2020/02/17

監視報告 No.21

監視報告 No.21  2020年2月17日

§韓国市民団体の声明に賛同するとともに、日本の市民社会の行動を訴える

朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の金正恩委員長が米国政府の「勇断」を待つ期限として予告していた昨年末が過ぎた。金正恩が、昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会総会で、米国が朝鮮に対する敵視政策を続ける限り「朝鮮半島の非核化は永遠にありえない」と宣言する一方で[1]、米国政府には敵視政策を撤回する気配はなく、朝鮮半島の平和と非核化を巡る米朝交渉の今後の行方が懸念される。
 しかしシンガポールでの首脳会談で米朝両首脳が約束した朝鮮半島の平和と非核化の実現を、私たちは諦めるわけにはいかない。米朝交渉がこのまま行き詰まるのを避け、朝鮮半島を非核化して地域の平和と安定を実現させるためには、金正恩委員長とドナルド・トランプ大統領の個人的な関係だけに頼るのではなく、私たち市民も行動する必要がある。関係国の市民社会が、それぞれの政府に対して朝鮮半島の平和と非核化のために必要な行動をとるよう、目に見える形で要求すべきだ。
 韓国の市民社会では、そうした動きが見られる。その一つとして、韓国の市民団体が北朝鮮・韓国・米国の3か国政府と国際社会に向けて発信した声明を以下に紹介する[2]。声明は、シンガポール合意を実現するために、米朝対話の再開と北朝鮮に対する制裁の緩和を求めている。
****

再び対決と敵対の時に戻ることは出来ません

 朝鮮戦争勃発70年となる2020年の新年に、朝鮮半島情勢は依然として視界の見通せない霧の中にあるようです。朝米交渉は大きな突破口を見いだせぬままこう着状態が続いています。去る1年間、南北間の対話や交流は一歩も進みませんでした。一方で「新たな道」を予告した北側は、最近[朝鮮]労働党全員会議を通じて「正面突破戦」を決議し、経済的自力更生[方針]と新たな戦略兵器の開発を強調しました。

 2018年に敵対と対決の時代を終息できるという希望を抱いたときから]2年も過ぎていません。周知のように朝鮮半島の平和の道は、絶え間なく忍耐を続け、話し合い、互いに信頼を築く過程でなければなりません。今私たちは、その途上に大きな困難が生じているという事実を直視せざるを得ません。だからと言って忍耐を捨て、対決を選んではなりません。今日、私たち市民社会は、いかなる場合にも決して板門店の南北首脳会談以前、一触即発の戦争の危機が高まったあの時に戻ってはならないという切羽詰まった思いでこの場に集まりました。私たちは、朝米と南北の対話が速やかに再開され、困難な中で果たされた南北、朝米の合意は必ず履行されねばならないという点を強調し、南北そして米国政府に次のように提案するものです。

朝米双方は、対話再開のための条件作りに努力しなければなりません。
 朝米は昨年のハノイ会談のみならず、6月の板門店会談後にも意味のある対話を進展させることが出来ませんでした。年末の朝米接触も結局成功に至りませんでした。シンガポールで朝米は、相互の信頼構築が朝鮮半島の非核化を促進できると宣言しましたが、このような合意は守られませんでした。とくに私たちは、北側が核・ミサイル実験凍結などを含む一連の措置[を取ったの]に比べて米国は、これに相応するいかなる信頼措置も見せなかったという事実に注目せざるを得ません。これは一括妥結にせよ、段階的、同時的履行にせよ、朝米間で接点が生じえない理由でもあります。私たちは、米国が事実上北側の「先非核化を要求」し時間稼ぎをすることにも、北側がミサイル実験などで軍事的緊張を作り出すことにも断固として反対します。北側と米国は、対話と交渉による朝鮮半島非核化の実現と平和体制構築の原則を明確にさせ、対話再開の条件を作るためにあらゆる努力を傾けねばなりません。私たちは、さらに大きな合意を可能にさせる米国の政治、軍事、経済的信頼構築措置を要求し、北側にもこれ以上の軍事行動を中止することを求めます。

国連と米国は、最低限の人道分野における対北制裁は中止しなければなりません。
 国連と米国は、対北制裁を維持し続け、さらに制裁を強化してきました。米国は、北側の優先的な非核化措置が無ければ制裁解除は不可能だという立場を取りつづけています。制裁は北側内部の弱者にまで悪影響を及ぼしているという事実も確認されています。制裁が問題解決の手段を越えている状況のもとで、朝米間の信頼構築はさらに困難となっています。制裁は南北の交流協力も完璧にまで阻止しています。私たちは「先非核化、後制裁解除」というやり方が朝鮮半島の核対立の解決に失敗してきた歴史が繰り返されないことを願っています。最低でも災害などの人道的[支援を]放置するような制裁措置は中断されなければなりません。国連の安全保障理事会も中国やロシアの制裁一部解除の決議案について積極的に論議し、朝米交渉の進展を引き出すことを要請します。

対話と 軍事行動は両立できません。
 私たちは、韓米合同軍事演習の延期決定が朝鮮半島平和プロセスを動かしたという事実を記憶しています。相手方を刺激し圧力を加える軍事的脅威と対決は、対話と交渉に何ら手助けをもたらしません。私たちは、韓米両国政府が3月に予定されている韓米合同軍事演習を中止する決断を下すことを求めます。韓米合同軍事演習の中止は、消えかかっている朝米交渉の火種を起こす措置となるでしょう。

南北の合意履行のため、韓国政府による決然たる措置を求めます。
 朝米交渉が中断すると南北関係も急速に滞ってしまいました。交流や協力事業をはじめ、南北が合意した事項は、国連と米国の対北制裁により一歩も進んでいません。本当にもどかしく息苦しいほどで、嘆かわしい状況です。開城工業団地と金剛山観光の再開、離散家族問題解決のための人道的協力、南北の鉄道・道路連結プロジェクトなどをこれ以上遅らせてはなりません。南北軍事共同委員会の構成など、軍事分野の合意履行も同様です。韓国政府は、南北協力事業のための広範囲な制裁免除をもっと積極的に要求し、自立性を発揮すべきです。困難でも政府が主導的に朝鮮半島の問題解決のための場を作り、現状を変えるための努力をすべきです。

私たちは、戦争を終息させ平和を創るための市民社会の責務を果たす所存です。
 今年は朝鮮戦争[勃発から]70年の年です。分断と停戦による対決と敵対が無限に再生産される悲劇はもう終わらせなければなりません。韓国の市民社会は、朝鮮半島の平和を創る当事者です。私たちには、対話と交渉を通じて、朝鮮半島の恒久的な平和体制構築と非核化が実現されるよう促進する責務があります。私たちは朝鮮半島の平和に対する韓国民の切迫した声を組織し、米国と北側のみならず国際社会に広く知らせていくつもりです。国際社会が私たちの平和のための行動に共に歩んでくれることを求めていきます。私たちは2020年が戦争を終わらせ、新たな平和の時代を切り拓く1年になるため、最善を尽くして行くことでしょう。

2020 1 7
6.15共同宣言実践南側委員会、対北協力民間団体協議会、民族和解協力汎国民協議会、市民社会団体連帯会議市民平和フォーラム、 韓国宗教人平和会議

****

 日本の私たちは、この声明に賛同する。同時に日本の市民社会における行動の必要性を痛感する。
朝鮮半島情勢は、隣国である日本の市民社会にも直接かかわる問題であるというだけではない。大日本帝国時代に朝鮮半島を植民地化した日本には、その後の南北朝鮮の分断と敵対に対して歴史的な責任があり、今も日本が提供する基地を拠点に米軍が朝鮮半島における戦争体制を維持しているという点では、現在的な関与と責任がある。私たちが暮らす北東アジアの平和と安定を願うなら、私たち自身も主体的に行動しなければならない。
私たちは、現在の局面において、日本の市民社会が次の行動を起こすことが有効であると考え、ともに行動することを呼びかけたい。 

  •  多くの市民団体や個人が連携して日本政府や国会議員事務所を訪問し、2018年板門店宣言、シンガポール米朝首脳共同声明が作り出した歴史的な契機を活かし、朝鮮半島並びに北東アジアの非核化・平和に関して日本政府が積極的に関与することを求める申し入れを行うこと。日本政府が、朝鮮半島に日本を加えた非核化を提案することが、そのような積極的な関与の方法の一つになる。
  • 日本、韓国、米国の市民団体・NGOが連携して国連安保理に対して米朝交渉を前進させるために、制裁決議に含まれている「継続的な見直し」条項(例えば安保理決議23972017)第28節)を活用した協議を行うこと、また、昨年末にロシア、中国が提案した制裁の一部緩和を求める決議案の採択に向けた努力を行うこと、などの要請を行うこと。
  • 自治体、宗教者、法律家、医師・医学者、ジャーナリスト・文筆家など、市民社会を構成する様々なセクターに働きかけて、この問題の日本にとっての歴史的重要性を訴え、可能な行動を促すこと。

(前川大)

1 『朝鮮中央通信』(日本語版、202011日)
2 韓国語版
日本語訳は大畑正姫さんによる。


監視報告 No.36

  監視報告 No.36   2022年12月26日 § 米韓合同軍事演習の中止表明が緊張緩和への第一歩となる    朝鮮半島の緊張緩和が求められている。  米韓合同演習は在日米軍・自衛隊を巻き込んでエスカレートし、朝鮮人民民主主義共和国( DPRK 、北朝鮮)は核戦力政策法を制...