語版、2019414日)
http://kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf「最高指導者の活動」から、日付で施政演説を探すことができる。
4 米大統領官邸(ホワイトハウス)、「Remarks by President Trump and NATO Secretary General Stoltenberg After 1:1 Meeting」、2019123
5 『朝日新聞』(20191218日)


監視報告 No.21

監視報告 No.21   2020年2月17日 § 韓国市民団体の声明に賛同するとともに、日本の市民社会の行動を訴える 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正恩委員長が米国政府の「勇断」を待つ期限として予告していた昨年末が過ぎた。金正恩が、昨年末に開催され...