2020/07/01

監視報告 No.23


 監視報告 No.23  2020年6月30日

§朝鮮戦争が終結すれば、現在の朝鮮国連軍は解散するのが道理である。

20184月、韓国と朝鮮民主主義人民共和国(DPRK、北朝鮮)は板門店宣言で、朝鮮半島の軍事的緊張を緩和し、非核化を含む恒久的平和体制を確立するために協力し合うことに合意した。さらに米朝も同年6月のシンガポールにおける米朝首脳会談における共同声明において、平和と繁栄のための新しい米朝関係を築き朝鮮半島に永続的で安定した平和体制を建設するという共通目標に合意した。板門店宣言では、休戦状態にある朝鮮戦争の「終戦」を年内に宣言すると合意し、トランプ大統領もシンガポール首脳会談後の記者会見において、「朝鮮戦争はもうすぐ終結する」と述べた。この2018年の2つの歴史的会談をきっかけに、19506月に勃発し、19537月に休戦協定が成立してから今にいたる朝鮮戦争の終結が、改めて具体的な国際的アジェンダとなった。
朝鮮戦争の終結は北東アジアの平和をめぐる環境を好転させる可能性を持つが、そのためには朝鮮国連軍の今後について慎重な合意を形成する必要がある。
朝鮮国連軍は、朝鮮戦争が始まった1950年に国連安保理決議によって創設され、現在も韓国に駐留するが、日本にも後方司令部を置いている。朝鮮戦争の休戦状態が戦争終結宣言や平和協定によって新しい状況に移行すれば、当然にも本来の朝鮮国連軍の任務は終了し、組織は解体される運命にある。一方、戦争終結後の平和維持のために朝鮮国連軍を残そうという議論が、米軍内に生まれている。
本稿では、朝鮮国連軍の誕生の経緯を改めて振り返りながら、朝鮮戦争終結後の朝鮮国連軍が取るべき道について考える。

「国連軍」と「朝鮮国連軍」
1950年に勃発した朝鮮戦争では、朝鮮半島の武力統一を図った北朝鮮による侵攻に対し、韓国軍を「国連軍」の旗を掲げた米軍を主体とする多国籍軍が支援した。この「国連軍」は国連憲章で定められた本来の国連軍とは異なるため、一般的に「朝鮮国連軍」と区別して呼ばれている。まずは、朝鮮国連軍と本来の「国連軍」の違いを明確にしておく。
国連憲章第7章(第39条~51条)は、国際平和を破壊したり、侵略行為があった場合、紛争の抑止や平和回復のための武力行使を認めており、そのための軍隊が国連軍であるとされる。国連憲章第42条は、平和の破壊や侵略行為を止めるために同第41条が定める経済制裁などの非軍事的措置が不十分だと安保理が判断した場合、安全保障理事会は国際の平和及び安全の維持または回復のために軍事行動を行うとしている。そして続く第43条は、「国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基きかつ1または2以上の特別協定に従って、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する」と定めている。つまり、各国連加盟国は安全保障理事会の要請に応じて、自国の軍隊の一部を提供することになっている。こうして各国から提供され、安全保障理事会に指揮される軍隊が、本来の国連軍である。
しかし、正式な国連軍はこれまで一度も存在したことがない。国連軍を構成するための各国の軍隊の提供は、第43条で言及された「特別協定」に従って行われる。この特別協定は1946年から安保理の助言機関である軍事参謀委員会(常任理事国の参謀総長またはその代理で構成)で構想が検討された。だが米国とソ連をはじめ各国の意見が一致せず、1948年に検討打ち切りとなった。したがって安全保障理事会に兵力を提供する特別協定を結んでいる国は存在せず、国連軍が組織されたことは一度もない。
 一方、朝鮮国連軍は、1950年に採択された安保理決議第828384号に基づいて設立された。当時の国連安保理で「中国代表権」を握っていたのは中華民国(台湾政府)であり、代表権をめぐってソ連は安保理をボイコットしていた。決議はそのような不完全な安保理で採択された。以下は、各決議の要点である。

    決議821950625日)[1
 北朝鮮による韓国への武力攻撃は平和の破壊を構成するものであると認定し、敵対行為の即時停止、北朝鮮軍の38度線までの撤退を求め、すべての加盟国に対し、この決議の履行にあたって国連あらゆる援助を与えることを求める。
    決議831950627日)[2
 北朝鮮の武力攻撃を撃退し、朝鮮における国際の平和と安全を回復するために必要と思われる援助を韓国に与えるよう、加盟国に勧告する。
    決議84195077日)[3
 加盟国によって提供された兵力およびその他の援助を米国指揮下の統一司令部に提供することを勧告し、米国に統一司令官を任命するよう要請する。統一司令部が北朝鮮に対する作戦中に、国連旗を使用することを許可する。

 朝鮮戦争が始まった1950625日、安保理は決議82号により、北朝鮮の行為は平和の破壊であると認定し、北朝鮮軍に撤退を要請した。しかし北朝鮮が従わなかったため、安保理決議83では、北朝鮮軍を撃退するために必要な援助を与えるよう加盟国に勧告した。そして77日の決議84では、加盟国の提供した兵力を米国指揮下の統一司令部に置くことを勧告したほか、統一司令部には国連旗の使用が許可された。この決議に基づき、725日に朝鮮国連軍司令部が設置され、ダグラス・マッカーサー米国極東軍事最高司令官が統一司令官に任命された。

ここで、韓国の支援や米国による指揮権についての安保理決議8384は、「決定」ではなく国連憲章第39条[4]に基づく「勧告」として採択されていることに注意する必要がある。前述のように、国連軍を構成するために必要な特別協定のプロセスは行き詰まっており、国連として「決定」することはできず、「勧告」以上に強い決議を挙げることは不可能であった。したがって、朝鮮国連軍を構成したのは国連加盟国から特別協定に基づいて提供された兵力ではなく、米国と深い結びつきを持つ15か国(英国、タイ、カナダ、トルコ、豪州、フィリピン、ニュージーランド、エチオピア、ギリシャ、フランス、コロンビア、ベルギー、南アフリカ、オランダ、ルクセンブルク)の兵力と米軍であった[5]。つまり、朝鮮国連軍の実態は、あくまでも米軍を中心とした多国籍軍なのである。

国連における朝鮮国連軍の解散をめぐる議論
 以上のように、朝鮮国連軍はその存在の根拠があいまいである。朝鮮国連軍が韓国に存在し続けることの是非については、これまでも度々議論の対象となってきた。
 まず、19537月に板門店で署名された朝鮮戦争の休戦協定は、以下のように全外国軍の撤退に向け交渉するよう勧告している。
 
停戦協定第4条:朝鮮問題の平和的解決を確保するため、双方の軍司令官は、双方の関係国の政府に対して、休戦協定が署名され、効力を生じた後3カ月以内に、これらの国の政府がそれぞれ任命する代表により一層高級な政治会議を開催してすべての外国軍隊の朝鮮からの撤退、朝鮮問題の平和的解決その他の諸問題を交渉により解決するよう勧告する[6]。

 実際に南北双方は、19544月から7月にかけジュネーブで開催された国際会議において、外国軍の撤退について協議した。しかし、韓国は195310月に米韓相互防衛条約に署名して米軍の韓国駐留を認めていた。ジュネーブでの交渉で北朝鮮は全外国軍の撤退を要求したが、交渉は成果を得られず決裂し、外国軍の撤退問題は解決されないまま現在に至っている。
 一方、中国は休戦協定締結後の19549月に人民志願軍の撤退を発表し、1958年までに全軍の撤退を完了した。米国以外の朝鮮国連軍参加国も休戦協定後に逐次に韓国や日本から撤退を開始し、19726月までに連絡将校などを除き全兵力の撤退を完了させた。
1957年に朝鮮国連軍の司令部が東京からソウルに移るとともに、米韓相互防衛条約によって駐留する在韓米軍司令官が朝鮮国連軍の司令官が兼務した。一方で朝鮮国連軍は19507月の大田協定で韓国軍の作戦統制権も握り続けた。197811月に米韓連合司令部が設置されてからは、米韓連合司令部司令官が朝鮮国連軍司令官を兼務することにより、朝鮮国連軍司令官がもつ韓国軍の作戦統制権は、米韓連合司令部の司令官が継承した。
 朝鮮国連軍の解体を求める議論は1970年代以降も国連内で続いた。1971年、中国の国連代表権が台湾から中華人民共和国に移ると、中国は朝鮮国連軍の解体をしばしば要求するようになった。また、1975年には国連総会でソ連など東側諸国が提出した朝鮮国連軍の解散と全外国軍の撤退を要求する決議第3390B7]が採択された。しかしそれに反対する西側諸国による決議第3390A8]も同時に採択されたため、決議の効果は相殺された。1991年に韓国と北朝鮮が国連に同時加盟を果たしてからは、北朝鮮が90年代を通じて安保理に対して朝鮮国連軍の解体を繰り返し要求した。だが朝鮮国連軍の解体が現実性を持って検討されることはなかった。
しかし冒頭で述べたように、2018年の南北・米朝首脳会談をきっかけに、朝鮮戦争終結が再び議論されるようになり、それに伴って朝鮮国連軍の扱いについても再び議論が求められる状況が生まれた。

朝鮮国連軍の「再活性化」
 ここで、米国による朝鮮国連軍「再活性化」(韓国では「維新」と呼ばれる)の動きに触れておく必要がある。朝鮮国連軍の「再活性化」とは、朝鮮国連軍司令官である在韓米軍司令官が2015年頃に開始した動きで、朝鮮半島における緊張が高まる中において、休戦後に形骸化している朝鮮国連軍を建て直す試みであり、米国以外の参加国に積極的な貢献を求めようとしている。
具体的な動きとして、20187月、朝鮮国連軍司令部は創設以降初めて、米軍ではなくカナダ陸軍のエア中将を副司令官に任命した。さらに、20197月にはオーストラリア海軍のメイヤー中将が副司令官となり、2代続けて米軍以外の将官が副司令官を務めることになった。副司令官以外にも、米軍は在韓米軍と朝鮮国連軍の兼職者を減らすとともに、英、豪、加などを中心に米国以外の朝鮮国連軍参加国の要員を増やしている。
米国が朝鮮国連軍の再活性化を目指す背景の一つには、韓国が米韓連合軍の戦時作戦統制権の返還を求めていることがある。米韓は2012年に米韓連合軍の戦時作戦統制権を韓国に返還することで合意したが、その実現は延期され続けている。文在寅大統領は、自身の任期である2023年までに戦時作戦統制権の韓国への移管を目指している。
米国は朝鮮国連軍を「国連軍」らしく他国の関与を強めることで、作戦統制権を韓国に返還した後も「朝鮮国連軍」司令官として朝鮮半島における軍事活動の主導権を握ろうとしているのではないかと考えられる。
このように朝鮮国連軍の再活性化を目指す米国やその同盟国には、朝鮮戦争の終結の後にも、朝鮮国連軍を存続させ、その大義名分を通じて米軍の影響力の維持を図かる意図があるとみて良いであろう。20192月、朝鮮国連軍のエア副司令官は、朝鮮日報のインタビューに対し、朝鮮戦争終戦後も「国連軍は恒久的平和体制が定着するまで継続的な支援の役割を果たす」「終戦宣言後も国連軍司令部は維持され、勤務要員は2倍から3倍に増える」と述べ、終戦後も朝鮮国連軍の役割は失われないと強調した[9]。

 以上で見てきた通り、朝鮮国連軍は本来の国連軍とは異なる存在であり、その成立の根拠は非常にあいまいである。ましてや、幸いにも朝鮮戦争が当事国の合意によって終結宣言に至ることになれば、その時点において朝鮮国連軍の役割もまた、いったん終了する、というのが、自然な論理的帰結であろう。
 朝鮮戦争の終結宣言のあとにも、平和維持のために何らかの国連が関与した部隊があることが望ましいという議論があることは承知している。その議論に反対ではない。しかし、戦争の当事国、とりわけ朝鮮半島の主人公である南北の当事国が、そのような部隊の存続を希望することが大前提となる。また、そのような部隊は「朝鮮国連軍」とはまったく異なる使命と役割と仕組みをもつものになるはずである。
 
 本稿は監視プロジェクトの討論を経ながら作成された。(森山拓也)
 
4 国連憲章第39条:安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従っていかなる措置をとるかを決定する。
5 当時国連非加盟国だった韓国は、1950715日の大田協定により、作戦指揮権を朝鮮国連軍に委ねた。
日本語訳は次の資料を参照。大沼久夫編[2006]『朝鮮戦争と日本』p.342.
9『朝鮮日報』201928日(韓国語)http://news.chosun.com/site/data/html_dir/2019/02/08/2019020800321.html# 

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