2020/02/06

監視報告 No.20


監視報告 No.20  2020年2月5日

§朝鮮半島非核化プロセスが長期化する新しい段階に入ったいま、2018-19年を要約する年表を掲載する。

 20191228日から31日、異例の4日間にわたって朝鮮労働党第7期中央委員会第5回総会が開催された。朝鮮中央通信の報告[1]によると、金正恩委員会は総会において、正面突破戦略を強調した。その趣旨は経済分野における国際的制裁が継続することを前提として、この困難を自力更生、自給自足で正面突破することを国民、党幹部に号令することであった。同時に、米国が敵視政策を撤回し、朝鮮半島で恒久的で揺るぎない平和体制が構築されるまで、国家の安全のために戦略兵器の開発を中断せずに継続すると述べ、新しい戦略兵器の登場を予告した。その開発の度合いは、米国の政策によって変わるとも述べ、外交交渉の余地を示唆した。
 202011月、米国においては大統領選挙が行われる。一年を通じて、米政権が挑戦的な新しい方針を出すことは考えにくい。このことを考え合わせると、北朝鮮が示した正面突破戦略は朝鮮半島の非核化交渉はしばらく急速には動かないことを意味するであろう。したがって、この機会は、市民社会が情勢を動かすために熟慮し、行動する好機であると捉えることもできる。
 その意味で、市民が熟慮するための材料として、2018年以後の朝鮮半島の非核化に関する主要なできごとの日誌を以下に掲載する。
 
2018

11
金正恩委員長、年頭の辞を発表。核抑止力の完成を宣言。核弾頭と弾道ミサイルを量産し、実戦配備するよう指示。並進路線の傾向を述べ、経済開発5か年計画への注力を国民に訴え。南北の緊張緩和と関係改善をめざす方針を述べ、平昌オリンピックへの代表団の派遣や南北当局の会談の可能性に言及。
19
およそ2年ぶりの南北閣僚級会談。DPRKの平昌オリンピック参加で合意。
29
25
平昌オリンピック。南北の選手の合同入場やアイスホッケー女子の南北統一チーム結成で南北友好をアピール。
210
文在寅大統領が金与正(キムヨジョン)党中央委員会第1副部長、金永南(キムヨンナム)最高人民会議常任幹部会議長らDPRK特使団と会談。与正氏が金正恩委員長の親書を手渡すとともに大統領の訪朝を要請。
35
韓国の鄭義溶(チョン ウィヨン)国家安保室長、徐薫(ソフン)国家情報院長ら特使団が訪朝し、金正恩と会談。DPRKが南北首脳会談と核放棄の意図を表明。
36
鄭義溶、南北が首脳会談を4月末に板門店で開催に合意と発表。DPRKは軍事的脅威がなくなり体制保証があれば核保有の理由がないと考えであると韓国政府の報道発表。初めてのDPRKの非核化意志の公的発表。
38
鄭義溶ら訪米。トランプ大統領が金正恩による首脳会談要請を承諾。
325
金正恩、就任後初の外国訪問として北京を電撃訪問し、習近平国家主席と中朝首脳会談。初の海外首脳外交。
330日?
ポンペオCIA長官、極秘に平壌訪問、金正恩と面会。23日。
420
朝鮮労働党中央委第7期第3回総会。並進路線の成功を宣言。経済に全力。核実験とICBM発射実験の中止、核実験場の解体を決定。
427
南北首脳会談を板門店、韓国側の平和の家で開催。金正恩と文在寅が板門店宣言に署名。南北関係の全面的改善、南北の緊張緩和、年内の朝鮮戦争の終結宣言、朝鮮半島の完全な非核化などにより南北の平和体制を確立することなどに合意。
57
大連で2度目の中朝首脳会談。
59
ポンペオ米国務長官が訪朝、拘束されていた米国人3名が解放されポンペオとともに横田基地へ。
510
トランプ、612日にシンガポールで首脳会談とツイート。
511
米韓合同軍事演習、マックス・サンダー開始(~25日)。B52が参加。
516
金桂寛DPRK第Ⅰ副外相、ボルトン大統領補佐官のリビア方式発言と米韓合同軍事演習を理由にシンガポール首脳会談の中止も辞さないと声明。
524
DPRK豊渓里(プンゲリ)の核実験場を爆破し、記者に公開。
崔善姫DPRK副外相、ペンス米副大統領を「愚か者」と呼び、首脳会談延期を示唆。
トランプ、612日米朝首脳会談の中止を述べる書簡。
525
金桂寛、トランプに再考を促す権限のある談話を発表
526
金正恩の要請で2度目の南北首脳会談(板門店の北側の統一閣)
61
トランプ、米朝首脳会談を612日に再設定と発表。
612
シンガポールで米朝首脳会談し、米朝首脳共同声明を発表。前文で「トランプがDPRKに安全の保証を与え、金正恩が朝鮮半島の完全非核化を行うと相互に約束した」。そして、「新しい米朝関係の構築」「永続的、安定的な平和体制の構築」「427日の南北板門店宣言の再確認と朝鮮半島の完全非核化」「戦争捕虜などの遺骨回収」について合意した。
トランプが記者会見。米韓合同軍事演習の中止、金正恩が東倉里(トンチャンリ)ミサイル・エンジンテスト施設解体の意図、などを報告。
618
米韓の国防省が8月予定の合同軍事演習フリーダムガーディアンを中止すると発表(韓国は19日)。以後、大型の合同軍事演習を中止が続く。
619
金委員長が中国を訪問し、3回目の中朝首脳会談。
76
ポンペオ国務長官、訪朝しトランプの親書。米朝高官会議。金正恩も親書を託す。
77
DPRK外務省報道官、米国の要求をギャングのような要求と批判。
727
朝鮮戦争停戦協定65周年。米兵遺骨55柱が米国に返還される。
823
米北朝鮮政策特別代表にスティーブン・ビーガンが就任。
914
初の恒久的な南北連絡事務所をケソン市に設立。南北からのスタッフが常駐。
919
南北首脳会談において「9月平壌共同宣言」と付属文書「軍事分野合意書」に署名。北は米国が相応の措置をとれば寧辺核施設の永久廃棄の措置を講じる、と述べる。
929
トランプ、ウェストバージニア州ホイーリングでの選挙集会で「金正恩と恋に落ちた」と発言。
1130
南北鉄道連結のための調査始まる。(~1217日)
1226
開城市板門駅で南北鉄道連結起工式。実質的事業は制裁のため進展せず。


2019

17
金委員長が中国を訪問し、4回目の中朝首脳会談。
118
金英哲(キムヨンチョル)朝鮮労働党副委員長、ワシントンでポンペオ、次いでトランプに面会。直後に米大統領府が2月末に2回目の米朝首脳会談を開催と発表。
119
ストックホルムでビーガン・崔善姫の初の実務者協議(~21日)。
131
ビーガン、スタンフォード大学で講演し、同時並行的交渉を示唆。段階的な交渉を含むと一般的に理解された。
227
28
2回の米朝首脳会談、ハノイで開催。合意文なし。
315
平壌で崔善姫が会見し、トランプの柔軟な姿勢をポンペオとボルトンが壊したと述べる。
412
14期第1回最高人民会議で金正恩が施政演説。制裁の継続を前提に自力更生による経済建設を強調し、米国の方針転換を年末まで待つと表明。
54
DPRK18か月ぶりに単距離弾道ミサイルを発射。以後、断続的に単距離ミサイル発射が続く。
56
安倍首相、記者団に条件をつけずに日朝首脳会談をめざす方針を述べる。
59
米司法省、貨物船「ワイズ・オネスト」を差し押さえて米領サモアに連行。
514
DPRK外務省、米が貨物船を拿捕したことを非難し、612共同声明の精神に違反と述べる。
527
韓国、ウルチ・テグック(乙支太極)大型軍事演習を開始(~30日)
64
DPRK、外務省報道官声明で、シンガポール共同声明を評価したうえで米国が一方的要求をするのみと批判、米の計算の変更を要求。
620
21
習近平国家主席が初の訪朝。5回目の中朝首脳会談。
630
3回米朝首脳会談、板門店で電撃的に開催。約1時間。トランプが境界線を跨ぐ。実務チームを構成して23週後に実務者会談を再開。
711
DPRK外務省アメリカ研究所政策研究部長が、韓国空軍に7月中旬到着予定のF35Aを厳しく非難する声明。
81
731日のミサイル発射を踏まえた英独仏の要請により、安保理が非公開会合。
829
14期最高人民会議第2回会議において。DPRKは憲法を改正し、国務委員長は最高人民会議で選出され、国家の最高指導者であると位置付ける。
910
トランプ、ボルトン補佐官を更迭したとツイート。
102
DPRKが新型SLBM北極星3を垂直モードで元山湾から潜水発射。
105
ストックホルムで金明吉(キムミョンギル)DPRK実務者協議代表とビーガンが実務会議。金明吉は直後に決裂と発表。オーガタス米国務省報道官は、8.5時間の協議は実り多かったと反論の声明。
106
DPRK外務省報道官、米から新提案がなければ次の会談はないとし、年末期限を再確認する。
1021
トランプ、記者会見で金正恩との関係は良好、「互いに尊敬しあっている」と述べる。
1024
金正恩、金剛山の韓国建設施設の取り壊しを命じる。外国に依存した「先人の政策の失敗」と述べる。
1114
金明吉、「米国は交渉に値する提案の準備がない。戦争終結宣言や連絡事務所の設置は交渉の対象にならない。北朝鮮への敵視政策を止めるための基本的解決策が必要」と述べる。
1117
エスパー米国防長官、バンコクで米韓航空共同演習の延期を発表
122
DPRK李テソン外務副大臣、年末期限を警告し、どんなクリスマスの贈り物を選ぶかは米国次第、と述べる。
1216
中ロが安保理で対DPRK制裁緩和の決議案を各国に配布。米国は時期尚早と反対。
1228
31
DPRK、朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会を開催。異例の4日間。金正恩、経済制裁の継続を自力更生で正面突破する戦略を強調。同時に戦略兵器の開発の継続を表明した。

(森  (森山拓也、,梅林宏道)


1 「朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会が行われる」(『朝鮮中央通信』日本語版、202012日)。http://kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf「最高指導者の活動」から日付で検索。

2019/12/25

監視報告 No.19

監視報告 No.19  2019年12月25日

§事実に基づく多面的な報道をマスメディアに求める

 朝鮮半島の平和と非核化を巡る米国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の交渉は依然として膠着状態が続いており、交渉が決裂して朝鮮半島の緊張が再び高まるのではないかと懸念されている。

 米国政府は対話の再開を求めているが、北朝鮮政府はシンガポール合意の履行に欠かせない敵視政策の撤回を強く求め、相互的な行動を前提としない対話に応じるつもりはないようだ[1]。今月に入って北朝鮮は「重大な実験」を行ったと2度発表[2]。実験は大陸間弾道ミサイル(ICBM)に関するものだと見られており、金正恩委員長が「忍耐強く米国の勇断を待つ」のは年末までだと明言していることなどから[3]、ICBMの発射実験を再開する日が近いのではないかと危惧されている。今年5月以降繰り返されている北朝鮮の短距離のミサイル実験を黙認してきたドナルド・トランプ大統領だが、ICBMの発射実験が行われれば、黙っているわけにはいかないだろう。123日の記者会見では金正恩との関係は良好だと述べつつも、昨年6月のシンガポールでの首脳会談以来、初めて軍事行動の可能性に言及している[4]。

 行き詰まる米朝交渉について、欧米のレンズを通して世界情勢を見ることに慣れている日本社会では、その責任は北朝鮮側にあるとの見方が支配的だ。例えば、朝日新聞の1218日付の社説[5]もその典型的な一つだ。

 「北朝鮮の挑発 緊張状態に戻る気か」と題するその社説は、北朝鮮が最近「挑発行為」を繰り返している理由について、経済政策で成果を上げられないことに「焦り」を感じている北朝鮮が米国政府との「駆け引き」で「制裁緩和」を得ようとしているからだと分析する。そして北朝鮮に対して、
 「古い思考を捨て去るべきだ。強硬姿勢だけが国際社会からの譲歩を引き出せると考える限り、実利を得られるような展望は開けない。事態を打開するには、非核化に具体的に動くしかない」
と訴えて、実務協議の再開を求めている。一方、トランプ政権に対しては北朝鮮のミサイル実験を黙認してきたことを念頭に「北朝鮮を増長させた責任を自覚すべきだ」と反省を促し、「北朝鮮の非核化」を巡る交渉で「安易な取引」を行わないようにと注文を付ける。そして日本政府と韓国政府に対してはトランプ政権と「綿密な政策調整」を行うよう求め、「米国のブレ」を防ぐとともに「北朝鮮の挑発を抑え」て「非核化の道筋を探る」必要があると主張する。

 朝日新聞の主張は事実を前提にしていない。

まず現在の米朝交渉の基盤となっているシンガポールでの米朝の共同声明の合意内容のほとんどを無視している。シンガポールで米朝両首脳は、「新しい米朝関係の構築」、「朝鮮半島の永続的かつ安定的な平和体制の構築」、「朝鮮半島の完全な非核化」、「米兵の遺骨回収と返還」で合意した。また、その前提としてトランプは北朝鮮に「安全の保証を与えると約束」し、金正恩は「朝鮮半島の完全な非核化を行うという固い約束を再確認」した。それにもかかわらず、朝日新聞は「朝鮮半島の非核化」ではなく「北朝鮮の非核化」だけを問題にし、「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築のことなど全く念頭にない。シンガポール合意に従うなら、北朝鮮が求める敵視政策の撤回──それには制裁解除や米韓合同軍事演習の中止が含まれる──は、「駆け引き」とか「安易な取引」として軽視するのではなく、「新しい米朝関係」や「朝鮮半島の平和体制」の構築のために、「朝鮮半島の完全な非核化」と合わせて考慮されるべき問題だろう。

また朝日新聞は、北朝鮮の「挑発行為」だけを問題にして、米国の「挑発行為」については無視している。今年8月に行われた米韓合同軍事演習や、ステルス戦闘機F35 Bなどの米国の最新鋭兵器の韓国軍への納入は、北朝鮮からすれば「挑発行為」と映るだろう。米韓が軍事力の強化を図っているのだから、米国との戦争状態にある北朝鮮としても安全保障上の対抗措置を取らざるを得ない。ミサイル実験を行う北朝鮮の行為だけを「挑発行為」と批判することはできないはずだ。

それから、「強硬姿勢」だけで「譲歩」を引き出そうとする「古い思考」というのは、米国政府に対して言えることではないか。シンガポール合意の履行状況を見ると、北朝鮮は会談以前に核実験の中止や核実験場の爆破―再建可能との批判はありつつも―という思い切った行動やICBM発射実験の中止を行ったのみならず、会談後もミサイル施設の一部解体や米兵の遺骨返還などを行っているのに対して、米国政府は米韓合同軍事演習の縮小及び延期しか行っていない。こうした事実を踏まえれば、「古い思考を捨て去るべき」なのは、北朝鮮の非核化だけを一方的に求めている米国政府の方だ。「事態を打開」するには、北朝鮮に対する敵視政策の撤回に向けて米国こそが「具体的に動くしかない」のではないか。米国の侵略を警戒する北朝鮮が、抑止力として開発した核兵器を放棄する条件として米国の敵視政策の撤回を求めるのは常識的に考えて当然だろう。

 それにもかかわらず、朝日新聞がトランプ政権に対して「安易な取引」をしないよう求めたり、トランプ政権の「ブレ」を心配するのは、圧力が金正恩を対話姿勢に転じさせたのだと勘違いしているからかもしれない。しかし2017年までの朝鮮半島の緊張状態を緩和させたのは、北朝鮮に対する制裁や軍事的圧力ではない。北朝鮮政府は対話姿勢に転じる前に「核戦力の完成」を宣言している。北朝鮮は核保有国となって米国と対等の立場になったと考えたから対話に転じたと見るのが自然だろう。また北朝鮮にひたむきに対話を求め続け、(ピョン)(チャン)オリンピックを契機に南北関係を改善させ、米朝対話のきっかけを作った韓国の文在寅(ムンジェイン)統領の功績も大きい。

このように事実に基づかない朝日新聞の主張だが、日本社会ではもっともな意見として受け入れられているのではないかと懸念する。朝日新聞に限らず、日本のマスメディアは米国の立場からの一面的な見方で朝鮮半島情勢について伝える傾向があり、冒頭で述べたように、日本社会では朝鮮半島の平和と非核化の問題を北朝鮮の非核化の問題に矮小化し、まず行動すべきは北朝鮮だという認識が一般的になっている。

米国のレンズを外して現実を見れば、批判の対象も違ってくるだろう。客観的な現状分析は、朝鮮半島の非核化を実現するために極めて重要だ。非核化を実現する上で、社会を動かす原動力となる市民社会が問題を正しく認識している必要もあるだろう。マスメディアには、事実を多様な側面から正確に伝えてジャーナリストとしての本来の仕事をしてもらいたい。(前川大)


1 12月に予定されていた米韓合同軍事演習が延期されたことを受けた金英哲・朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長の談話(『朝鮮中央通信』日本語版、20191118日)や、ドナルド・トランプ米大統領の「早く行動し合意すべきだ。近いうちに会おう!」というツイートに対する金桂寛・外務省顧問の談話(『朝鮮中央通信』日本語版、20191118日)など。いずれも、
2 『朝鮮中央通信』(日本語版、2019128日及び1214日)
3 『朝鮮中央通信』(日本語版、2019414日)
http://kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf「最高指導者の活動」から、日付で施政演説を探すことができる。
4 米大統領官邸(ホワイトハウス)、「Remarks by President Trump and NATO Secretary General Stoltenberg After 1:1 Meeting」、2019123
5 『朝日新聞』(20191218日)


2019/12/16

監視報告 No.18

監視報告 No.18  2019年12月16日

§ 北東アジア非核兵器地帯という枠組みで、シンガポール合意の実現を目指そう

 朝鮮半島の平和と非核化に向けた米朝交渉は、104日にスウェーデンのストックホルムで再開した実務者協議も不調に終わり、依然として膠着状態が続いている。米国政府は12月に予定していた米韓合同軍事演習を延期するなど朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対して一定の譲歩を示しているが、北朝鮮政府は米国の北朝鮮に対する敵視政策の完全な撤回を求めて米国政府の対話要求を拒否している1。北朝鮮政府が設定した年末までの交渉期限が迫っており、このまま協議が決裂することも懸念されるが、北東アジアの平和と安定のために、我々は昨年6月に米朝両首脳がシンガポールでの首脳会談で約束した「朝鮮半島の平和体制の構築」と「朝鮮半島の完全な非核化」の実現を諦めるわけにはいかない。今回の報告書では、朝鮮半島の非核化に向けた打開策として、米朝2国間の枠組み以外の方策を提案する。


 米朝両首脳がシンガポールで合意した朝鮮半島の平和と非核化の実現を阻むものは何か。

 北朝鮮側からすると、それは北朝鮮政府の要求から明らかなように、米国が北朝鮮に対する敵視政策をいつまでも続けていることだろう。朝鮮戦争で米国に国土をことごとく破壊され、未だに米国と戦争状態にある北朝鮮にとって、核兵器をもつことは米国の侵略に対する抑止力として重要な意味をもっているであろう。従って北朝鮮政府が米国政府に繰り返し求めている敵視政策の撤回は、非核化の条件として十分に理解できる要求である。

 一方、米国政府は、軍事的圧力や経済制裁などの北朝鮮に対する敵対的な政策は、北朝鮮が非核化を実現した後に解消されるべきだと考えているようだ。例えば、今年2月にベトナムのハノイで行われた首脳会談で米国政府が制裁解除の条件として北朝鮮に全ての核施設の廃棄を要求したように、トランプ政権は制裁緩和をほのめかすことはあっても、北朝鮮が非核化するまで制裁を続けるという方針で一貫している。たとえ米国の侵略に対する抑止力であろうと、北朝鮮が核兵器を持つことは国際的な安全保障上の脅威だという論理を米国は国連制裁決議を通して組み立てた。その論理の上に立てば、北朝鮮が核兵器を放棄するまでは制裁の緩和に応じるわけにはいかないし、北朝鮮を仮想敵国と見立てた軍事力も解消することはできないということなのだろう。

どちらの言い分に理があるかについては脇に置くとして、双方が抑止力や安全保障を理由に譲らないなら、この問題を平和的に解決することはできない。

それではシンガポール合意の実現は不可能なのか。いや、幸いなことに、世界には参考となるモデルが存在する。それは非核兵器地帯という安全保障体制だ。

非核兵器地帯とは、条約によって域内での核兵器の開発・製造・取得・所有・貯蔵などを禁止するとともに、核保有国が域内への核兵器による攻撃・威嚇を行う事も禁止するもので、既に中南米(ラテンアメリカ及びカリブ核兵器禁止条約、1968年発効)や南太平洋(南太平洋非核地帯条約、1986年発効)など5つの非核兵器地帯が存在し、非核を基礎にした安全保障の枠組みとして機能している。

非核化の対象をシンガポール合意のように朝鮮半島に限定せず北東アジアに拡大することは、以下の2つの理由から、朝鮮半島の非核化を確実に実現させ、平和を維持していく上で必要であると考えられる。

①シンガポールで米朝が合意した「朝鮮半島の完全な非核化」は在韓米軍を含む韓国の核も対象である。従って韓国への米国の拡大核抑止力に代わる措置として、核保有国である中国とロシアが朝鮮半島への核による攻撃や威嚇をしないという保証が必要であること。

②在韓米軍の機能が在日米軍に移され維持されるようなことがあれば、北朝鮮の安全の保証は十分に担保できないこと。

また法的拘束力のある検証制度が伴う既存の非核兵器地帯をモデルとするなら、日本政府などがこだわる「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を実現できるメリットもある。

核兵器を保有する軍事大国である中国とロシアが存在する北東アジアで、本当に米国の「核の傘」に頼らずに安全保障を確保できるのかと疑う声もあるだろう。北朝鮮に対して非核化を要求していることを考えれば随分と身勝手な発想だと言わねばならないが、心配は無用だ。同じ北東アジアの国で、一国ながら非核兵器地帯であることを宣言し、国内法で非核化を義務付けることで国際社会の信頼を得て、安全保障体制を築いている国がある。中国とロシアに挟まれたモンゴルは、1998年の国連総会で「非核兵器地位」が認められ、以降国連総会で毎年「非核兵器地位」を確認することで、非同盟国でありながら安全保障体制を確立している。モンゴルの場合は複数の国家からなる非核兵器地帯ではないため、条約による法的な担保がないが、それでも非核兵器地帯であることが国連で認められれば、北東アジアでも大国の「核の傘」に頼ることなく、最小限の軍事費で安全保障を確保できることを示している。

朝鮮半島には東西の冷戦構造が残っていると言われることがあるが、それは中国や北朝鮮など体制の異なる国家を敵視し、安全保障を対話ではなく「核の傘」に依存するという古い考え方に縛られているということと無関係ではない。また北東アジアに限らず、西アジアや東ヨーロッパなど世界各地で、米軍やその同盟の存在が地域を不安定化している。我々はこうした現実に気づき、古い考えから脱却しなければならない。

北朝鮮政府は、朝鮮半島の非核化に関する韓国政府との最初の共同宣言である「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」(1992年)で「核兵器の実験、製造、生産、持ち込み、保有、貯蔵、配備、使用をしない」ことで合意しており、しかもこの宣言は米朝御枠組み合意(1994年)や6か国共同声明(2005年)でもその履行を目指すことが再確認されている。それ以後北朝鮮は核兵器を保有した訳であるが、一貫して「米国の核の脅威がなければ核保有の理由がない」と言い続けている。北朝鮮が、これを充たす非核兵器地帯のような形での非核化の実現を受け入れる可能性は高い。

課題は米国とそれに追従する勢力だろう。アジアでの覇権を維持したい米国政府は、中国やロシアの影響力を抑えるために、核兵器を北東アジアに搬入できる手立ては残しておきたいはずだ。実際、マーク・エスパー米国防長官は中距離核戦力(INF)全廃条約が失効した直後に新型の中距離ミサイルをアジアに配備したいとの意向を示しており[2]、日本もその候補地に挙がっている。またイランの核兵器開発を阻止する上で最も有効だと考えられる中東非核兵器地帯の創設を米国政府が拒否していることからもわかるように[3]、非核化や地域の平和より自国の覇権のための戦略を優先するのが米国だ。

本来なら、戦争被爆国である日本政府がリーダーシップを発揮して北東アジア非核兵器地帯を提案し、安倍政権自慢の「強固な日米同盟」を活かしてトランプ政権を説得することを期待したいところだ。11月のローマ教皇来日の際、安倍晋三は日本の総理大臣として各国大使らとの懇談会で挨拶し、

「唯一の戦争被爆国として、『核兵器のない世界』の実現に向け、国際社会の取組を主導していく使命をもつ国です。これは、私の揺るぎない信念、日本政府の確固たる方針であります」[4

と述べている。その言葉が本物なら、その「使命」を果たす良い機会ではないか。

しかし核兵器禁止条約に反対している現政権に、それを期待することはできない。「強固な日米同盟」と言っても、その実態は日本政府の見境なしの対米従属だ。安倍晋三の「揺るぎない信念」は口先だけで、安倍政権が自発的に北東アジアの非核化に向けてリーダーシップをとることなどないだろう。

冒頭でも述べたように、北朝鮮政府が設定した交渉期限が迫っている。もうこれ以上「リーダー」に任せるのは止めて、市民がその実現に向けて行動すべき時だ。北東アジアに住む全ての人間の生命にかかわる問題であるにもかかわらず、ごく少数の人間にその命運を任せるというのは間違っている。北東アジアの平和を求める市民が、北東アジア非核兵器地帯の必要性を認識し、それを実現するための一大ムーブメントを巻き起こし、各国政府に対して我々の平和への思いを政策に反映させるよう圧力をかける必要がある。

空想的に聞こえるかもしれないが、それが最も確実に社会を動かす方法だ。市民の行動が社会を動かした事例は枚挙にいとまがなく、世界各地で現在繰り広げられている政府への抗議活動に目を向ければ、あえて例示する必要もないだろう。

一つだけ、平和を願う市民に勇気を与える言葉として例を挙げるなら、大企業のための協定である北米自由貿易協定(NAFTA)に抗い、先住民である農家の生活向上や民主主義などを求めて蜂起したメキシコ・チアパス州のサパティスタ民族解放戦線(EZLN)が居住する区域の入り口の看板には次のように記されている。

「ここでは人民が率い、政府が従うことになっています」[5] (前川大)


1 12月に予定されていた米韓合同軍事演習が延期されたことを受けた金英哲・朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長の談話(『朝鮮中央通信』日本語版、20191118日)や、ドナルド・トランプ米大統領の「早く行動し合意すべきだ。近いうちに会おう!」というツイートに対する金桂寛・外務省顧問の談話(『朝鮮中央通信』日本語版、20191118日)など。
2 「Secretary of Defense Esper Media Engagement En Route to Sydney, Australia」(米国防総省、201982日)
3 米国は西アジアで唯一の核保有国であるイスラエルとともに、今年11月に国連で開かれていた中東非核地帯の創設を目指す会議を欠席した。イランとアラブ諸国は中東非核兵器地帯の創設に前向きだが、米国は2012年にフィンランドのヘルシンキで開かれた同様の会議にもイスラエルとともに欠席している。
4 「ローマ教皇フランシスコ台下との会談等」(首相官邸20191125日)
5 「You are in Zapatista rebel territory. Here the people command and the government obeys」(Wikipedia

2019/12/06

監視報告 No.17

監視報告 No.17  2019年12月6日

§ 日本も世界も朝鮮半島で始まった平和への歴史的チャンスを逃してはならない

 2018年に始まった非核化と平和に向かう朝鮮半島における変化は、2017年に頂点に達した戦争の危機を回避したのみならず、北東アジア全体に新しい秩序を作り出す歴史的なチャンスを作り出した。しかし、1年半にわたって取り組まれてきた米朝交渉の失敗によって、そのチャンスが危機に瀕している。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、米国が「新しい計算法」をもって、昨年のシンガポール合意を履行するための提案を2019年末までに提出するよう期限を設定して要求していた。年末まで1か月を切ったが、米国はそれに応える気配を見せていない。このままでは、千歳一遇の好機を失うことになる。それは日本の市民にとっても大きな損失になるであろう。


北朝鮮による年末期限

 2019414日、北朝鮮の最高人民会議・第14期第1回会議において、金正恩委員長は施政演説[1]を行ったが、その中で次のように年末期限について触れた。少し長くなるが、文脈を想起することが重要なので引用する。

 「米朝間に根深い敵対感情が存在している状況の中で、6.12米朝共同声明を履行してゆくためには、双方が互いの一方的な要求条件を取り下げ、各自の利害に合致した建設的な解決策を見出さなければならない。
 そのためには、まず、米国が今の計算法を捨て、新しい計算法をもって我々に近寄ることが必要だ。
 今、米国は第3回米朝首脳会談の開催について多くを語っているが、我々にとってハノイ米朝首脳会談のような首脳会談が再現されるのはうれしいことではなく、それを行う意欲もない。
 しかし、トランプ大統領がしきりに述べているように、私とトランプ大統領の個人的関係は両国の関係のように敵対的なものではなく、我々は依然として良好な関係を維持しており、思い立ったらいつでも互に安否を問う手紙をやりとりすることもできる。
 米国が正しい姿勢で我々と共有できる方法論を見出したうえで、第3回米朝首脳会談の開催を提起するなら、我々としてももう一度は会談を行う用意がある。
 しかし、今この場で考えてみると、何かの制裁解除の問題のために喉が渇いて米国との首脳会談に執着する必要はないという気がする。
 ともかく、今年の末までは忍耐強く米国の勇断を待つつもりだが、この前のようによい機会を再び得るのは確かに難しいだろう。」(下線は梅林)

 このように、米国がハノイ会談で要求したような一方的な要求ではなく、「新しい計算法」に基づく提案を出すことを北朝鮮が待つ、その期限が2019年末であると、金正恩委員長が述べたのである。


「新しい計算法」とは

 北朝鮮が米国に要求している「新しい計算法」とは何か。北朝鮮の言動から次のように推測することが可能である。

 2019612日のシンガポール共同声明1周年の際に、北朝鮮は外務省報道官声明[2]を発した。その時も声明は「新しい計算法」を要求した。このときに強調されたのは、米国の姿勢は「一方的に我々(北朝鮮)が核兵器を差し出す」よう主張し「米国が自らの責任を果たさない」という米国の姿勢への批判であった。つまり、新しい計算法は、お互いが義務を果たす相互的なものであるべきだという主張である。

 630日に板門店で電撃的な首脳会談が行われ、米朝間の実務者協議の開始が合意された。これによって、実務者協議において「新しい計算法」の中味が具体的に交渉されることが期待された。板門店会談の直前および直後に、米国の北朝鮮問題特別代表スチーブン・ビーガンが、オフレコの会話も含めて記者団に「シンガポール合意を同時的・並行的に履行を進める」準備が米国にあることを述べて注目された[3]。ビーガンの会話の中には、トランプ大統領のビッグ・ディールではなく、スモール・ディールを含む提案が米政権内で議論されていることが明らかになった。たとえば、北朝鮮がすべての大量破壊兵器の完全凍結をする見返りとして、北朝鮮への人道支援や連絡事務所の設置による人的交流の促進などを行う案が出ていることがオフレコで話された。米国務省の報道官も、第1段階の措置として凍結案が浮上していることを否定しなかった[4]。この経過は、米国は「新しい計算法」の中には、北朝鮮が以前から主張してきた「行動対行動の原則」にそった、シンガポール合意の段階的な履行という内容が含まれていると認識していたと考えられる。米国務省にこの理解があるとすれば、それは正しいであろう。

 この「相互的」、「段階的」という要素の他に、北朝鮮の「新しい計算法」には重要な前提的要素がある。それは、冒頭の引用と同じ金正恩の施政演説に含まれている次の認識である。それは、北朝鮮はすでに「核実験とICBM発射実験を中止するという重大で意味のある措置を自主的に講じた」、また、「米軍遺骨の送還」という大統領の要請にも応えた、しかし、米国はこれに見合った自主的な措置を何一つ講じていない、という認識である。核実験の中止には、復元可能との議論を考慮するにしても、核実験場の爆破も伴っていた。これらと比べると、米国の米韓合同演習の縮小や延期は、北朝鮮がとった措置の重大さに確かに見合っていないと考えられる。

 このような議論を総合すると、「新しい計算法」とは、米国が北朝鮮のすでに行った措置に見合う「相当な措置」をまず行うこと、その上に立ってシンガポール合意の履行のために相互的で段階的な措置を積み重ねる方法を意味する、と考えることができる。


ストックホルム米朝実務者協議

 板門店首脳会談後には7月半ばと言われていた米朝実務者協議の開催は、遅れに遅れて105日にストックホルムで行われた。2か月以上遅れた開催である。しかも、準備のための意見交換が重ねられていた形跡も見えなかった。

 むしろ、この期間において、米韓軍事演習「同盟192」の開催(実際には名称変更)や韓国空軍が米国から購入したF35が韓国に到着するなど米韓の軍事行動があり、一方で北朝鮮が多数の短距離ミサイル実験や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行うなど、米朝間、南北間の両方の関係が悪化し、緊張が増した。

 ストックホルムの実務者協議は、S・ビーガンと米朝交渉北朝鮮代表に選ばれた(キム)明吉(ミョンギル)・巡回大使の両代表が参加して行われた。会議は8.5時間にわたった[5]。会議の直後に北朝鮮は、会議は決裂したと述べ、「米国は新しい提案もなく手ぶらでやってきた」と非難した。米国は直ちに反論し、「米国は創造的なアイデアを携えて臨み実りの多い協議をもった」と述べるとともに「スウェーデン政府の2週間後の再協議の招待を受ける積りだと米国は協議の最後に提起した」と述べた[6]。すると翌日、北朝鮮の外務省報道官は、改めて米国を非難し「米国は米朝対話を政治目的のために悪用しており、何の準備もなく会議に臨んだ」との主張を繰り返した。そして、「米国が北朝鮮に対する敵視政策を完全、非可逆的に撤回するための相当な措置を講じない限り」今回のような交渉をもつ積りはない、と協議再開に厳しい条件を付けた[7]。

 実務者協議はこのように失敗した。

 その後の経過で明らかになるが、北朝鮮は「新しい計算法」の要求を変更し、「敵視政策の明確な撤回」を、要求の言語として使うようになった。「新しい計算法」という実務的な交渉の色合いを排して、「敵視政策の明確な撤回」という政治的交渉へと舵をきったように見える。


「敵視政策の撤回」への回帰

 「敵視政策の撤回」は古くからの北朝鮮の対米要求の基本である。

 ストックホルム会議以後の米朝関係は、年末期限を控えて緊張が次第に高まっている。

 エスパー米国防長官が従来の米韓合同軍事演習(空軍)ビジラント・エースの延期を表明したことに対して、1118日、金英哲(キムヨンチョル)朝鮮アジア太平洋平和委員会委員長(前労働党第1副委員長)は、延期では不十分であり完全に中止せよと要求し、非核化交渉には「敵視政策の完全で非可逆的な撤回」(下線は梅林)が必要であると述べた[8]。トランプ大統領が1117日、金正恩委員長に「早く行動すべきだ、交渉を済ませよう」「すぐに会いましょう」とツイートしたのに対し、金桂寛(キムケグァン)北朝鮮外務省顧問は直ちに反応して「自分たちに何ももたらさない会談にもはや興味はない」「米国は、敵視政策を中止する大胆な決定をしたほうがよい」(下線は梅林)と述べた[9]。

 さらに注目すべきは、金明吉巡回大使の交渉相手である米国のビーガン代表の行動に苦言を呈しつつ述べた発言である。1114日、金明吉はビーガンがスウェーデン政府に米朝協議への仲介を依頼したことに対して、「交渉相手である自分に率直に相談すべきだ」「検討すべき提案があればいつでも会う用意はある」「提案すべき内容がないのに年末期限をやり過ごすための時間稼ぎのためのような会議に応じる意思はない」「自分たちの要求や優先順位については十分に米国側に伝えてあるのでボールは米国の手にある」と主張しつつ、次のように踏み込んでいる[10]。

「もし、米国が、我々の生存と発展に有害な北朝鮮敵視政策を中止するための基本的な解決策を提案せず、状況が変わればいつでも死文と化す戦争終結宣言や連絡事務所の設立のような二義的な問題で我々を交渉に誘おうと考えているとすれば、問題が解決する可能性はない。」(下線は梅林)
 ここでは敵視政策撤回を要求するのみならず、朝鮮戦争の終結宣言や連絡事務所の設置など初期段階の中間措置としてこれまで話題になっていた措置を二義的と否定的に述べ、「敵視政策の撤回」の優先度の高さを強調している。
 以上で明らかなように、ストックホルム会議以降の北朝鮮の要求は「敵視政策の撤回」に見事に統一されている。歴史上最強といわれる経済制裁が敵視政策の最たるものとして暗示されていることは想像に難くない。


日本の課題

 2018年に米朝と南北の首脳会談によって切り拓かれた朝鮮半島の非核化と平和への歴史上またとないチャンスが、失敗に終わるかも知れないという危機的な状況に私たちは立たされている。1120日に開かれた米上院外交委員会における証言において、ビーガン代表は、年末期限は北朝鮮が勝手に設定したものであると述べつつ、「トランプ大統領は金正恩が前に動かす決定をする可能性があるとの見解だ」と、トランプ大統領の見解を紹介している[11]。しかし、南北関係の悪化も加えて考えると状況は楽観を許さない。米朝交渉の失敗は世界にとって大きな損失になる。

 朝鮮半島の非核化と平和の問題は、日本にとってもまた当事者と言うべき問題である。日本は北朝鮮に対して植民地支配に対する謝罪も賠償も済んでいない。朝鮮半島情勢の好転はこの歴史的な懸案の解決のための対話の端緒を開く貴重な機会を生み出すはずである。日本の市民は傍観者であってはならない。

 北東アジアの平和と安定と日朝の歴史的課題の解決のために、日本は積極的に行動し、現在の行き詰まりの打開の道を探るべきである。例えば、日本自身の核兵器依存政策からの転換を含む北東アジア非核兵器地帯の設立を提案し、この地域の協調的な安全保障の枠組みを追求する方針を示すことによって、それは可能である。そうすることによって、米朝交渉のみに依存している現在のプロセスを、より広い枠組みの議論へと転換することができるはずである。(梅林宏道)


1 『朝鮮中央通信』(日本語版、2019414日)。
http://kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf 「最高指導者の活動」から、日付で施政演説を探すことができる。
2 国連文書A/73/894S/2019/466
3 「聯合ニュース」(英語版、2019628日)
また、米インターネットメディア「AXIOS」(201973日)(英文)
4 モーガン・オータガス「国務省プレス・ブリーフィング」(201979日、米国務省HP
5 モーガン・オータガス「報道声明:北朝鮮協議」(2019105日、米国務省HP
6 同上。
7 『朝鮮中央通信』(英語版、2019106日)。http://www.kcna.jp/index-e.htmから日付で検索。
8 『朝鮮中央通信』(英語版、20191118日)。http://www.kcna.jp/index-e.htmから日付で検索。
9 『朝鮮中央通信』(英語版、20191118日)。http://www.kcna.jp/index-e.htmから日付で検索。
10 『朝鮮中央通信』(英語版、20191114日)。http://www.kcna.jp/index-e.htmから日付で検索。

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