監視報告 No.20 2020年2月5日
§朝鮮半島非核化プロセスが長期化する新しい段階に入ったいま、2018-19年を要約する年表を掲載する。
2019年12月28日から31日、異例の4日間にわたって朝鮮労働党第7期中央委員会第5回総会が開催された。朝鮮中央通信の報告[注1]によると、金正恩委員会は総会において、正面突破戦略を強調した。その趣旨は経済分野における国際的制裁が継続することを前提として、この困難を自力更生、自給自足で正面突破することを国民、党幹部に号令することであった。同時に、米国が敵視政策を撤回し、朝鮮半島で恒久的で揺るぎない平和体制が構築されるまで、国家の安全のために戦略兵器の開発を中断せずに継続すると述べ、新しい戦略兵器の登場を予告した。その開発の度合いは、米国の政策によって変わるとも述べ、外交交渉の余地を示唆した。
2020年11月、米国においては大統領選挙が行われる。一年を通じて、米政権が挑戦的な新しい方針を出すことは考えにくい。このことを考え合わせると、北朝鮮が示した正面突破戦略は朝鮮半島の非核化交渉はしばらく急速には動かないことを意味するであろう。したがって、この機会は、市民社会が情勢を動かすために熟慮し、行動する好機であると捉えることもできる。
その意味で、市民が熟慮するための材料として、2018年以後の朝鮮半島の非核化に関する主要なできごとの日誌を以下に掲載する。
2018年
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1月1日
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金正恩委員長、年頭の辞を発表。核抑止力の完成を宣言。核弾頭と弾道ミサイルを量産し、実戦配備するよう指示。並進路線の傾向を述べ、経済開発5か年計画への注力を国民に訴え。南北の緊張緩和と関係改善をめざす方針を述べ、平昌オリンピックへの代表団の派遣や南北当局の会談の可能性に言及。
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1月9日
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およそ2年ぶりの南北閣僚級会談。DPRKの平昌オリンピック参加で合意。
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2月9日
~25日
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平昌オリンピック。南北の選手の合同入場やアイスホッケー女子の南北統一チーム結成で南北友好をアピール。
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2月10日
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文在寅大統領が金与正党中央委員会第1副部長、金永南最高人民会議常任幹部会議長らDPRK特使団と会談。与正氏が金正恩委員長の親書を手渡すとともに大統領の訪朝を要請。
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3月5日
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韓国の鄭義溶国家安保室長、徐薫国家情報院長ら特使団が訪朝し、金正恩と会談。DPRKが南北首脳会談と核放棄の意図を表明。
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3月6日
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鄭義溶、南北が首脳会談を4月末に板門店で開催に合意と発表。DPRKは軍事的脅威がなくなり体制保証があれば核保有の理由がないと考えであると韓国政府の報道発表。初めてのDPRKの非核化意志の公的発表。
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3月8日
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鄭義溶ら訪米。トランプ大統領が金正恩による首脳会談要請を承諾。
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3月25日
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金正恩、就任後初の外国訪問として北京を電撃訪問し、習近平国家主席と中朝首脳会談。初の海外首脳外交。
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3月30日?
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ポンペオCIA長官、極秘に平壌訪問、金正恩と面会。2泊3日。
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4月20日
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朝鮮労働党中央委第7期第3回総会。並進路線の成功を宣言。経済に全力。核実験とICBM発射実験の中止、核実験場の解体を決定。
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4月27日
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南北首脳会談を板門店、韓国側の平和の家で開催。金正恩と文在寅が板門店宣言に署名。南北関係の全面的改善、南北の緊張緩和、年内の朝鮮戦争の終結宣言、朝鮮半島の完全な非核化などにより南北の平和体制を確立することなどに合意。
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5月7日
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大連で2度目の中朝首脳会談。
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5月9日
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ポンペオ米国務長官が訪朝、拘束されていた米国人3名が解放されポンペオとともに横田基地へ。
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5月10日
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トランプ、6月12日にシンガポールで首脳会談とツイート。
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5月11日
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米韓合同軍事演習、マックス・サンダー開始(~25日)。B52が参加。
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5月16日
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金桂寛DPRK第Ⅰ副外相、ボルトン大統領補佐官のリビア方式発言と米韓合同軍事演習を理由にシンガポール首脳会談の中止も辞さないと声明。
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5月24日
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DPRKが豊渓里の核実験場を爆破し、記者に公開。
崔善姫DPRK副外相、ペンス米副大統領を「愚か者」と呼び、首脳会談延期を示唆。
トランプ、6月12日米朝首脳会談の中止を述べる書簡。
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5月25日
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金桂寛、トランプに再考を促す権限のある談話を発表。
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5月26日
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金正恩の要請で2度目の南北首脳会談(板門店の北側の統一閣)
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6月1日
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トランプ、米朝首脳会談を6月12日に再設定と発表。
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6月12日
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シンガポールで米朝首脳会談し、米朝首脳共同声明を発表。前文で「トランプがDPRKに安全の保証を与え、金正恩が朝鮮半島の完全非核化を行うと相互に約束した」。そして、「新しい米朝関係の構築」「永続的、安定的な平和体制の構築」「4月27日の南北板門店宣言の再確認と朝鮮半島の完全非核化」「戦争捕虜などの遺骨回収」について合意した。
トランプが記者会見。米韓合同軍事演習の中止、金正恩が東倉里(トンチャンリ)ミサイル・エンジンテスト施設解体の意図、などを報告。
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6月18日
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米韓の国防省が8月予定の合同軍事演習フリーダムガーディアンを中止すると発表(韓国は19日)。以後、大型の合同軍事演習を中止が続く。
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6月19日
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金委員長が中国を訪問し、3回目の中朝首脳会談。
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7月6日
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ポンペオ国務長官、訪朝しトランプの親書。米朝高官会議。金正恩も親書を託す。
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7月7日
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DPRK外務省報道官、米国の要求をギャングのような要求と批判。
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7月27日
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朝鮮戦争停戦協定65周年。米兵遺骨55柱が米国に返還される。
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8月23日
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米北朝鮮政策特別代表にスティーブン・ビーガンが就任。
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9月14日
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初の恒久的な南北連絡事務所をケソン市に設立。南北からのスタッフが常駐。
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9月19日
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南北首脳会談において「9月平壌共同宣言」と付属文書「軍事分野合意書」に署名。北は米国が相応の措置をとれば寧辺核施設の永久廃棄の措置を講じる、と述べる。
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9月29日
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トランプ、ウェストバージニア州ホイーリングでの選挙集会で「金正恩と恋に落ちた」と発言。
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11月30日
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南北鉄道連結のための調査始まる。(~12月17日)
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12月26日
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開城市板門駅で南北鉄道連結起工式。実質的事業は制裁のため進展せず。
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2019年
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1月7日
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金委員長が中国を訪問し、4回目の中朝首脳会談。
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1月18日
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金英哲朝鮮労働党副委員長、ワシントンでポンペオ、次いでトランプに面会。直後に米大統領府が2月末に2回目の米朝首脳会談を開催と発表。
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1月19日
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ストックホルムでビーガン・崔善姫の初の実務者協議(~21日)。
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1月31日
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ビーガン、スタンフォード大学で講演し、同時並行的交渉を示唆。段階的な交渉を含むと一般的に理解された。
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2月27日
~28日
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第2回の米朝首脳会談、ハノイで開催。合意文なし。
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3月15日
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平壌で崔善姫が会見し、トランプの柔軟な姿勢をポンペオとボルトンが壊したと述べる。
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4月12日
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第14期第1回最高人民会議で金正恩が施政演説。制裁の継続を前提に自力更生による経済建設を強調し、米国の方針転換を年末まで待つと表明。
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5月4日
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DPRK、18か月ぶりに単距離弾道ミサイルを発射。以後、断続的に単距離ミサイル発射が続く。
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5月6日
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安倍首相、記者団に条件をつけずに日朝首脳会談をめざす方針を述べる。
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5月9日
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米司法省、貨物船「ワイズ・オネスト」を差し押さえて米領サモアに連行。
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5月14日
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DPRK外務省、米が貨物船を拿捕したことを非難し、6・12共同声明の精神に違反と述べる。
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5月27日
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韓国、ウルチ・テグック(乙支太極)大型軍事演習を開始(~30日)
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6月4日
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DPRK、外務省報道官声明で、シンガポール共同声明を評価したうえで米国が一方的要求をするのみと批判、米の計算の変更を要求。
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6月20日
~21日
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習近平国家主席が初の訪朝。5回目の中朝首脳会談。
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6月30日
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第3回米朝首脳会談、板門店で電撃的に開催。約1時間。トランプが境界線を跨ぐ。実務チームを構成して2,3週後に実務者会談を再開。
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7月11日
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DPRK外務省アメリカ研究所政策研究部長が、韓国空軍に7月中旬到着予定のF35Aを厳しく非難する声明。
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8月1日
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7月31日のミサイル発射を踏まえた英独仏の要請により、安保理が非公開会合。
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8月29日
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第14期最高人民会議第2回会議において。DPRKは憲法を改正し、国務委員長は最高人民会議で選出され、国家の最高指導者であると位置付ける。
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9月10日
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トランプ、ボルトン補佐官を更迭したとツイート。
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10月2日
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DPRKが新型SLBM北極星3を垂直モードで元山湾から潜水発射。
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10月5日
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ストックホルムで金明吉DPRK実務者協議代表とビーガンが実務会議。金明吉は直後に決裂と発表。オーガタス米国務省報道官は、8.5時間の協議は実り多かったと反論の声明。
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10月6日
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DPRK外務省報道官、米から新提案がなければ次の会談はないとし、年末期限を再確認する。
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10月21日
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トランプ、記者会見で金正恩との関係は良好、「互いに尊敬しあっている」と述べる。
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10月24日
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金正恩、金剛山の韓国建設施設の取り壊しを命じる。外国に依存した「先人の政策の失敗」と述べる。
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11月14日
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金明吉、「米国は交渉に値する提案の準備がない。戦争終結宣言や連絡事務所の設置は交渉の対象にならない。北朝鮮への敵視政策を止めるための基本的解決策が必要」と述べる。
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11月17日
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エスパー米国防長官、バンコクで米韓航空共同演習の延期を発表。
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12月2日
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DPRK李テソン外務副大臣、年末期限を警告し、どんなクリスマスの贈り物を選ぶかは米国次第、と述べる。
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12月16日
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中ロが安保理で対DPRK制裁緩和の決議案を各国に配布。米国は時期尚早と反対。
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12月28日
~31日
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DPRK、朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会を開催。異例の4日間。金正恩、経済制裁の継続を自力更生で正面突破する戦略を強調。同時に戦略兵器の開発の継続を表明した。
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(森 (森山拓也、,梅林宏道)
注1 「朝鮮労働党中央委員会第7期第5回総会が行われる」(『朝鮮中央通信』日本語版、2020年1月2日)。http://kcna.kp/kcna.user.home.retrieveHomeInfoList.kcmsf「最高指導者の活動」から日付で検索。